第80話 ずれ

「なんじゃい!このヒョロガリ見た目と違って強いんかい!生意気な!」


ぴよ丸が勝手に融合を解いたかと思うと、田吾にドストレートの悪口を放り込む。


まったく何考えてんだこいつは。

わざわざ聞こえる様に出て来て言うな。


「ああ、すいません。こいつウルトラ馬鹿なんで、気にしないでください」


「ふふ、気にする必要はありませんよ。実際、私の見た目は貧弱極まりませんしね。それに少し前までは大した力もありませんでしたから」


「はぁ……」


どうやら全く気にしてはいない様だ。

助かる。


「少し前までって事は、何か強力なスキルでも覚えられたんですか?」


「ええ。3か月ほど前、私にとても素晴らしいスキルが神より与えられました。その名も……トラップマスター!そう!あの日から私はトラップの支配者になったのです!」


感極まったかの様に、田吾が両手を大きく広げる。

その手が山路幸保やまじゆきやすに当たって凄く嫌そうな顔をしていたが、彼は特に気にとめていない。


正に悦に入るって感じである。

新しく手に入れた自分のスキルが、それだけ誇らしいって事なのだろう。


「トラップの支配者じゃとう?つまり地雷男という訳じゃな!」


ぴよ丸がまた余計な事を口走る。

コイツは全く。


「まさにその通りです!私こそが地雷男!地雷最高!」


地雷プラス性別呼びは普通なら悪口なのだが、田吾には褒め言葉になる様だ。


「田吾ちゃんの使うスキルの地雷、凄く強力なのよ」


「まあコストはかかるが、冗談抜きで強力だぜ。トラップマスターは。今回SSダンジョン攻略に乗り出そうってなったのも、田吾先輩のスキルあってこそだ」


岡町と山路がべた褒めする。

SSランクダンジョンへの決め手になる程なら、そうとう優秀なスキルなのだろう。


「はぁー、俺もユニークスキルが欲しいぜ」


「その前にレベルの限界でしょ。何とかして乗り越えないと」


結構な人間が、最初の壁を越えられないと言う。

どうやら、二人もレベルの壁に阻まれている様だ。


「なんだ、お前達はレベルの壁を越えたいのか?」


「え、ええ。まあそうだけど……ひょっとして、アングラウスちゃんは越え方を知ってるのかしら」


「まあなくはないぞ」


どうやらアングラウスは壁の越え方を知っている様だ。

本当に多彩な奴である。


「本当か!?」


「お願いよ!教えて頂戴!!どうすればいいの!?」


山路と岡町が椅子から立ち上がって、必死の形相でアングラウスに迫る。


「我のスキルでなら可能だ。ま、多少難はあるがな」


「お前さんのスキルでか!?どんな使い魔だよ!?」


岡町が俺の方を見る。

一応、俺の使い魔って事になってるからな。

アングラウスは。


「まあ凄く特殊な奴なんで……」


事実を言う訳にも行かないので、適当に濁した返事を返しておく。

まあこの人らは余計な詮索はしてこないので、遠回しに聞くなって言っておけば大丈夫だろう。


「そうか。まあいいや。頼む!アングラウスに俺の壁を突破させてくれ」


「あたしもお願い」


二人が迷わず床に土下座する。

余程レベルの壁を突破したいのだろう。


「願いを叶えたくばマヨネーズを献上せい!」


「はぁ……お前は黙ってろ」


「ほぎゃ!」


こいつが加わると話がややこしくなるので、俺の頭の上に乗ったぴよ丸の顔面を掴んで黙らせる。


「えーっと、頭を上げてください。アングラウス的にはどうだ?」


決めるのはアングラウスなので、俺に頭を下げられても困る。

まあ侵略者と戦うにあたって戦力は多い方がいいに決まってるので、聞くまでもなくオーケーを出すだろうとは思うけど。


「構わんよ。だが、スキルで突破するのは想像を絶する苦痛を伴う事になるぞ」


想像を絶する苦痛か……

アングラウスがそういう位なのだから、きっと相当な物だろう。


「どんな苦痛だろうと、耐え抜いてやる!」


スパっと男らしく決断する山路。


「え、えっと……私もそのつもりなんだけど……因みに、それってどれぐらいの苦しみなのかしら?」


方や岡町の方は、恐る恐る苦しみの程をアングラウスに尋ねた。

こっちは余りにもひどい様なら、諦めようと考えているのかもしれない。

まあ選択は人それぞれだ。


「うむ、そうだな。体験した者の話だと……全身の皮を剥いで、熱した鉄柱で全身を骨も折れそうな勢いで殴打されまくる様な痛みと言っておったな。まあそれが数時間続く感じだ」


「……」


「……」


「……なんだ。言う程でもないんだな」


拍子抜けして、ポロリと本音が漏れる。


アングラウスが想像を絶する苦痛なんて言うから、どれ程の物かと思えば……

まったく大げさな話だ。


「え?」


「は?」


「へ?」


何故か山路達三人が、驚いた様に此方を見てくる。

俺の背後で何か起こったのかと思い、振り返って確認するが特に何も見つからない。


彼らは一体なにに驚いたんだろうか?


「?」


その理由が分からず、俺は首を捻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る