第76話 別れ

――空港。


魔力による肉体成長の訓練が完了した為、エリス達は今日イギリスへと帰国する。


「今までお世話になりました、師匠」


エリスがそう言って、アングラウスへと頭を下げた。


「約束通り、ちゃんとレベル上げを頑張るのだぞ」


やがて異世界との戦いが始まる。

その戦力として、アングラウスはエリスに期待していた。


まあ、彼女の魔法攻撃は人類最高峰だからな。

因みに、見送りに際してアングラウスとぴよ丸は人型となっている。


「はい。分かってます」


「イギリスに来ることがあったら、気兼ねなく訪ねて来て欲しいっす。歓迎しますから。ぴよ丸ちゃんには、イギリスのマヨネーズをもりもり振る舞うっすよ」


「アイラブマヨネーズ!」


マヨネーズと聞いて無駄にテンションを上げるぴよ丸の頭を、エリスとミノータが名残惜しそうに撫でる。


この二人は、何だかんででぴよ丸の事を気に入っていたからな。

というか、コイツ結構女性受けはいいんだよな。

謎だ。


「まあ大丈夫だとは思うけど、ダンジョンでは気を付けてくれ」


何を気を付けるのかと言うと、もちろん異世界から来た侵略者共だ。


アングラウス曰く『恐らく単独ではないだろう』との事なので、百々目鬼以外にも異世界の化け物が此方に来ている可能性は高い。

そして当然、その強さは百々目鬼に匹敵すると考えるべきだ。


もしそんな奴にダンジョン内で襲われたら、エリス達の様な超高レベルプレイヤーを大量に抱えるギルドでも相当きついはず。


まあ、襲われる可能性は極めて低いというのが俺達の出した見解ではあるが……


その理由は二つ。

一つは、協会の上げる全滅報告が特に増えていない点があげられる。


化け物とダンジョン内で遭遇したなら、ほぼ全滅確定と言っていい。

なのでもし奴らが活発に活動していたなら、今頃きっと相当数の全滅報告が上がっているはずだ。


だがここ最近で全滅が確認されているのは、ドイツのSSランクダンジョンだけ。

ドイツの全滅に関わっているかどうかまでは定かではないが、少なくとも、侵入者が活発に破壊活動に興じていないのだけは確かである。


ほぼ制限なく入れて、協会側に入出記録の残らないFやEランクダンジョンで暴れている場合はこの限りではないが……


まあ流石にそれはないだろう。

あれ程の化け物が、わざわざ底辺プレイヤーを進んで狩ったりはしないだろうし。


で、だ。

も一つの理由は――


百々目鬼の死である。


潜入に際して、まず間違いなく侵入者達は横のつながり――何らかの連絡手段を持ち込んでいる筈だ。

そして百々目鬼からの連絡や反応が無くなれば、当然他の奴らはその死を知る事になる。


――自分達と同レベルの存在が狩られた。


その事実は、侵入者達の行動を確実に縛りつけるだろう。

なにせ下手に動けば、最悪百々目鬼の後を追う事になりかねない訳だからな。


という訳で。

元々活動的でなかったのと合わせて、百々目鬼の死がブレーキになって余程の事がない限り襲われる心配がないというのが、俺達の見解となっている。


「万一出てきたとしても、返り討ちにしてやるわよ。気高き翼ノーブルウィングを舐めて貰っちゃ困るわね」


「そうっす!何せうちには聖女と聖騎士。そして最強の魔砲……がいるっすから!」


「少女を強調して言うな!」


ミノータの頭をエリスが軽くはたく。

今の彼女は大人の姿だ。

もちろんその胸も、盛に盛られている。


「エリスちゃん。そんなポンポン人の頭を叩いてたら、見た目が大きくなっても大人の恋は夢のまた夢っすよ」


「ぬぐぐぐ、確かに……」


「精進するっす」


「腹立つわね。まったくアンタは」


相変わらず仲の良い二人である。


「じゃあ時間みたいっすから、私達はこれで」


「妹さん、早く目が覚めると良いわね。それじゃまたね」


「ああ、またな」


「必ずマヨネーズを用意しておくんじゃぞ!」


搭乗ゲートを潜り、二人の姿が見えなくなる。

それ程長い付き合いではなかったが、人と別れるのはやはり寂しく感じる物だ。


「さて、じゃあ帰ったら6つ目を繋ぐ作業に戻るとするか」


今の俺は、命を6つ繋げる事が出来る状態になっていた。

これほど短期間でそれが可能になったのも、この前の百々目鬼との戦いのお陰である。


まあ正確には、その時に使ったぴよ丸の中に封印されていた力のお陰だ。

あの謎の力が俺に大きく作用し、これほど短期間で追加の命を繋げるられる様になっていた。


「その前にマヨネーズじゃ!」


「分かった分かった」


俺はぴよ丸を抱き上げ、家へ帰る前にスーパーへとよる。

マヨネーズを大量に買い込むために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る