第75話 スキル進化

「我が名はぴよ丸!マヨネーズを極めし者!!」


ぴよ丸はあれから一週間ほど意識不明だったので少し心配していたのだが、その心配は完全に無用だった様だ。

俺は頭の上に手をまわし、乗っているぴよ丸を片手で乱雑に掴んでそこから降ろす。


「勝手に頭の上に乗るな。後、何で体そんなに光ってるんだ?新スキルか?」


ぴよ丸の翼の部分は、輝く炎へと変わっていた。

恐らくファイヤーバードの亜種スキルでも覚えたのだろう。


「ワシのファイヤーバードが奇跡の進化を遂げ!ゴッドファイヤーバードになったんじゃ!すごかろう!すごかろう!マヨネーズくれ!」


「スキルが進化したっすか。じゃあぴよ丸ちゃんのファイヤーバードはユニークスキルだったんすね」


「スキルの進化?」


ミノータの言葉に、俺は『ん?』となる。

スキルが進化するというのは初耳だったからだ。


「まあ貴方がスキル進化を知らないのも無理ないわね」


ぴよ丸を俺の手からエリスが奪い取り、そのまま抱っこする。

その胸元は見事に山なりの曲線を描いており、彼女のこの一週間の努力の成果を物語っていた。


「ユニークスキルは、特定の条件を満たすと進化するって言われてるっす。ただまだ条件がよく分かってない上に、進化させられた例がとんでもなく少ないんで一般には知られてない感じっすね」


「なるほど」


俺のスキルに関する知識は、ほぼ一般人レベルだからな。

世間的に出回ってない情報なら、知らないのも当然である。


「て事は、ぴよ丸の新スキルはレジェンドスキルなのか?」


ユニークが進化したなら、その先はレジェンドスキルと考えるのが妥当だ。


「進化しても別にスキルの等級が上がる訳じゃないわ。単に、より強いスキルになるだけよ」


「ああ、そうなのか」


「いや、スキルによっては等級自体上がる事もある」


「え?本当ですか師匠」


「んむ。それとユニークだけでなく、レジェンドスキルも進化するぞ」


どうやらスキルの進化に関しては、エリス達よりアングラウスの方が詳しい様だ。

こいつ、ほんと何でも知ってるよな。


「アングラウスは進化条件とかも知ってるのか?」


「個別に必要な詳しい条件なんかは、流石に我も知らん。だが大抵のスキルは熟練——要は使用回数が影響すると言われているな。ああ、言うまでもないとは思うが……レジェンドスキルの進化はユニークスキルの比ではないぞ」


使用回数か……


【不老不死】なんかの、パッシブのスキルはどういった扱い何だろうか?

そもそも進化しないとか?

まあ【不老不死】なんかは進化しようがないと思うので、俺には関係ない話ではあるが。


「悠よ。お前の【不老不死】もちゃんと進化するぞ」


「え?そうなのか?」


まるで俺の考えを読んだかの様に、いや、実際読んだのだろう。

アングラウスが【不老不死】が進化すると言って来る。


「何がどう進化するのか、想像もつかないんだが?」


「レジェンドスキルは進化すると、デメリットが無くなると聞く」


「え!?マジか!?」


いやあったんかい!

レジェンドスキルのデメリット解消方法は無いとばかり思ってたのに。

つうか知ってたんなら教えろよ。


「本当ですか師匠!?じゃあ私は別に今の方法じゃなくて、スキルを進化させれば本物の大人になれるって事ですか?」


エリスがアングラウスの言葉に食いつき、驚きで集中力が途切れて姿が一瞬で子供に戻ってしまう。


――彼女は魔力のコントロールで大人の姿を手に入れはしたが、所詮それはまやかしに過ぎない。


維持するには大量の魔力と集中力が必要で、今のままでは四六時中変身などできず。

戦闘時にその姿を維持するのは夢のまた夢だ。

他に根本的な解決方法があるのなら、食いつくのも無理はない。


「無理だな」


「え?」


「さっきも言ったが……レジェンドスキルを進化させる難易度は、ユニークスキルの比ではない。条件を満たすのはほぼ不可能。だからこれまで我はそれを口にしなかったのだ。簡単に達成できる様な物なら、とっくに教えてる」


……成程。


ユニークスキルですら一般に情報が出回らない程稀有なのだ。

それ以上の条件であるレジェンドスキルの進化は、確かに無理げーに近いのだろう。


俺だって一万年間ダンジョンに籠ったってのに、進化してない訳だし。

まあ俺の場合は、熟練以外の条件が満たせてなかったって可能性もあるけど。


「くう……無念……」


アングラウスの言葉にエリスが両ひざと片手を床に付け、orzのポーズで落ち込んでしまう。


大げさな反応だなとか思ったが、そういや最初気絶したな。

エリス。

彼女は少々メンタル面に難ありだ。


「ぬぐぐぐ……狭いんじゃ!」


小さくなったエリスに片手で抱えられていたぴよ丸は、床とエリスに挟まれる形だ。

身をよじったりして、頑張って彼女の手から逃れて這い出して来る。


「ワシ!奇跡の大脱出!さあマスター!マヨネーズで祝杯と行こうではないか!」


本当にぶれないな奴である。


「極めたんならもういらんだろ。今日からは他のもの食べたらどうだ?」


「それはそれ!これはこれじゃ!ワシは更なる極みの先を目指す!だからマヨプリーズ!」


そもそもマヨネーズを極めるってなんだ?


そんな事を考えつつ。

まあ一週間も寝たきりで何も食ってないんだし腹も減ってるだろうと、俺は大量に買い置きしていたマヨネーズをぴよ丸に与えるのであった。


「んまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんま」

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