第59話 変身!
エリスの練習は長時間できる様な物ではないので、見舞いから帰ると彼女達はもう宿に帰っていた。
「変化は特にないみたいだな」
ぴよ丸の卵の様子を確認する。
見た目的には特に変わった様子は見当たらない。
「いや、その気になればぴよ丸はいつでも出て来れるぞ」
「へ?そうなのか?」
「卵に耳を当てて見ろ」
アングラウスに言われて卵に耳を当てる。
すると中から可愛らしい寝息の音が聞こえて来た。
「なるほど……」
中で寝息がかけるぐらいだし、確かにいつでも出て来れる様な状態なんだろう。
「今日の午前中にはもうその状態だった」
「午前中から?」
今はもう夕方だ。
出て来れる状態だったなら、何故さっさと出て来ないのか?
意味が分からない。
「悠を待っていたのだろうな」
俺が不思議に思い首を捻ると、アングラウスがそう言って来る。
「俺を待ってた?」
それはそれでますます意味が分からない。
仮にそうだったとして、いったい何が目的で待っていたというのか?
「分からんか?鈍い奴だな。進化と言うのは生まれ変わりの様な物だ。卵から出て来るその瞬間を、お前に見て貰いたかったという事だ」
「俺に?いや意味が分からん」
仮にアングラウスの言う通り、進化の瞬間が大事な物だったとしよう。
だがそれを俺に見て貰いたいと思うその意図が全く分からない。
「ひょっとして……俺が感動してマヨネーズをねだり易くなるとか考ええてるとか?」
奴の思考は全てマヨネーズありきだ。
それ以外思い浮かばない。
「やれやれ……アレにとってお前は親の様な物だ。子が親に自分の晴れ姿を見て貰いたいと思うのは当然の事だろうに」
「俺が親?」
鳥のヒヨコは生まれた時に目にした物を親だと認識するとは聞くが、ぴよ丸もそうだという事か?
確かに出てきて即「お主がワシのマスターか?」とか聞いては来たけど、ぴよ丸は性格に難こそあれ、鳥と違ってかなり知能が高い。
そんな単純な思考だとは思えないんだが。
「まあいい。声をかけてやれ」
アングラウスが心底呆れたという風に、投げやりにそう言って来る。
少々釈然としないが、気にせず卵を軽く叩いて俺はぴよ丸に声をかけた。
「おい、ぴよ丸」
すると卵ががたんと大きく揺れる。
その揺れは次第に激しくなっていき、周囲に亀裂が走ったかと思うと――
「ワシがぴよ丸じゃい!」
――からの上半分が吹き飛び、中からぴよ丸が飛び出して来た。
「……何も変わってないな」
その姿は丸々太ったヒヨコのままだ。
本格的な進化と聞いて姿形が大きく変る事を想像していたのだが、痩せてすらいない真ん丸の姿のままだった。
なんのために卵になったんだ、こいつ?
「何と!マスターは我が変化が分からんのか!?嘆かわしい!!」
嘆かわしいとか言われても、全然変わって――
「……ん?」
ぴよ丸の姿をまじまじと眺めて気づく。
「あれ?ひょっとしてデカくなった?」
進化前はバスケットボールだいだったぴよ丸の体が、一回り大きくなっている事に。
明らかに卵よりデカくなっているその体。
一体どうやって詰め込んでいたのやら。
「その通り!ワシは一皮むけたんじゃ!恐れ入ったか!」
ぴよ丸が、体に比べて相変わらず小さな羽を広げて胸を張る。
たんにデカくなるだけならわざわざ卵にならなくて良くね?
そう思わなくも無かったが、まあ本人は満足そうなので口にするのは止めて置く。
「まあこの際見た目は置いておこう」
「何故見た目を置いておく!?」
「まあ気にするな。それより、進化したって事は何か新しくスキルが使える様になったって事だよな?」
姿形はこの際どうでもいい。
余程気持ち悪い化け物みたいな姿にならない限りは。
重要なのは、スキルだ。
「ふふふ、相変わらずマスターはワシに興味津々じゃのぅ」
なにを思ったか、ぴよ丸がくるりと横に体を回転させる。
まあ正確には、させようとして足をもつれさせ、その場ですっ転んだ訳だが。
「むう、これが進化の重み。ワシは間違いなく成長しておる!」
横回転も満足に出来ない。
完全に残念な方向に成長してるがな。
「マスター!抱き起してくれ!」
「へいへい」
自力で起き上がれないぴよ丸を抱き起してやる。
腕に伝わる重み。
サイズアップに伴い、体重も確実に増えている様だった。
何も食べていないのに体積と体重が増えるのは本当に謎である。
「センキュウじゃ!お礼にワシの新たなスキルを見せつけてやろう!グレートフォームチェンジ!」
ぴよ丸の体が光る。
そして光の中で、その姿が大きく変わっていく。
――人型へと。
「これがワシの新たなる力!グレートフォームチェンジじゃい!」
光が収まると、そこには金髪の可愛らしい幼女姿に変わったぴよ丸の姿があった。
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