第50話 方法が
「それであの……レジェンドスキルのデメリット解除方法って、本当にないんすか?」
リビングのソファにエリスを寝かし、糸目の女性――ミノータ・グラノーラに紅茶を出したところでそう尋ねられる。
エリスには魔眼でレベルが見えていたから一目瞭然だったが、彼女はそうじゃないからな。
実はあるんじゃないかと勘繰るのも無理はない。
「報酬の方も、頑張ればもう少し出せなくもないっすから……」
「いや、悪いけど冗談抜きでそんな情報はないんで。実際、俺のレベルは1のままですし。エリスさんにはそれが見えていたから、あれだけショックを受けたんじゃ?」
まあ速度十分の一は、第一線で戦うプレイヤーにとって結構重いペナルティーだからな。
それが解除できると思って意気揚々日本にやってきたらガセだった。
ショックなのも無理はない。
……気絶するのは流石にちょっとショック受けすぎな気もするが。
「そうですか……」
俺の説明にミノータががっくりと肩を落とす。
しかし彼女……見れば見るほど、その細さでちゃんと前が見えてるのか気になってしまう。
いやまあ見えてはいるんだろうけど。
普通に行動してるし。
「実はエリスちゃん、ずっと自分の容姿に苦しんでるんすよ」
「容姿に苦しむ?」
「【魔砲少女】のデメリットのせいで、ずっと子供の姿なんす。エリスちゃん」
「ああ……」
そういや速度だけじゃなく、【魔砲少女】には幼い姿に固定されるってデメリットがあったな。
女性は何時までも若々しく見られたいと聞くが、流石に10歳ぐらいの容貌だと若過ぎる訳か。
「エリスちゃん、凄く結婚に憧れてるんすよ。でもあの見た目じゃないすか。なかなか相手が見つからなくて……同年代の友人知人の結婚式から帰って来る度に、お酒を飲んで『私だって成長さえ出来てれば』って愚痴ってる姿がもう見てられないんすよね」
「酒を……ああいや、問題ないのか」
子供が酒を?とか思ったが、エリス・サザーランドは確か俺より年上だったはず。
ならビジュアルはともかく、酒を飲むこと自体は問題ない。
因みに、年上ってのは巻き戻った現在の俺の話な。
巻き戻る前も含めたら一万歳超えてるけど、流石にそれはノーカンでいいだろう。
「今回日本に来たのも、そんなエリスちゃんのせつない願いを叶えるためだったんす……」
ミノータが訴えかける様に、その細い目で俺をじっと見つめて来る。
ここにきて、彼女が急に聞いてもいないエリスのプライベートな話をしだした理由に気付いた。
――そう、これは泣き落としである。
どうやら彼女は、突破方法がないという言葉をまだ疑っているみたいだ。
だが情報はガチでない。
なのでどんな手を使っても無駄である。
後……ぶっちゃけ、今のエリスの話に俺はそこまで同情してないし。
姿形が化け物だってんならともかく、ただ子供のままってだけだだからな。
結婚が出来ないのが辛い?
しるかよ。
生き死にがかかってる訳でもあるまいし、俺から見たらただの子供の我儘レベルだ。
「その内、ありのままのエリスさんでいいって人もきっと出てきますよ」
なので、適当にそう返しておいた。
興味なし。
「ありのままのエリスちゃんを好きになる人って……それ、単なるロリコンじゃないっすか?」
「そうですね」
鋭い指摘ではある。
だが別にロリコンでいいじゃんと、俺は思う。
「でも別に犯罪じゃない訳だし、受け入れればいいだけでは?」
児童性愛が駄目なのは相手が子供だからであって、見た目が子供なだけの大人なら犯罪でも何でもない。
それが嫌だと言うのは所詮好みの問題。
つまりただの我儘だ。
それこそ俺の知った事ではないというもの。
「それは流石に酷っすよ……エリスちゃんは大人の恋がしたいんす」
全ての人間が十全を備えている訳ではない。
足りないものを諦め、色んなものを切り捨てて生きていくのが大人という物だ。
ならば拘りを切り捨ててパートナーを選ぶのも、十分大人の恋だと俺は思うのだが?
「大人の恋か……それは大人の姿にさえなれればいいと言う事か?」
それまで黙っていたアングラウスが口を開いた。
「取り敢えず本人の望みはそうっす」
「なら、何とかしてやれん事もないな」
「本当っすか!?やっぱりレジェンドスキルの突破方法はあったんすね!」
なんとかしてやれるって言葉を、ミノータはイコール突破方法と考えた様だが、勿論そんな訳はない。
もしあるなら、俺が真っ先にアングラウスに教えて貰いたいぐらいだ。
別口の強化があるとは言え、レベルが上がっても損は全くない訳だからな。
「いや、それはないですよ。さっきも言いましたけど、突破方法はありません。それとは別の方法です」
「んむ」
「そうなんすか?ああでも、このさい別に何でもいいっす。きっとエリスちゃん喜ぶっすよ。エリスちゃん!気絶してる場合じゃないっす!大人の姿になれるっすよ!」
ミノータが立ち上がり、ソファの上で気絶しているエリスを揺する。
すると――
「なんですって!」
――エリスはカッと目を見開き、勢いよくソファの上で立ち上がった。
その勢いで彼女にかけていた厚手の毛布が宙を舞い、テーブルにかぶさる。
うん、テーブルの上に乗ってる紅茶とかしっちゃかめっちゃかだ。
何しやがんだ、このクソガキは。
はた迷惑極まりない。
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