第36話 仲介

「Cランクの登録をお願いします」


俺はCランクダンジョン『草むら』攻略の証である紋章を受付の女性に見せ、攻略者証を提出する。


「ランクアップ登録ですね。畏まりました。えーっと、お名前は……あっ」


攻略者証に書かれた俺の名を見て、営業スマイル全開だった受付の女性が表情を変える。


「しょ、少々お待ちください」


そして内線を使ってどこかに連絡を取った。


「何か問題でも?」


「ああ、いえ。支部長が顔様に是非お話があるそうでして」


「……」


内容はまあ考えるまでもないだろう。

例のニュースになった、レジェンドスキルの突破方法についてだ。

攻略者を管理する組織なのだから、関連の情報に興味を持つのは当然の事である。


そして権力や権限を持つ者が、それを利用してなんとか情報を得ようとするのも至って普通の事だ。


「直ぐに支部長が参りますので」


「分かりました」


そんな事で『少々お待ちください』なんてやってないでサッサ仕事しろと言ってやりたい所だが、俺が来たら支部長に連絡するのも彼女にとっては仕事なのだろうと思い、止めて置く。

上に従うしかない末端である人間に、文句を言うのは理不尽以外何物でもないからな。


「どうも初めまして、顔様。わたくし、この支部の責任者をさせて貰っている桂木と申します」


カウンターの奥の扉から出て来たのは見事なバーコード状の禿げ頭をした、人の良さそうな笑顔のおっさんだった。

まあ頼んでも無いのに勝手にやってきて、自分の目的のために挨拶してくる奴が良い人な訳もないとは思うが。


「俺に何か御用ですか?」


「実は折り入ってお話させて頂きたい事がございまして、もしよろしければ少々お時間頂けないでしょうか?」


明らかに突き放す感じで尋ねたのだが、支部長は気にした様子もなく朗らかな笑顔で用件を伝えて来る。

まあ支部のトップにまで上った人間だし、ちょっと突き放した程度じゃ効かんか。


無視して去ろうにも、まだランクアップの登録は終わっていない状態だからなぁ……


「お話と言うのは、例の情報をお伺いする事ではございませんのでご安心ください。どうかお話だけでも聞いて頂けませんでしょうか?」


俺が渋い顔をしていると、支部長がそういって頭を下げた。

レジェンドスキル突破に関して聞きたいんじゃないのなら、一体俺と何が話したいというのだろうか?


「わかりました。でも、手短にお願いします」


それがちょっと気になったので、取り敢えず話だけ聞く事にする。

まあ違うと言っておいて実はやっぱり情報の事って可能性もあるが。


「ありがとうございます。では此方にどうぞ」


支部長に応接室に案内される。

そこのソファに腰をかけ、勧められたお茶を飲んだ。


「それで?お話と言うのは?」


「はい、実は顔様にお会いしたいという方が当支部に来られまして」


携帯の番号を変えて俺と連絡を取れなかった奴らが、最寄りの支部に仲介役を頼んだ訳か。

結局、情報関連の話じゃねぇか。


「本来なら、当支部ではそういった案内や顔つなぎは致しません。ですが、事情が事情のお方でしたので」


「事情?」


事情がある?

いったいどんな事情だ。


「顔様は十文字昴じゅうもんじすばる様の事は御存じでしょうか?」


「知っています」


世界ランキング2位の人物だ。

当然知っている。


そうか、彼女か……


「先日当支部にいらっしゃいまして、どうしてもと頭を下げられたのです。彼女はその……スキルの反動で寿命の問題がありますので」


他のレジェンドスキル持ちの奴らは、仮にデメリットを無くせなくとも死ぬ訳ではない。

それに対して十文字昴は命に直結している。

だから支部長も気を利かしたという訳か。


「私にも、彼女と同じぐらいの娘がおりまして。なので放っておけなかったと申しましょうか。どうか彼女に、一度会ってあげては頂けませんでしょうか」


桂木が頭を下げた。


「……」


十文字の命を救う方法を、以前アングラウスと話した事がある。

レジェンドスキルのデメリットの突破は出来ないが、あれが上手く行けば彼女を延命させる事も可能だろう。


だがここで分かりましたと答えたら、噂は本当ですと答える様な物だ。

協会の支部長にそう宣言するのは流石に戸惑われるが……

俺がガンガンランク上げてる時点でまあ今更か。


「分かりました。但し、今日この場であった話は他言無用でお願いします」


一応口止めはしておく。

それこそまったく意味はないだろうが。


「もちろんです!ありがとうございます!」


俺は十文字の連絡先を聞き、Cランクに登録されたプレイヤー証を受け取って支部を後にする。

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