第35話 ドン引き

「今回も宜しく頼む」


幸保が話を通してくれたので、俺はアリスのボス戦に参加する。


「猫はなしだからね!」


「ああ、分かってる」


但し参戦に際し、アングラウスの参加は無しである。

魔竜に戦わせると一瞬で終わり、アリスの実践訓練の妨げになってしまうからだ。

後、彼女のプライドの問題だな。


この場合、アングラウスが倒さないと確定レアドロップが発生しないという問題があるが、そもそも今回は譲る予定なので気にする必要はないだろう。


「ギチギチギチギチ!」


俺の参戦に反応して、キリングバッタがお供を召喚した。

その数5匹。

さっきまでアリスが戦っている時は4匹だったが、今回は1匹増えている。


こいつは戦っている相手の数によってお供の数を変動させるので、そのためだ。

まあ一匹増えた所で大した違いはないが。


『ワシの出番じゃな!ファイヤーバード!』


ぴよ丸がスキルを発動させ、指先から炎が迸る。

明らかに以前よりその火勢は上がっていた。


命が増えた事で俺の力が上がったのもそうだが、どちらかと言うとぴよ丸の進化でスキルのレベルが上がった影響の方が大きいだろう。


「はっ!」


炎を剣の形にして握り、俺は手近な取り巻きの一匹を炎の剣で切り裂いた。


「あぶない!」


そこにキリングバッタが突進して来る。

俺がそれを全く躱そうとしないのでアリスが声を上げるが、別に不意をつかれて動けない訳ではない。

突っ込んで来てくれるなら大歓迎なだけだ。


何せ此方は不死身な訳だからな。

攻撃を躱す必要などないのさ。


「はぁ!」


相手の俺は手の中の炎の剣を、突っ込んで来たキリングバッタに突きこんだ。

剣が奴の顔面に刺さるが、その突進は止まらない。

そのまま俺は巨体による突進で吹き飛ばされ、さらに奴は大きく跳躍して――


「ぐっ……」


倒れた俺に飛び掛かって来た。

胴体を前足で踏みつけられ、そのまま奴の鋭い咢が俺の顔面に噛り付き顔の半分を喰われてしまう。

だが俺はそんな事などお構いなしに、手にした炎の剣を奴の体に付き込んでやる。


痛くないのかだって?


もちろんしこたま痛い。

だがそれだけだ。


俺がエターナルダンジョンで過ごした1万年間はこんな事の連続だった。

なんなら三十秒に一回のペースで体を粉々にされたなんて事もある。

それに比べれば、顔面を喰われるぐらいどうって事など無い。


「今助けに!」


「俺は不死身だから気にしなくていい!取り巻きを頼む!」


アリスが俺を助けるためにこっちに駆け付けようとするが、俺はそれを制止して取り巻きの始末を勧めた。

彼女から見ればピンチに見えたのだろうが、俺にとってこの状況は平時でしかない。


「ぎぎぎぃぃぃぃ!!」


俺が不死身である事を知らないキリングバッタが、此方を殺そうと狂った様に噛みついて来る。

その度に俺の体が噛み千切られるが、同じ数だけこっちも剣で切りつけてやる。


……タフな奴だな。


かなり攻撃しているが、まだまだ死ぬ様子はない。

元気に攻撃を続けて来る。

流石Cランクダンジョンのボスだ。


『マスター。ブリンク使って脱出する?』


ぴよ丸がそう聞いて来る。


「いや、大丈夫だ」


ブリンクを使えばこの下敷き状態からは脱出はできるだろうが、それをする意味はない。

キリングバッタは素早いのでむしろこの状態から出してしまうと、攻撃を当てるのが難しくなって逆にマイナスだったりする。


なので、実はマウントを取られるこの状況こそが俺にとってはベストだった。

ザ・逆マウントと言った所か。


攻撃しながらチラリと視線を動かすと、アリスが取り巻を始末し終えたのが見えた。

彼女もじきキリングバッタへの攻撃に取り掛かるだろう。

そうなると流石にこいつもこの状態をキープしてはくれないだろうから、今のうちにダメージを出来るだけを与えておくか。


――俺はエクストリームバーストを発動させる。


『ふぉぉぉぉぉ!漲って来たぁぁぁぁ!!』


更にそのパワーを全て炎の剣に収束させ、キリングバッタの胴体に付き込んだ。


「ぎぎゅああぁぁ!!」


剣が深々と突き刺さる。

流石にこれは効いたのか、キリングバッタが慌てて飛び退いた。


「はぁっ!」


そこに跳躍でキリングバッタのさらに上を取ったアリスが、空中でその首元にレイピアを突き刺す。

それがラストアタックとなって、キリングバッタが消滅する。


我ながらナイスアシストだ。

これならアリスの面子を潰す事も無いだろうし、我ながら完璧な流れである。


「あんた、なんて戦い方してんのよ!」


なんてってのは、ダメージを無視して攻撃し続けた事だとは思うが……


「ん?俺が不死身なのは知ってるだろ?」


アリスも俺が不死身なのはもう知っている筈だ。

それとも、岡町達は俺の事を彼女に教えていないのだろうか?


「いやそれは聞いたから知ってるけど、齧られまくって血みどろのあの戦い方は流石に……」


「あの戦い方は、流石にドン引きよねぇ。いくら不死身って言っても……」


こっちにやって来た岡町まで、人の戦い方にケチをつけて来た。

スマートな戦いとは程遠いが、不死身を生かした効率的な戦いだと自分では自負している。


まあ確かに第三者から見たらちょっとグロイかもしれないが、命のやり取りなのだからそう言う物だろう。


「まあ見た目はともかくとして……不死身つっても、痛みはあるんだろ?」


「ええ、まあ」


幸保の言う通り、もちろん痛みはある。

さっきもくっそ痛かったし。

だが慣れてしまえばどうって事はない。


「あんまり無茶な戦い方してると、体は大丈夫でも心がいかれちまうぜ。何事にも程ほどにな」


「はぁ……」


一万年間生きるか死ぬかの生き方をしてきた俺にとって、今更な話である。

狂うならもうとっくに狂ってる事だろう。

まあそれを話す訳にもいかないので、俺は生返事を返した。


「その心配ならいらないぞ」


アングラウスが口を挟んで来る。


「悠の【不老不死】のスキルは精神にも影響している様だからな。要は精神の方も不滅なのさ。だから痛みや苦しみで発生するストレスで心が壊れる心配はない」


「そうなのか?」


「なんだ。自分の事なのに気づいていなかったのか?いくら慣れているからと言って、普通の人間が激痛に耐え続けてケロッとしてられる訳がないだろう」


「確かに言われてみれば……」


改めて考えてみると確かにそうだ。

今回の戦いぐらいはまあともかくとして、いくら叶えたい願いがあったとしても、精神力の強さだけであれだけの長い時間痛みや孤独に耐えて正気でいられるのは異常と言える。


なのでアングラウスの言う通り、【不老不死】には精神を不屈にする効果もあるのだろう。


「改めて強烈なスキルだな【不老不死】ってのは。まあ取りあえず、余計なお世話だった訳か」


「まあでも、人と一緒に行動する時はあんまり無茶はしない方がいいわよ。見てるこっちの血の気が引いちゃうもの」


「気を付けます」


実際問題、人と組んでというのは殆どないので、気にする必要はないかな。

アングラウスはそう言うのは一切気にしないだろうし、ぴよ丸もまあ大丈夫だろう。


取りあえず、これで俺もCランクだ。

次はBランクダンジョンに行くとしようか。

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