第24話 マルバツ

「……その使い魔、凄いわね」


暫くあっけにとられていたが、こっちにやって来た姫路アリスがアングラウスを凝視する。


「B。いえ、Aランクレベルはあるんじゃ?」


ここ『水溜まり』はDランクに分類されているが、その中で生息する魔物は最上級、限りなくCランクに近い強さを誇っている。

そこのボスをワンパンで文字通り粉砕した事から、姫路はアングラウスの実力をAランクレベルと判断した様だ。


実際はレベル一万越えなので、Aどころではない訳だが。

アングラウスはゲームでいうなら、ラスボスどころか隠しボス扱いされてもおかしくない存在だ。


「ああ、まあそんな感じだ」


問いには適当に答えて置く。

下手に教えると大問題になるかもしれないってのもあるが、そもそも、言っても信じない可能性の方が高いだろうし。


「凄いわねぇ、その猫ちゃん」


岡町達も寄って来て、アングラウスに注目する。


「単独で来てるからそこそこやるとは思ってたが、とんでもない隠し玉を持ってやがったもんだ。このレベルの使い魔を従えられるって事は、ユニークスキル……いや、ひょっとしてレジェンドスキルか?」


スキル、もしくは魔法による召喚の使い魔は主人となるプレイヤーの影響を大きく受けるものだ。

そのため、通常Dランクダンジョンに通うプレイヤーの使役する使い魔の強さはたかが知れている。


だがそういった常識の枠に嵌まらないスキルが存在する。

それが強力な効果を持つユニークスキルや、レジェンドスキルだ。


「いえ、ユニークスキルです」


D所か、Eランクの俺がAランクと思しき魔物を使役している。

そう考えると、効果としてはより強力なレジェンドスキルの方が自然だろうとは思う。

にも拘らずユニークスキルと答えたのは、協会のデータベースで初期スキルと現在のランクを簡単に調べる事が出来るためだ。


覚醒時以外にも取得する可能性があるユニークスキルと違って、レジェンドスキルは覚醒した時のみというのが通説となっている。

そのためデータベースを調べられたら、嘘が一発でバレてしまうのだ。

何せ俺のデータには、【不老不死】以外のスキルはない訳だからな。


流石に【不老不死】を、使い間を使役する系のスキルと勘違いする馬鹿はいないだろう。


「このレベルの使い魔をユニークスキルでか……」


「はい」


ああでも、よくよく考えたら【不老不死】はデメリットにスキル取得不可もあるから、ちゃんと調べられたら結局バレるのか……本名を名乗ったのは失敗だったかもしれん。


まあもうそこは考えない様にしておく。

アングラウスの無双は今更取り消せないし、相手が気づいて面倒くさい事にならない事を祈るだけだ。


「相当強力なユニークスキルみたいだな。それで?どういう感じのスキルなんだ?」


興味津々なんだろう。

幸保ゆきやすがスキルの概要を詳しく聞いて来ようとする。


だがその行動はマナー違反だ。

データベースにある程度載っているとはいえ、他人の能力の詮索は嫌われる。


俺がそれを理由に、やんわりと回答の拒否をしようとしたら――


「他人の能力やスキルを詮索するのはマナー違反だと、ネットには載っていたぞ。姫ギルドには、そう言った最低限のマナーも存在してないのか?」


――先にアングラウスがその事をド直球に放り込んでしまった。


にしてもこいつ、ネットでそんな事も見てるんだな。


「おっと、こいつは一本取られちまったな。変な詮索をして悪かった」


アングラウスに指摘された幸保ゆきやすが素直に頭を下げた。

大手ギルドの人間を怒らせて揉めたら面倒くさい事になる所だったが、どうやらその心配はなさそうだ。


「ああいや、気にしないでください。俺は気にしてませんので」


「ほんっと、幸保はちゃんと反省しなさいよ。ごめんなさいねぇ、悠君。所で……悠君はどこかに所属してるのかしら?もしまだギルドに入ってないなら、うちなんてどうかしら?」


強力なユニークスキルを持つ人間を確保したいのか、岡町が勧誘してくる。


「姫ギルドはこの業界じゃ大手だし、美人も多いのよ。あたしみたいな、ね」


岡町が体をくねらせウィンクした。

あたしみたいなと言われたら、そっち系の人間がワンサカいる様にしか感じないんだが?

アピール所かマイナスも良い所だ。


「いえ、ギルドに所属する予定はないんで。申し訳ないですけど」


勧誘に対する答えは当然ノーだ。

アングラウスの事を含めて、俺は色々と特殊だからな。

不干渉で行ける小さなところならともかく、大きなギルドに所属する様な真似は出来ない。


「そう、残念ねぇ。じゃあ名刺を渡しておくから、気が変わったら連絡頂戴ね」


「分かりました」


しつこく勧誘されるかと思ったが、断ったら岡町はあっさりと引いた。

まあ大手だし優秀なプレイヤーは大量に抱えてるだろうから、俺に拘る必要はないって事なんだろう。


「顔悠」


「ん?」


「あれの分配だけど――」


姫路アリスがレアドロップの青い鎧を指さしていた。


確か水属性に高い耐性があり、さらに自然回復能力が上昇する効果だったかな。

Dランクダンジョンのドロップではあるが、高ランク冒険者が水属性対策に身に着けたりするほどのレア装備で、ギルドでの買取価格は3千万程だったはず。

かなり高額だ。


「私の獲物だったけど、まああんたの使い魔が活躍したから半々って事にしてあげるわ」


そう言われた俺は、岡町と幸保の方を見た。


「あー、いや、ちび姫。そいつは……まあなんだ……」


「悠君はここ初めて見たいだから、記念に彼に上げましょ」


「はぁ!?これがいくらするか分かってんの!?通常ドロップの魔石じゃないのよ!」


大手ギルド所属なんだからケチケチするなよと言いたい所だが、流石に5桁万円をポンとプレゼントするのはそう簡単な話ではないか。


「ま、まあそうだな。は、半々でいいだろう」


そう幸保困った様に聞いて来るが、俺は姫路に見えない様指先でペケマークを作って意思表示する。


ドロップを貰う約束で姫路に助力しているので、当然あれは俺の物だ。

半分譲る謂れはない。

ましてやアングラウスのスキル効果なら猶更だ。


大手ギルドを敵に回す可能性もあるが、流石に金額が金額なだけにそんなカツアゲの様な真似を受け入る訳にはいかない。

こっちが貰う側だったエンペラーギルドの時とは訳が違う。


「分かりました」


幸保が諦めた様な顔で、姫路に見えないよう指でオッケーマークを作る。

なので、表面上は半々で済ませる事に同意しておいた。


3千万ゲット。

アングラウスのスキルもあるので、この調子なら直ぐにエリクサーが手に入りそうだ。

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