第16話 男の傷は
喋るヒヨコ?
どう考えても普通のヒヨコじゃないよな。
……まあアングラウスが持って帰ってきたぐらいだし、当たり前か。
「ぬ……」
卵から飛び出した後、小さな羽をゆっくり前後させ深呼吸していたヒヨコが、俺に気付いて口を開く。
「問おう!ヌシがワシのマスターか!」
「……」
急にマスターかと問われても困るんだが?
そもそも拾って来たのは俺じゃないし。
そう思ってアングラウスの方に視線をやると――
「うむ。その男の名は
――飼育権を押し付けられた。
犬猫を拾うだけ拾って、親に全てを押し付ける子供みたいな真似しやがる。
「やはりそうか!ヌシからは並々ならぬ覇気を感じたのでな。絶対そうだと思ったぞ。これからよろしく頼む」
俺から覇気ねぇ……
そういうのが感じられるのなら、まず真っ先にアングラウスに感じるはず。
桁違いの化け物だし。
取り敢えず、このヒヨコが適当な事をほざくタイプだと言う事は分かった。
「えーっと……一つ聞いていいか?」
「なんぞな」
「お前は一体なんなんだ?」
一番気になる部分をダイレクトに聞いてみる。
見た目は左目部分に傷跡のある隻眼のヒヨコだが、人語を介している時点で普通の生物でないのは明らかだ。
「ふふふ……マスターはどうやらワシの事が気になってしょうがないらしいな!」
ヒヨコが誇らしげに胸を張る。
何だか鼻につくいい方だが、まあ気になるのは事実なのでスルーしておく。
「では語ろうではないか!ワシは――」
小さな翼を広げたヒヨコが――
急に固まり、首を傾げてから口を開いた。
「マスター、ワシって何じゃろ?」
「いや、俺に聞かれても困るんだが」
どうやらこのヒヨコは自分の事が分かっていない様だ。
……というか、だったらさっきのマスター云々の流れはなんだったんだ?
意味不明である。
「生まれたばかりの子供なのだから、自分の事を知らないのも仕方がないんじゃないか?」
「まあ、そうだな……」
言動がしっかりしていたので勘違いしてしまったが、冷静に考えればアングラウスの言う通りだ。
生まれた赤ん坊が自分の事を正確に把握できている訳もない。
「ワシはどうやら、ミステリアスな星の元生まれてきた様じゃな!」
方言っぽい喋り方のせいでミステリアス感ゼロではあるが、まあ確かに謎な存在ではある。
「取り敢えず……日本語が話せる以上、ただのヒヨコではないんだよな?」
見た目は完全にヒヨコではあるが、人間の言葉を話す上に、アングラウスが態々俺の命を使ってまで孵化させているのだ。
これがただのヒヨコな訳もない。
「我が持ってきたものがただの鶏の卵の訳も無かろう?まあだが言語に関しては、特殊な通訳系の魔法をかけられているためだ。恐らく子供が環境に順応しやすいよう、親がかけておいたのだろう」
「成程……つまりこのヒヨコは魔法が使える訳か」
こいつの親が魔法を使えるって事は、その子供であるこコイツも魔法を使える様になる可能性は高いと考えていいだろう。
「ダディとマミィがワシの為に……感動じゃ!」
ヒヨコが右の羽を額の辺りに持ち上げ、敬礼の様なポーズをとる。
その動きに何の意味があるのかは不明だが、まあこの際不明なままでいいだろう。
取り合えずこのヒヨコに対する俺の評価は、馬鹿っぽいが危険性は皆無。
だ。
もちろん大きくなるにつれて凶暴になって行かないと言う保証はないが、少なくとも今すぐ危険を心配する必要はなさそうである。
「あとちょっと気になったんだけど……左目のは傷だよな?」
ひよこは左目の辺りに傷があり、目を瞑っている状態だ。
ずっと目を瞑っているので、傷による失明――隻眼と考えていいだろう。
俺はそれがさっきから気になっていた。
傷はそう言うデザインで元から単眼と言う可能性も考えたが、左右対称っぽい右目の位置と、左側にも瞼がある事から潰れていると考えた方が自然だ。
「なんで生まれて直ぐだってのに、そんなデカい傷があるんだ?」
因みに血は出ていないので、卵を内側から破る際に負った傷とかではないはず
「左目の傷じゃと!?」
ヒヨコが自分の顔の左側を羽でなぞる。
どうやら気づいていなかった様だ。
「何か見えにくいと思ったら!まさかの左目の傷!!」
ヒヨコがガッツポーズの様に両羽を高々と掲げたかと思うと――
「傷は男の勲章じゃい!」
――と、声高々に宣言する。
「……」
どこかで聞いた事のあるカッコイイ言葉だ。
だがそれは勇敢に負傷を恐れず戦った証だから勲章なのであって、生まれつきの傷は勲章でも何でもないと思うんだが?
「それは傷ではないぞ。そう見えるだけで封印だ」
どうやら傷ではなかった様だ。
だが、アングラウスの否定の言葉を――
「傷は男の勲章じゃい!」
――ヒヨコは無視して謎の主張を続ける。
何がいったい彼を駆り立てるのか?
しかし封印か。
片目が封印とか、完全にリアル厨二だな。
これで疼くとか言い出したら完璧である。
「傷は男の勲章じゃい!」
三度ヒヨコが吠える。
が――
「因みに、こいつは雌だ」
――そもそもオスですらなかった。
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