第13話 卵
とある山の山頂付近
一匹の黒猫がそこにある亀裂に身を潜らせる。
「魔力の波動はこの辺りからだが……む、発生源はこれか」
黒猫――アングラウスが亀裂の中にあった黒い卵を見つける。
彼女は鶏の卵サイズのそれに鼻を近づけて匂いを嗅ぎ――
「この波動……間違いない。卵はこの世界の物ではないな」
――それを異世界の物だと断定した。
「周囲には卵以外の魔力は感じない。ふむ、卵だけが異世界に来た理由……か。まあ考えるまでもない。奴らから子供だけでも守ろうとしたのだろうな。そうでもなければ、卵が自力で世界の壁を越えて来れる訳もない。我の様に神の眼に留まらなかったのは、余りにも虚弱な存在だった故と言った所だろう。さて――」
アングラウスはその場で座り込み、少し考えこむ。
やがて考えがまとまったのか立ち上がり――
「これの親は世界の壁を穿つ力を持っていた。そしてこの卵も虚空を耐え抜いた。ならばこの卵から生まれて来るのは、それ相応の力を有した種のはず。救って戦力にするのが正解か。まあ命が尽きかけているが、そこは悠に対処させればいいだろう」
――その卵を口に咥える。
そしてそのまま亀裂からするりと抜け出すと、都市部へと向かって空を飛ぶ。
顔悠の元へ戻る為に。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
協会を出た俺は、妹の入院している病院へと向かう。
「憂、聞いてくれよ。兄ちゃん、2日で500万も稼いだんだぜ。凄いだろ。ランクもFからEに上がったんだぞ」
状態は安定してはいるが、相変わらず妹の意識は戻らないままだ。
回帰前は意識を取り戻す事無く崩壊ダンジョン発生に巻き込まれて命を落としてしまったが、今回はそうはさせない。
必ず憂は俺が守る。
「もうちょっと辛抱しててくれよ。兄ちゃんが直ぐにエリクサーを用意してやるからな」
俺は寝ている妹に保険用の命を分け与える。
「じゃ、行くよ」
病院を出て家に帰る途中、人通りの少ない場所でアングラウスが戻って来た。
その口元には謎の黒い卵が咥えられている。
なんだ?
鳥の巣でも襲って来たのか?
いや、黒いし違うか。
ピータンか?
ピータンなら調理済みな訳だが……
こいつ、一体何処から盗って来たんだ?
「どこ行ってたんだ?」
アングラウスが玉子を上に向かって放り投げると、奴は頭の上でそれを綺麗にキャッチして見せた。
意外と器用な奴である。
「この卵を取って来たのだ。恐らくだが、これは役に立つぞ」
「?」
玉子が役に立つ?
なんの事か意味が分からない。
「腑に落ちないとい言う顔だな。まあ、この卵が
「孵るって事は……」
どうやらピータンではない様だ。
いったい何の卵だろうか?
「ただこの卵は死にかけているから、このままだと孵化する事はない。悠の命を一つこいつにくれてやってくれ。出来るんだろう?お前の母親に分けてやった様に……な」
アングラウスが口の端を歪めて笑う。
どうやら母の命が二つある理由が、俺が何かした為だと言う事に気付いている様だ。
「……まあ確かに命を分けてやる事は出来るけど――」
隠す程でもないのでここは素直に認めておく。
変な嘘をついて、こいつの機嫌を損ねるのも馬鹿らしいからな。
「その卵、危ない奴が生まれてきたりしないだろうな?」
「それは生まれて来てからのお楽しみだ。まあ手に負えない様なら、最悪我が始末するから安心しろ」
命を分け与えさせておきながら手に負えなければ始末するとか、勝手な話もあった物だ。
まあ強力な力を持つドラゴンだから、自分勝手なのは当たり前か。
「分かったよ。けど、少し時間がかかるぞ」
予備の命は既に母と妹に渡してしまっているからな。
なので追加を用意する必要がある。
「ふむ、この卵はいつ生命力が枯渇してもおかしくない状態だ。出来るだけ早めに頼むぞ」
どうやら余り時間はない様だ。
「分かった。出来るだけ急ぐよ。取り敢えず家に戻ろう」
家に帰り、
一個増やすだけなら1時間程度で済む。
命を増やした俺は――
「ちゃんと責任はとってくれよ」
「もちろんだ。安心しろ」
――アングラウスにもう一度確認してから、卵に命を注入した。
さて、何が生まれて来るのやら。
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