第10話 ランク
山が消し飛んだ事件は、朝一で大ニュースになっていた。
何せ完全に原因不明なのだ。
近隣住民にとっては、恐怖以外何物でもない。
妹の無事を確認して安心していた母もその事を不安がってはいたが、流石に本当の事を言う訳にもいかず、時間が解決してくれるまで待つしかないだろう。
で、俺は俺のやるべき事として、ダンジョンへとやって来ていた。
毒島達と探索していた例の場所だ。
「こんな雑魚共を狩って、意味があるのか?」
俺について来たアングラウスが尋ねる。
姿は相変わらず猫のままだ。
「ランクを上げない事には、上のダンジョンに行けないからな。だから――」
プレイヤー。
そしてダンジョンにはランクがあった。
FからSSSまでの9段階で、ダンジョンだけは攻略不能と判断されるExtraがその上にあったりする。
まあ俺の攻略したエターナルダンジョンが、そのExtraな訳だが。
基本的にダンジョンのランクはゲートから計測される魔力で判別され、プレイヤーのランクはレベルで決まる。
スキルなどは考慮外だ。
ダンジョンには自分のランクより1つ上までという制限が、プレイヤーを管理する協会によってかけられていた。
つまり低ランクのままでは、高ランクダンジョンには挑めないという訳だ。
レベル1である俺のランクは、言うまでもなくFランクである。
入れるダンジョンは一つ上のEランクまで。
そしてレベルを上げられない。
つまり、俺はどう足掻いてもEランクダンジョンにまでしか入れない事になる訳だが――
「このダンジョンをクリアして、証を手に入れる必要があるのさ」
唯一、レベルに関係なくランクを上げる方法があった。
それが証だ。
ダンジョンクリア時には、そのランクに見合った証が手に入る。
それをプレイヤー協会に提示すれば、ランクを修正して貰う事が出来るのだ。
あ、因みに証ってのは物ではなく手の甲に浮かび上がる紋章だ。
時間経過で消えるタイプの。
なので、別の人間がクリアして誰かに譲渡する様な真似は出来ない様になっている。
まあ介護付きでクリアさせて、紋章を獲得させるって手がない訳でもないが……
そこまでして、実力も無いのにランクを上げる意味はないからな。
一部金持ちが箔付けの為にやっている的な噂はあるが。
「人間とは面倒な真似をするのだな」
「人間ってのは弱いからな。安全面を重要視してるのさ」
低レベルの人間が無謀に高ランクダンジョンへと挑めば、命を落とす危険がある。
協会が制限をかけているのはそれを防ぐための措置だ。
何せ制限ありの現状でも、毎年結構な数の人間がダンジョンで命を落としてる訳だからな。
それは当たり前の対応と言えるだろう。
「ああ、そうそう……そこ、罠があるぞ」
アングラウスが罠を見抜いて教えてくれる。
だがちょっと遅い。
急に言われても、踏み出した足は止められない。
地面を踏んだ瞬間、足元に魔法陣が現れ槍が飛び出して来た。
足元から胴めがけて突き出された槍を、俺は片手でキャッチして止める。
回帰前なら間違いなく串刺しだっただろう。
だが既に命を二個繋げた俺に、この程度の罠は通用しない。
まあ仮に喰らっても痛いだけで全く問題ないが。
「ショボい罠だな」
「まあEランクのダンジョンだからな」
アングラウスはショボいと言うが、こんな罠でもEランク冒険者にとっては脅威だ。
まあ直撃して死ぬ奴はそうそう居ないだろうが、反応が遅れれば大怪我物である。
そのまま魔物を始末し、ドロップ品を収取しながら進んで行くと――
「ん?」
「あ……」
毒島達と遭遇する。
ダンジョン内で知り合いと遭遇するなど、狭い場所でも早々ない偶然だ。
ひょっとして、奴とは運命のドドメ色の糸かなにかで結ばれてでもいるのだろうか?
パーティーメンバーの数は8人。
俺が抜けた穴を埋める為、新しく二人程迎え入れた様である。
……まあ正しい判断だな。
毒島達のレベルなら、このダンジョンを6人でもやっていく事は出来るだろう。
だが安全面を考慮するなら、余裕を用意しておくのが常識だ。
命を賭けるダンジョン探索じゃ、どんなトラブルがあるか分かったもんじゃないからな。
「ま、待ち伏せしてたのか!?」
俺と偶然鉢合わせた毒島が、怯えた様に聞いて来る。
まあ脅しをいれているので、そう勘違いしても仕方がない事だろう。
「いいや、偶然だ。まあ……俺とやり合いたいなら止めはしないが」
からかい気味にそう尋ねてやる。
適当に流しても良かったんだが、こいつらにはいい感情を持ってないからな。
「そ、そんなつもりはねぇよ。お前ら、道をあけろ」
「そうか」
毒島達が引いて道を開ける。
俺はその横を堂々と抜けて、ダンジョンの奥へと向かった。
「絵にかいた様な小物共だったな」
魔竜が馬鹿にした様に鼻で笑う。
強者である奴からすれば、毒島達の行動はさぞかし滑稽な姿に見えた事だろう。
まあ以前の俺は、その絵にかいた様な小物に顎で使われていた訳だが……
そう考えると微妙な気分になる。
「なんだその顔は?」
顔に出てしまっていた様だ。
「何でもない。気にしないでくれ」
俺はそう答え、ダンジョンの奥へと進む。
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