不滅チーターによる時間回帰無双~終わりなきダンジョンに籠って1万年。俺は遂に時間を巻き戻すマジックアイテムを見つけて1万年前に戻る。今度こそ失った家族を守るために~ついでに世界も救います

まんじ

時間回帰

第1話 巻き戻し

西暦1999年。

世界に大きな変化が発生する。


――地球にダンジョンと呼ばれる、まるでゲームの様な異空間が大量に出現したのだ。


ダンジョンには大量の魔物達が跋扈ばっこしており、それらには現代兵器の類が全く通じなかった。

つまり、人ではどうしようもない領域という訳だ。

そのため、本来ならば禁足地として封印されるべき場所となる筈だった。


だがまるでそこを攻略しろと言わんばかりに、同時期に人類に新たな力が目覚めだす。

レベルや魔法、スキルとよばれる物だ。


魔物を倒す事で自身の能力を強化するレベル。

そして訓練やレベルアップ、スキルブックなどで習得出来るスキルや魔法類。

これらの力は、人類を根底から変える程強力な物だった。


新たな力を手に入れた人類は、ダンジョンによって齎される資源を手に入れるべく攻略を開始する。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


攻略者プレイヤー

ダンジョンを踏破する者達の総称だ。

そして俺――かんばせゆうも又、攻略者プレイヤーである。


「ぐおおおおおぉぉぉぉ!!」


額に赤い宝玉を嵌まっている、漆黒のドラゴンが雄叫びを上げる。


此処は攻略不能と言われていたエターナルダンジョン最下層。

巨大な神殿っぽい建物の様な様相をした場所だ。

そしてその奥には、黒い水晶に封印された巨大な魔竜が眠っていた。


――魔竜アングラウス。


エターナルダンジョンの主であり、レベル一万の最強のドラゴン。

その強さは圧倒的で、決して人類には到達しえない力を有している。


――俺は今、その最強のドラゴンに単身戦いを挑む。


「……」


挑戦者ぶれいものである俺に、怒りの咆哮を上げる魔竜。

全てを蹂躙する破壊の権化。

その死の象徴とも呼ぶべき存在を真っすぐに見据え、俺は静かに拳を握り構えた。


そして自らの持つ、唯一にして最強の力を発動させる。


「ライフストリーム……発動!」


ライフストリーム。

自らの命を燃やし、全身から噴き出すその嵐の様なエネルギーを全身に巡らす強化能力。

スキルとは別系統の、俺と師匠だけが扱う事の出来る秘術だ。


「魔竜アングラウス。お前を倒して……俺は家族を救う!!」


……長かった。


エターナルダンジョンは、一万階層からなるダンジョンだ。

一つのエリア自体がとんでもなく広く、しかもそれが一万階層。

そして当然そこには危険なトラップや、強力な魔物が住み着いている。


そんな場所、ハッキリ言って人間の一生ではとてもではないが踏破しきれるものではない。

そのため、エターナルダンジョンは攻略不能のダンジョンと言われていた。


――実際、俺以外の人間だったなら此処にはたどり着けなかっただろう。


現在は西暦1万2031年。

そして俺がこのダンジョンに挑み始めたのが、2031年。


つまり……俺がこの最下層に辿り着くまでにかかった期間は、ジャスト一万年と言う事になる。


人間がそんなに長く生きられるのか?


勿論不可能である。

ではならば何故、俺は一万年も生きる事が出来たのか。


――それは


「よもや此処まで辿り着く人間がいようとはな……称賛に値する。だが、貴様はここで終わる。我によってな」


ドラゴンは知能が高い。

ましてやレベル1万の魔竜なら猶更だ。

奴は俺の呟いた言葉から瞬時に言語を見抜き、わざわざ日本語で死の宣告を告げて来た。


「ふ、終わらせる?面白い冗談だ……」


俺は魔竜アングラウスの言葉に、口の端を歪めて笑う。

これは強がりではない。

冗談抜きで、俺を殺せる奴がいるなら見てみたいと思っている。


「ほう、我を恐れぬか。良かろう。ならばその身を持って、我が力を知るがいい……滅びよ!!」


魔竜の口から、強烈な白と黒が混ざった様な閃光が吐き出される。

特殊な属性を帯びたブレスだ。

直撃すれば、ライフストリームで身体強化している今の俺でもただでは済まないだろう。


――だが、気にする必要はまるでない。


「消えるのはお前だ!!」


俺は地面を強く蹴って跳躍する。

魔竜アングラウスの放ったブレスに向かって真っすぐに。


「ぐっ……」


ブレスとぶつかった瞬間、凄まじい痛みが走る。

全身が焼けただれ、崩れていくのが分かった。


だが、それがどうした?


俺には関係のない事だ。


何故なら――



崩壊した細胞は、不老不死の特性によって一瞬で再生していく。

そのためどれだけ破壊されようと、俺にはさしたる脅威とはならない。


「なんだと!?」


自らの必殺のブレスを突き抜け、目の前に姿を現した俺に魔竜が驚愕の声を上げる。


「わりぃな。俺は不老不死なんだよ」


不老不死。

これこそ、俺が持つ唯一にして最強のレジェンドスキルだ。


スキルは大きく分けて3つに分類される。


訓練やマジックアイテム、それにレベルアップなどで覚える事の出来るコモンスキル。

個人の資質でのみ取得できるユニークスキル。

そしてユニークスキルの中でも、極一部の突き抜けて優れた効果を持つ物をレジェンドスキルと呼ぶ。


コモンスキルは誰でも習得出来る半面、効果の弱い物が大半だ。

ユニークスキルは後天的に取得不能な物を指し、強力な効果を持つ物が多い。


そしてレジェンドスキルは、ユニークスキルを遥かに超える圧倒的な性能を誇っている。


――但し、強力な分それに見合ったデメリットがあるが。


「喰らえ!エクストリームバースト!!」


俺は自らの内にある、12個の命を同時に爆発させる。

命を爆発させる事で、瞬間的に自身の身に纏うエネルギーを増やすためだ。


反動による全身を焼き尽くす様な燃える傷み。

俺はそれを無視して、その全てを右拳へと集約する。


「ぐっ……」


命の爆発によって発生した膨大なエネルギーの一点収束。

当然そんな無茶な真似をすれば、激痛と共に拳――いや、腕ごと崩壊してしまう。


だが俺は不老不死。

負荷による腕の崩壊は瞬時に回復し続け、本来なら瞬く間に燃え尽きる筈だった命もまた瞬時に回復する。


「おおおおおっ!!」


俺は苦痛を無視し、その拳を巨大な竜の顔面に叩き込んだ。


「がああああっ」


魔竜アングラウスの巨体が吹き飛ぶ。

この一撃で終わってくれれば楽だが、当然そんな訳はない。

これまで倒して来た9000階層以降のボスですら、この程度で終わる奴はいなかったのだから。


奴との戦いは長期戦だ。


「おらぁ!」


俺は命を燃やし、体にかかる負荷やダメージから来る苦痛など無視して戦う。


アングラウスを吹き飛ばし。

反撃で吹き飛ばされ。

時には体が粉々にされながらも俺は戦い続けた。


激しい戦いに、神殿を想起させる周囲の柱や壁などはとうの昔に消し飛んでいる。

そのため、周囲は黒い靄の様な壁や天井が空間を区切っている様な状態だ。


「おおおおおおおおお!!!」


「ぐおおおおおおおお!!!」


不死を生かしたゾンビアタック。

どれ程の時間がたっただろうか。

数時間。

いや、ひょっとしたら数日続いたのかもしれない。


やがてその戦いに、終わりの時が唐突にやって来る。


「はぁっ!」


俺の拳がアングラウスの頭部を直撃し、奴の頭が大きく跳ね、その巨体が大きく後ずさった。


「――見事だ」


アングラウスが俺を見る。

だがその眼には、先ほどまでの敵意は籠っていない。

その口調も穏やかだ。


『ピシッ』と音がなり、奴の額に小さな罅が入る。


「認めよう。貴様は我より強い」


乾いた音と共に、魔竜の額の罅が更に広がっていく。

どうやら勝負がついた様だ。


「今回は貴様の勝ちだ。だが――」


魔竜が口元を歪める。


はこうはいかんぞ」


「次?」


なんの話だ?

まさかまだ何かあるのか?


そう身構えたが――


「また会おう。さらばだ」


――言葉とは裏腹に、アングラウスの肉体はそのまま粉々に砕け跡形もなく消え去ってしまう。


「……」


奴の言葉が少し気になったが、まあそんな事はどうでもいい。

今は……


「遂に……」


奴が消えた場所から、虹色に輝く宝箱が姿を現す。

クリア報酬。

俺が一万年かけてまで、このダンジョンをクリアした理由がこれだ。


完全攻略の報酬は事前に分かっていた。

ダンジョン報酬が分かるユニークスキルによって、何が出るか解明されていたからだ。


このダンジョンの報酬、それは――


「これがクロノスの懐中時計」


――時間を巻き戻す事の出来る、神話級アイテム。


「これで、やっと救える」


かつて失った――守れなかった家族。

その家族を救うために、俺はこのアイテムを求めたのだ。


俺は宝箱から取り出した懐中時計を発動させる。

すると幾何学的な模様が浮かび上がり、俺の視界を埋め尽くした。


中央には巻き戻す時間が表示されており、それが俺の意思に反応しその数字が変わっていく。


「家族が死ぬ前。一万以上前に……ん?」


中央の数字は一万飛んで二年の所で数字が止まってしまった。


「一万二年が限界なのか……」


もし俺がこのダンジョンの攻略にそれ以上かかっていたら、このアイテムが完全に無駄になる所だった。

危ない所だ。


「まあ……二年あればなんとかなるだろう」


本当は余裕をもってもう何年か欲しかった所だが、ダンジョン攻略開始から二年前ならば何とでもなるはず。

今の俺には、あの時の俺が持っていなかった力があるのだから。


「発動!」


俺はクロノスの懐中時計を発動させる。

ダンジョン内の景色がまるで絵の具を混ぜたかの様にグニャグニャと歪み、俺の体から感覚が失われていく。


……母さん。


……うい


……今度は絶対二人を守ってみせるよ。

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