16:LOOP 294,726,287

 祖父母から研究を引き継いだ両親があたしを呼び出した。


「おばあちゃんは長く持たないかもしれない。それまでに過去に向かって過去のおばあちゃんを救い出す必要がある」


 いつだって、両親はあたしを道具のように扱う。命令すればそれに従うと思っている。だから、絵を勉強したいというあたしの願いも一蹴された。

 おばあちゃんはあたしの味方だった。目が見えないのに、あたしが絵を描く話を嬉しそうに聞いてくれた。


 おばあちゃんは両親に渡したいファイルがあると言っていたが、両親が勝手におばあちゃんの物を整理してしまってどこにあるか分からない。そういうところも自己中だ。


 時空移動は身体に負担がかかる。だから、あたしが過去に戻らなくてはならなかった。


 70年ほど過去に飛んで、あたしの心の中には何かが芽生えた気がした。


 そこには、あたしを縛りつけるものなんか、なにひとつなかったのだ。


 当時おばあちゃんが働いていたレストランに向かった。

 そこのホールスタッフに、笑顔の輝く女性がいるのを見て、あたしは初めて心がときめいた気がした。


 両親が用意してくれた身分を使ってそのレストランで働くことになった。

 あかねというその女性はあたしを仲間として受け入れてくれるどころか、いつだってあたしが何をしたいのかを一番にいてくれた。ずっと何かを押しつけられてきたあたしには衝撃が大きすぎて、それが心を揺さぶった。


 彼女のことを好きになるのに時間なんからなかった。「瑠璃るり」と呼んでくれるのが嬉しかった。それが私の本当の名前だったのでは、と思えるほどに。

 茜……それがおばあちゃんの名前だと知っても、未来でのおばあちゃんの姿を思うと、あたしが救ってあげなくちゃ、という使命感がどんどんと溢れ出た。


 彼女を守りたくて、彼女のそばに居たくて、想いを告げた。

「無理だから」

 その短い言葉で片づけられてしまった。


 絶望と共に、あたしはこの世界にいる意味を失ったような気がした。それでも、彼女のことが好きだ。あんな灰色の未来に彼女を導きたくなかった。


 だから、彼女を殺さなければと心から思った。


 そして気づいたのだ。


 祖母が過去で死ねば親は生まれない。親が生まれなければ、あたしも生まれない。


 このパラドクスがループの原因なんだ。


 そして、あたしは彼女を刺し殺した。

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