そして天使は帰還する

鐘古こよみ

第1話


親愛なるキリエへ


 久しぶり。元気? そんなわけないか。

 ちっとも手紙出さなくてごめんね。

 これには理由があって、わたし、私立のハイスクールに行くことになったの。全寮制の、女ばっかりのところ。

 最初は冗談じゃないと思ったけど、入ってみると、意外と楽しいよ。


 退院してからは、スポーツもできるようになってね。

 ラクロス始めたんだ。

 うちの学校、結構強くて、全国大会の常連なのよ。

 練習が厳しくて、手紙書く余裕がなくなっちゃったから、悪いけど、文通はやめさせてもらいたいの。


 あなたも遠くにいるわたしより、病院内で新しい友達を見つけた方がいいでしょ?

 いちいち人に代筆してもらうのも大変だし、この方がいいと思う。

 あなたとわたし、これからはそれぞれの場所で、頑張りましょ。


 キリエの病気が治ることを、心から願っているね。


   サーシャより


      *


親愛なるサーシャへ


 ちっとも連絡がないけれど、いかがお過ごし?

 私の方は相変わらずよ。ベッドの上だけの小さな世界。

 あなたはいいわね。この病気が自然に治るなんて、天文学的な確率だそうよ。

 でも安心して、妬んでいるわけじゃないから。これでも私、結構楽しく毎日を過ごしているの。


 新しい友達ができたんだ。毎日一緒にいるわ。

 あなたもきっと、新しい場所で、新しい友達を見つけたんじゃない?

 だとしたら素晴らしいし、そうであることを祈っている。

 私に手紙なんか書いている場合じゃないわよね。


 もちろん、怒っているわけじゃないのよ。私だってそう。

 人にいちいち代筆を頼むのも、正直言って、煩わしいと思い始めたところ。

 だから悪いけど、文通はやめさせてもらいたいの。

 あなたと私、これからはそれぞれの場所で、頑張りましょ。


 サーシャの人生が素晴らしいものになることを、心から願っているわ。


  キリエより


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