第22話 特濃
「うーん……中々すれ違いませんねぇ~……」
「せやねぇ……」
荒野を駆ける事数十分。
常に索敵の魔法を使ってるんだけど……中々人を察知しない。
「もしかして……本当に、道中で何か……」
凄く、不安になってきた。
「それは大丈夫だと思うんですけどね~」
反面、ミシェルの顔色は明るく……まるで不安を感じてない様子。
「信頼してるんだねぇ」
僕が慣れてきたから、馬のスピードが早いんだけど……風避けの魔法とやらをミシェルが使ってくれているので、会話が出来る。
どうやら馬の鼻を起点に、風が横に流れていくらしい。
「まぁ……私に剣を教えてくれた人達ですからねぇ……」
「なるほど」
……アレックスの手紙の内容からすると……女性だよね?
どうしよう……筋骨隆々の女性だったら。
流石に守備範囲外だよ僕……。
「別の意味で不安になってきた……」
「?」
「何でもない」
と、いうか……アレックスはミシェルの事を勧めるのと同時に、二人の従者も……みたいな事書いてたけど、この世界……重婚大丈夫なの? それとも愛人的な……?
だったら嫌だな。
「ねぇ、ミシェル。この世界って……複数人と結婚出来るの?」
「そうですねぇ~……それなりの立場なら、それを認められますよ~」
「へぇ……」
「稀人様なら――――特に、ですよ? 沢山お世継ぎ産まないと……!!」
「……やっぱり?」
「えぇ。元より、覚悟の上だから気にしないで下さいね?」
「お、おう……」
うーん……受け入れられる感性、というか心の強さが……僕には理解出来ないかも知れない。
「ただ……寂しくさせたら、怒っちゃうかも知れません」
「うん……約束するよ。だけど怒る前に教えてね?」
「それは……頑張って気付いて下さいね? 旦那様っ」
お、女心は難しいなぁ……。
ハーレムなんて簡単に言うけど……絶対しんどいよね。
はぁ……豪に入らずんば郷に従え……か。
頑張ろ。
「ん……? 前方……誰かいるよ、ミシェル」
「おっ! レリア達ですかねぇ~!?」
漸く索敵魔法のギリギリの範囲の所で、探知に掛かった。
三人……数はピッタリ。
大きい箱物の何かもあるし……間違いない、かな?
でも……おかしい。
「動いてない……みたいだね」
「っ!! 急ぎますっ!!」
「アッ!! 周りに、他の生物、居ないから……大丈夫……だ、と!! ヒェッ!!」
焦ったミシェルが、僕の家に来た時以上にスピードを出して……玉裏が突き上げられて、悶絶。
ガッタガッタと揺れる馬上。
ドッタドッタと揺れるタマタマ。
常時回復魔法で治しつつ……索敵を怠らない、僕。
「っ!! 見えて、来た……よミシェル! 襲われてないみたい!! だから、お願い、ゆっくりにしてっ!!」
「本当ですかっ!?」
視界の端、ギリギリの辺りに漸く見えた人影。
ミシェルにはまだ見えない範囲。
……それなのに……どうして相手は此方を見て抜剣してるのだろうか……。
目を凝らして見れば……甲冑を着た、長身の紫色の髪色をした人。
「紫の髪……心当たり、ある?」
少しスピードが緩まったお陰で、やっとまともに喋れる……。
「たぶん、レリアですっ!」
そんな人名を出されても、僕は知らないから困るけど……ミシェルも、相当焦ってるのかも知れないし、つっこむのは止そう。
そしてまた……徐々に早くなる、馬。
「オッオッオッアッアッアッ……」
舌、噛みそう……。
「ごめんなさい、旦那様っ! 後で慰めますからねっ!」
「エッウッウッウッウッ……」
エッチじゃん、その一言すら言えない……馬上の揺れ。
どんどん加速する馬。
近付くにつれて……相手が見えるようになってきた。
向こうも同じなのか、抜剣して構えていたのに、納剣して此方を見て腕組みをしている。
いや……え? 魔力で強化した僕と同じ視力って怖くない?
あの人も同じ事してるのかな……?
「おーいっ!! レリア~ッ!!」
そんな楽しそうに手を振らないで……バランス崩れて落ちちゃうから……!!
「ミシェル様っ!! 心配しましたよぉぉぉぉ!!」
馬で走って近付いているとはいえ、結構距離があるのに……轟く、アルトボイス。
「旦那様っ! やっぱり合ってたみたいですよっ!!」
「ヨカッタ……ヴェッ! ヨカッタネ……アッ!」
再会に興奮しているのか、マリオネットみたいにボロボロの僕を見ちゃくれない。
最早僕は正面すら見てない。
しかし、やっと近くまで着いたのか、徐々に馬はゆっくりになってきたので……すかさず回復魔法で自分の疲れ果てた体を癒す。
アレックスの手紙の内容と、声の質から……相手は女性。
格好悪い姿、見せられないからね!
……ミシェルにはもう、見られまくったので諦めた。
「ふぅ~……疲れましたぁ~。レリア、大丈夫ですか?」
ひょいっと軽く馬から降りるミシェルに倣って、僕も飛び降りる。
幸い、龍を倒した経験値のお陰か、肉体は丈夫なので着地は成功した。
……三半規管と急所も、丈夫にして欲しかったな。
「全く……それは私のセリフですよミシェル様っ! また勝手に飛び出して……勘弁して下さい」
キッ! と切れ長の美しい目を釣り上げ怒った表情を浮かべる女性。
スッとした輪郭と、小さめな顔。
その割にポテッとした唇。
覆うのは、紫色のショートヘアで……可愛いより、美人って感じ。
「へへへ……すみません、レリア。心配掛けました」
怒られているのに……嬉しそうに微笑むミシェル。
歪んだ愛情――――それが似合う、悲しい笑顔。
けど、アレックスもミシェルも……とても良い人。
それはつまり、御両親や家族の愛情が深い……と思う。
つまり、ミシェルが歪んだのは……家族以外の、その他大勢……なんだろうね。
肩書きで語る世界……ちょっと、嫌だ。
「もう……心配させないで下――――ミシェル様!?!? あ、あ……その、その指輪……!! まさか、ミシェル様……!!」
レリアさん、と呼ばれた女性が突然叫び……ミシェルの左手の薬指を指しながら、ワナワナと震えている。
そうか……女神様の力、か。
うーん……付けて貰いたいけど、付けていると面倒事が多そうな感じだなぁ。
力を封印する魔法……でも、それだと加護が消えちゃいそうだなぁ……。
封印より……抑える、くらいが良いかな?
「まさか……結婚指輪ですか!? ずるい、ずるい!! 抜け駆けは禁止だと約束したではありませんかっ!!」
いや、そっちかい。
「ふふふ……残念でしたねレリア。此方が私の旦那様の……ルイ様です。うふふっ」
「くっ……!! アナ!! 今すぐこっちにこいっ!! 完全武装でな!!」
「わぁ! 旦那様聞きました~!? 謀反ですよ~!!」
ノリノリで僕の腕にしがみつくミシェル。
瞬間、レリアさんと呼ばれた女性の目の周りの神経がモリッと浮き上がり……目力がやばい。
「ミシェル……お願い煽らないで……殺されそう……」
レリアさんの目力が本気なのに気付いたのか……流石のミシェルも僕から離れていく。
「そうですねぇ~。ごめんなさい、皆。その……会えたのが嬉しくて。ちょっと不安だったんです……」
……自分のせいだよね?
まぁ良いか……これから、お転婆を治していけば。
「もう、皆に心配掛けるのはやめようね? もう、必要無いもんね?」
「はいっ!!」
そんな僕らの元に近寄る、一つの足音。
「あらぁ……あのミシェル様が、ここまで素直になるなんて……流石……稀人様ですわね」
レリアさんが呼んでいた……アナ、という方かな?
凛と透き通った、美しいソプラノボイス。
クリクリのお目目に、筋の通った鼻と、薄く艶やかな唇。
此方の方も、可愛い……寄りの美人系。
なんか顔面のレベル高いなぁ。
「ふっふっふっ……紹介しましょう! 私の旦那様の、ルイ様です~!」
「んまっ!! レリアッ!! 抜剣っ!!」
「アンタら主従でしょうが」
「そういうノリですわよ」
異世界交流……わからんなぁ。
前途多難だよマジで。
「それよりミシェル様。我々の事も紹介して頂けませんか?」
「あ、そうでしたねっ! ごめんごめんっ!」
レリアさんの言葉で、向き直るミシェル。
「えっと……まず、こっちがレリア・ドーヴェルニュ。伯爵家の次女で……アレックス兄様の私兵ですねぇ~」
「どうも、宜しくお願いします」
「こちらこそ」
僕は普通にお辞儀をして、レリアさんは胸に手を当てて、腰を軽くおる。
おぉ……本物の騎士だ。凄い……。
「こっちがアナベル・ノアイユ。子爵家の三女で……またまた、アレックス兄様の私兵ですね~」
アナ、じゃないのね。
愛称かな?
いいなぁ……僕の名前短いから、愛称とか憧れる。
「どうぞ宜しく」
「お願いしますわっ」
彼女も騎士らしいお辞儀。僕は変わらずの普通のお辞儀。
「後は……あれ? ギドさんは?」
「只今、馬車の前で待たれております。修理中ですので」
いや、馬車壊れてるんかい!! こんな遊んでる場合じゃなくない!?
「え? 早く行った方が良くないですか?」
「まぁ……そうですが、我々の目的は貴方達ですから」
苦笑い気味のレリアさん。
うぅん……異世界との価値観の差が、中々詰められないなぁ。
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