第2話 キャラメイク
海が好きになったのが一体何時からだったのか。帆船が好きになったのが何時からだったのか。そのきっかけが何だったのかもう忘れてしまって久しいけど、俺は今でも海と帆船が好きなのだと胸を張って言える。
最初は商船学校に進学しようと思った。けれど母子家庭でお金も無く、ならばと自衛隊の門を叩くのは俺にとっては当然の事だった。
七つの海を巡った…………なんて言えれば良かったけど、生憎と行けたのは太平洋と東南アジアくらい。けれどそれでも海で過ごせたのは楽しかった。人間関係の問題から自衛隊の門を出てしまったけど、今でも朝焼けと共に昇る太陽と黄金色に輝く海原の綺麗さを鮮明に思い出す。
また海へ出たい。今度は大好きな帆船で…………
俺がこのゲームを買ったのはただそれだけの為だった。
初めてのフルダイブVRという事でおっかなびっくり説明書を読みながら本体を起動して、意識を失う感覚と共に再び目を空ければそこに広がっていたのは真っ白な空間。一瞬機械がバグってしまったのかと焦るも、直ぐにポコンと可愛らしいSEと共にこれまた可愛らしい手のひらサイズの女の子(羽が生えている事から妖精さんなのだろうか?)が出て来た事でそれが杞憂であったのだと悟ることが出来た。
「ようこそNew World Onlineへ!私は案内を務めるナビゲーターのニーナと申します!早速ですが貴方の名前を私に教えて下さい!」
ニパァ!と笑う女の子もといニーナ。事前にベータテストの内容とかネット記事とか少し読んだけどここまで自然に表情を表現できるのかと改めて技術の進歩を感じた。
さて、名前か……
このゲームを始める前にも考えていたけど中々気の利いたモノは思い浮かばなかった。
頭を悩ませる俺をニコニコと笑顔で待つニーナに、不思議とNPCなのに待たせて申し訳ないという気持ちが湧いてくるから不思議だ。
いや、NPCという先入観に囚われてしまっているがこの子も含めこの世界のNPCは自主学習型AIを搭載しているというのだから、それは最早俺達人と一緒と考えてもいいのではないのだろうか?
…………いや、深く考えるのは止めよう。それにNPCに対して人と同じ様に扱うのもロールプレイとしては面白いだろし。
「…………オーブリーだ。」
咄嗟に出て来たのはつい先日も見てしまった俺の大好きな映画の主人公の名前。
「はい、オーブリーさんですね!それではチュートリアルを始めさせていただきますね!」
俺の言葉にそう返したニーナ。まぁ名前なんて別になんでもいいか。
「まずはオーブリーさんのキャラクターを設定させていただきます。こちらをご覧ください!」
ニーナが手を縦に振ると、俺の前にいくつもの種族のキャラクターが等身大で表示された。
普通の人間のヒューマン。トカゲと人間を足した様なリザードマン。ドワーフ、エルフ、動物ごとに細かく種族分けされた獣人族。数十種類を超えるキャラクターが俺の前に並んでいる。
「気になる種族がいましたら私がその種族の特性を解説させていただきます!」
フンス!と胸を張ってそう言うニーナだけど。申し訳ないけど俺は種族なんてどうでもいいんだよね。
「ヒューマンでいいよ。」
「えぇ!?ヒューマンで良いんですか?他の方々はエルフとかドワーフとか獣人とか。戦闘や魔法スキルの高い種族や魔法スキルの高い種族を選ばれたりしてますよ?」
「いやヒューマンでいいよ。」
「と、取りあえずヒューマンの種族特性を説明しますね。ヒューマンはある程度の戦闘スキルと魔法スキルを持った汎用種族です。また戦闘以外の生産スキルも手広く取得することも出来ますが、他の特化種族に比べて成長率がかなり低く器用貧乏な種族となっております。」
暗にホントに良いの?って感じで説明するニーナに俺は首を縦に振って答えた。
「わ、分かりました。では次にオーブリーさんのキャラパラメーターの設定に映ります。」
再びニーナが手を振り、俺の前にヒューマンのキャラクターだけが表示される。そして俺の丁度胸元付近にウィンドウが現れる。見れば様々なパラメーターが表示されている。これで理想のキャラクターを作れという事だろう。
「身長、顔の造形、髪型。オーブリーさんの分身となるキャラクターをお好きな様に設定してください。」
「身長は2m。他はニーナのお任せでいいや。」
「えぇ!?お任せですか!?」
俺の言葉に驚くニーナ。ホントにここのAIは人間みたいだ。
「わ、分かりました。GMの許可も何故か降りて来たので精一杯頑張りますね!」
そう言ってあーでもないこーでもないと唸りながらキャラクターをいじり始めるニーナ。ぐにゃぐにゃと形を変える目の前のキャラクターが正直面白い。
体感10分ほどだろうか。漸くニーナは納得できたのか大きく息を着いた。
「お待たせしました。こちらがニーナ特製オーブリーさんのキャラクターになります!」
そう言って見せられたのは浅黒く日焼けした肌に色落ちした様な色の金髪。顔は俺の元々の顔を意識しつつも西洋っぽくも見える様にされていた。
「どうでしょう?結構私的に頑張った方だと思うんですけど。」
「良いと思うよ。」
「ヨシ!では続いてスキルの説明に入ります。New World Onlineでは他のゲームの様な明確な戦闘スキル等は表示されません。」
「ん?じゃあ種族の時にいった戦闘スキル云々は?」
「はい、種族の時にお話ししたスキルはいわば伸び率と言い換えた方が正確かもしれません。要は体の動かし方とか武器に体重を乗せてより重い一撃にするとか。そう言った戦闘すればするほど上手くなる部分に補正が付いてより成長しやすくする特性を大雑把に戦闘スキルや魔法スキルと纏めているだけで、必殺技みたいなスキルはありません。」
「なるほど。」
「オーブリーさんがここで剣術スキルを取った場合、種族補正の他に剣術スキル自体の補正がかかる訳ですね。これは魔法スキルや生産スキルの場合も同様です。
此処では初期選択スキルとしてメインとなる武器、魔法スキルと採取や生産と言ったサブスキルを一つずつ選択することが出来ます。」
そう言って新たにウィンドウを出すニーナ。そのウィンドウには様々なスキルが表示されていた。
「質問だけど、メインスキルに戦闘系スキル以外を選択することは出来る?」
「可能です。例えば採掘スキルなんかは鶴嘴やピッケルに対する補正スキルですが鶴嘴やピッケル自体に武器判定があります!なのでそれで攻撃すれば必然的に採掘スキルの補正を受けることが出来ますよ!」
どうやら行けるようだ。ならばと、ひと目見てこれだと思ったスキル名を口にする。
「メインに測量スキル、サブに観天望気スキルを頼むよ。」
「ぶぇえ!?それ選ぶんですか!測量は兎も角、観天望気なんてスタッフがネタで作ったネタスキルですよ!?」
ぶっちゃけたなコイツ…………
しかし、俺のやりたい事とピッタリなのはこのスキルなのだ。
「流石に戦闘スキルを入れましょうよぉ。ほら、剣術スキルとか槍術スキルとか。良いのいっぱいありますよ?」
「いや、これでいい。」
「えぇ…………」
困惑を隠せないニーナを余所に、俺の内心は嬉しさで一杯だった。この2つのスキルは夢に近づくのに役立ってくれるのだから。
「ま、まあオーブリーさんが良いならそれでいいです。では最後に纏めてスポーン位置と職業について説明しますね。
スポーン位置はNew World Onlineの世界にある複数の国家からスタート位置を決めて始める事が出来ます。スポーンする場所は首都だったり古都だったり田舎だったり様々ですが、それはプレイヤーの皆さんの密集度をある程度平均化させる為の措置ですので難易度自体に違いはありません。」
新たなウィンドウに世界地図の様なものが映し出され、各主要国家であろう位置には名前が記されていた。
大陸の東に位置している協商同盟
大陸の西に位置している教国
大陸の南に位置している共和国
大陸の北に位置している帝国
そして大陸を東西に挟んだ二つの島国
東の小さな島々が中心の諸侯連合
西にある大きめの島と小さめの島にある連合王国
以上7つの国がスタート地点に選択できるようだった。
「私としては気候が安定していてプレイヤー人口も多い共和国がおススメで「連合王国一択」そ、そうですか…………ピンポイントで一番不人気な所に行きますね。」
つい食いつく様に言ってしまったが仕方ない。だってプレイヤーが多い所とか絶対にのんびり遊べる気がしないのだ。
事前に調べてベータテストで一番不人気だったがやはり製品版でも不人気だったか。
「では本当に最後に職業についてですが、これは世界で特定のクエストやミッション、偉業をなすことで変動していきます。はじめは皆さん異界の旅人という職業で始まりますので自分に合う職業を目指してくださいね?」
「有り難う。」
素直にそう礼を言うと、ニーナは一瞬きょとんとした顔をした後直ぐに満面の笑みを浮かべた。
「ハイ!それではこれでチュートリアルは終わりとなります。オーブリーさんのご健闘をお祈りさせていただきます!」
ニーナがそう言った後、俺の目の前に白く輝くトンネルの様なものが形成された。
此処を通っていけという事だろう。ブンブンと大きく手を振るニーナに再びお礼を言って、俺はトンネルの先へとくぐって行った。
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