ふたりでできること
@ririrere
第1話
"退屈"
高校生"花"の今の感情を表すには十分すぎる2文字だ。
午前最後の授業はいつも退屈だ。
パッとしない教師が前でボソボソ喋りながら黒板に文字みたいなものを書き、それをノートに写す。
女子高生の肩書きを無駄にしながらこの単純作業を繰り返してもう半年になる。
中学の頃は夢にまで見た花のJK生活はとっくに灰となって消えさった。
俗に言う高校デビューの失敗だ。
幸いにも中学からの友人が数人同じ高校に居たおかげで本格的なボッチとまでいかずにすんでいる。
あ、達観した風を装っていたら授業が終わった。
半年も経つと教師の終わりの挨拶が"小さすぎて"私の耳に届かないので周りの"授業が終わってお昼休み"を匂わせる雰囲気で察することにも慣れた。
やっとお昼の時間になった。
「花〜?お昼食べよ〜」
教室の扉の方から私を呼ぶ声がする。
先程言っていた私の数少ない話をできる中学からの同級生達だ。
「うん、今行く〜」
高校のお昼は特に特別なものは無い。
アニメやドラマでよくある屋上なんて封鎖されていて行けるはずがない。
ただ他のクラスにいって机をくっつけて話しながらお弁当を食べる。
ただそれだけ。
でもそれが私の中で一番女子高生というものを感じられる瞬間なのが悲しい。
同級生が恋バナやらスイーツの話をしているのを聞いているだけで満足している自分が単純すぎて逆にすきになってしまう。
「ねぇ、花はどう思う?」
あ、悦にひたってたら急に話を振られた。
聞いてなかったとか言えないしなぁ。
でもこんな時、便利な逃げ方があることを私は知っている。
「ごめ〜ん、お弁当食べてたら聞きそびれちゃった〜
何の話〜?」
「もー、しっかり聞いててよ〜
でさー、あいつがね〜」
よし、上手く切り抜けた。
このように興味はあります、でも聞きそびれちゃいました感をだすことが重要なのです。
私はこのためにちょっと天然を演じている。
天然だと思われていた方がなにかヘマしても割と許されることが多くて楽だ。
どうせまたあいつがウザイやらむかつくやらの愚痴だろう。
彼女達の話に全く興味は無い。
だからと言って彼女達の意見に肯定も否定もしない。
火のないところに煙は立たないと言うように、私はなるべく意見を言わないようにしている。
なるべく波風立てずに学校生活を穏便に過ごしたいからだ。
少しでもそういう痕跡を残したくないのでそこだけは徹底的に意識を向けるようにしている。
いっそ1人の方が楽なんじゃないかと思うかもしれないが確かにその通りだ。
しかし、それは学校生活においてあまりに愚策だと胸を張って言える。
なぜなら個よりも圧倒的に集団のほうが学校生活において有利だからだ。
まず、学校行事や授業において1人でできることは限られている。
文化祭、体育祭などの団体行事は言うまでもないだろう。
だから私は興味がなくても話をある程度合わせたり、行動を共にして超面倒な集団に知恵を振り絞って所属することを決めた。
我ながら上手く演じていると思うし、案外見抜かれないものなんだなと逆に関心もしたりしている。
そしてお昼休み、午後の授業と過ぎてあっという間に放課後になった。
今日も一日無事に終わった。
毎日これを繰り返して女子高生を無駄にすり減らしていってる気がする。
「また明日〜」
「うん、また明日〜」
これ同じこと明日も言うんだろうなと思いながら私もさよならの挨拶を返す。
私はいつもの帰り道をゆっくりと歩く。
校舎を出てちょっと歩き、駅の改札を通って電車に乗る。
また明日も同じ繰り返しなんだろうなと思いながら電車に揺られる。
疲れきった顔の人達が次々と乗り込んでくる。
(私も同じような顔してるんだろうな)と思いながら私は目を瞑る。
今日もいろいろ、なかった。
とくに思い返すこともなかった。
私は重い瞼を上げて電車を降りる。
改札を出てまた歩く。
帰り道に通る土手。
ここだけはいつ見てもオレンジ色の夕焼けが綺麗だ。
私はカバンからデジカメを取り出す。
おばあちゃんに貰った入学祝いでなぜか買ったデジカメだ。
特に欲しかった訳でもない。
私は目線をだいぶ下におろし夕焼けでオレンジに染まった土手にカメラを構える。
あー、ダメだ。
やっぱりシャッターを切るまでもいかない。
あとはボタンを押すだけなのになぜかそこでどうでも良くなってしまう。
なにに満足してないのか自分でも分からないのが気持ち悪い。
これもいつも繰り返している。
カメラを構えるまではいってもそこから指を動かす気になれない。
私はカメラをしまい、また歩みを進める。
家に着くと両親や弟はもう帰ってきていた。
優しい父と母。
私に懐いてくれる年の離れた弟。
なにもない私には勿体ないくらいだ。
でもなにか満ち足りない気がする。
晩御飯を食べ、お風呂に入り眠る。
起きるとまた電車に乗って学校へ行く。
そしてまた"退屈"の繰り返しだ。
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