妖精の国の歩き方
たぬきち
第1話ピカッと光っただけなのに
ここは九州は佐賀の田舎町にある内科医が営む個人病院で、名前をあまつか医院と言う。
田舎ならではの広々とした敷地内に併設された保育園は病児も見てくれるとあって、町では一番賑わっている保育園でもある。
パッと見は夏目漱石の様な上品なちょび髭紳士であるここの院長の天使理人とその息子で優しげな美丈夫の小児科医雪兎。
そして…その併設された保育園の園長を務める母の愛実、病児を担当する同居中の甥っ子の翼…と家族経営の賑やかながら落ち着いた雰囲気の医院である。
「つばさせんせーまたね~!」
「うん、またね~。」
本日最後のお迎えが終わり、夕食後に紅茶とクッキーで、伯母と雑談をしていた翼に雪兎が
「つっくん、やらん?」
とゲームに誘いに来たので
「うん、やろー。」
少しぬるくなったお茶を、くいっとあおり、伯母に断りを言ってカップを洗って、ゆき兄はポテチとコーラ、僕は保冷タンブラーとポテチ用の箸を持ってゆき兄の部屋へ行く。
「週末やけん明日は休診だし今日は遅くまでやらん?」
雪兎がゲームが楽しみで仕方がないという感じで、ワクワクと喋る。
「よかよ、でも急患が入ってもすぐ対応できる程度にね。」
楽しそうなゆき兄を見て僕も楽しくなる。
横広のローテーブルの下に湯たんぽを置き、布団を被せ簡易こたつを作り、横並びになってゆき兄はノーパソ僕はタブレットでゲームを始める。
「ボス戦になる9時までは自由時間でよか?」
「うん。」
自分達が腰を据えているエヴァンシア・テイルの日本サーバーで、本拠地にしている場所は九州の佐賀をモチーフにしたサーガと言う。
佐賀はサガと言う音のおかげか昔から同名のRPGとのコラボが多いらしいのだが、僕とゆき兄が住んでる町は中心部からは遠くほぼ福岡と言っていい町だからあまり恩恵はない。
でも僕達は誇り高き佐賀人だ。
僕がゲームを立ち上げたらまずやること、それは装備の見直しだ。
前日に手に入れた装備と比較してより良い方を使う。
ホーム画面にクリームレモンの前下がりボブに、ライムグリーンの大きなツリ目に大きな狐耳の小さな可愛らしい3Dの男の子が表示される。
これが僕のアバター、狐耳族の一種、フェネギー族だ。
とてて…とクエストを処理するために走っていると初期からいる自分は時々顔見知りに呼び止められアドバイスなど聞かれる。
サクサクと個人で事務的作業のように処理する不要なドロップ武器の分解、武器の強化等のデイリーを済ませ、ゲーム内での自分の職業はテイマーなのだが、従魔がいるゲーム内の自宅へと帰る。
「あるじ、おかえりなさーい!」
と言う舌っ足らずな可愛い声とともに現れる幼女。
ピンク色に透けたもふもふの狐耳、長い白銀の髪で毛先の方に行くに連れてネモフィラのような薄い青になる綺麗なロングヘア。
そして彼女の衣装は有料でダウンロード出来る洋服デザイナーシステムで僕が作ってあげた七五三の被布コート風の和装だ。
…これこれ、コレですよ。
もう十年以上やってますが、従魔ちゃんのおかえりなさいコールが可愛いんですよもう。
この子の名前は玉藻、種族は幻獣種の九尾の狐だ。
このゲームのリリース前、β版当選者で当時テイマーを選んだ人しか貰えないキャラだったのでレア中のレアな従魔なのである。
普段は幼子の姿や仔狐の姿をしているが、戦闘中は、魅惑的で華麗なお姉様になる上にとても強い。
因みにテイマーにもランクがあって、僕はβ版からテイマーをやっているだけあって、テイマー歴が長く最高ランクのビーストマスターのランクを持っている。
ビーストマスターが作ったごはんは魔物達にとっては何よりも美味しい食べ物らしく、NPCの食堂の親父さんからの依頼で食材アイテムが生ってるモンスターを生け捕りする為の罠に仕込む餌の依頼などもあったりする。
今日は報酬の通貨の他に、ベリー豚についている苺と肉を分けてもらえた。
食材になってるモンスターを生け捕りすると大量に食材が貰えるのだ。
生け捕りは難易度が高く、高ランクテイマーが必須なので仕事には困らないのは喜ばしい。
他にもNPCのおじいさんからの依頼で牧場の動物のお産を手伝えば、ギルドファームでも牛や羊を飼えるようになる。
ギルドファームの動物を世話したあと、体が汚れたと表示されたため自宅に戻ってお風呂を済ませたので、そろそろゆき兄も来る頃だろうと、玉藻を連れて僕とゆき兄が共同でギルド長を務めるギルド、シュガーロードへと帰った。
部屋の内装は別売りのホームデザイナーで作ったブラックモンブラン型ソファや、丸房露型のクッション、焼豚ラーメンのどんぶり型の猫型従魔用ベッドや、うまかっちゃん型の仮眠ベッド…そう九州人が大好きなあいつらの姿をしている。
リビングにうちで一番攻撃力のあるパラディンのウィステリアの抜け殻が居たので拾って行った。
このゲーム中身がいなくてもオンライン状態であれば親密度が高いフレンドやギルメンだと勝手にキャリーして自動操縦出来るのだ。
それ良いのかって?良いっちゃない?だって参加したら経験値もアイテムもちゃんと貰えるんだから、結構ありがたいシステムやん?
このゲームは9時になると同時にゲーム内の何ヶ所かある都市の4ヶ所にランダムにボスが現れる。
見つけた人は世界チャで緯度を教える。
今日はフクオッカーのハカタ、オーサカのナンバ、トキオのロッポンギ、エゾのサッポロか…。
そして…一気に皆で叩く!
ある程度ダメージをあたえたら次の都市へと騎龍に運んでもらい、また違うボスを叩きに行く。
これの繰り返しで、ちょっとずつ攻撃してボスの装甲を剥がしていくのが暗黙のルールになっている。
理由は定時ボス戦参加者全員にアイテムとゲーム内通貨が渡るようになっているから、最初にレベルの高いプレイヤーがちょっとずつ攻撃してレベルの低いプレイヤーのために装甲を剥がして弱らせておくんだ。
しかしラストアタッカーにはボーナスが付くので、ラストは一気に高レベルプレイヤーも参加するんだけどね。
「今日は時間内に4体のボスに攻撃できたね。」
「だねー、今日は珍しくBB団見掛けんかったね。」
「うん、いつもならあん人らがボスを占領して近づけなくて中々攻撃できんけん今日楽だったね。」
そう、協力して倒すのは暗黙のルールなので少しでも報酬を多くもらおうと独り占めしようとするギルドもいるのだ。
「次何する?」
「ドラゴンのお宝探しは?」
雑談をしていた瞬間…。
いきなりPCとタブレットから眩い光が発せられて、思わず僕とゆき兄は瞼をギュッと瞑ったのだった。
…ザワ…ザワザワ…
「ん?妙に騒がし…は?」
「は?」
「はああーっ!?」
目の前に…ゲーム内で一番大きな…唯一独立した空中都市…始まりの町にある王都エヴァンシアの噴水広場…フィオーレの噴水があった。
ゆき兄を見れば、聖職者の頂点教皇の衣装を着た、うさ耳族のルナールの姿で呆然としていた。
衣装はゲームのツクヨミのアバターだが、3Dよりも随分と穏やかな顔…そう、ゆき兄の面影があった。
それは僕も同じで…頭を触るとふわっとした触り心地のいい狐耳が生えていたのだった。
「これどげんなっとーと?ログアウト…できん…」
「うん、できんごたーね。」
そして…さっきまで空っぽだったウィステリアが…
「こんでぃてぃわー!」
屈託のない笑顔をしたかと思うと幼児のような…いや明らかに幼児の舌っ足らずな大音量の声で叫んだ。
「ウィーくん?いや…この声は、まさかすーちゃん?」
「う、うん…たしかにこれはすーちゃんの声やね。」
ウィステリアの年離れた赤ちゃんの妹すーちゃんの声だと確信した。
すーちゃんは普段うちの園で預かってるから聞き間違えるはずがない。
恐る恐る僕は…保育園で出席を取るときみたいに
「藤田アンシェリーク菫麗ちゃーん?」
と聞くと…ウィステリアの姿をした彼…いや彼女は
「あーいっ!」
と満面の笑みではーい!と手を上げてお返事してくれたのであった。
あぁ…どうしたものか。
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