第8話 レイラ、ガルアラムの手料理を食べてドキドキする
「うわぁ……。これはすごい!」
ガルアラム様の手料理を食べたいとお願いをした翌日の夕飯、ベッドの横に設置されている簡易テーブルの上には、これでもかというくらいの大量の料理が並べられていた。
普段用意されているものとは見た目も匂いも違い、明らかに別の人が作ったものだとすぐにわかる。
「食べられるだけ食べてくれればそれで良い。ただし、デザートもあるから満腹にしないようにしてくれ」
「こんなにたくさん作っていただいたなんて……」
「朝から仕込んでみた」
やることが極端すぎる。
朝から頑張ってくださるなんて……。
あれ、だとしたら急用というのは仕事ではなくて、まさか……。
「急用とは?」
「レイラ殿の食事の準備だ」
「申しわけございません!! ガルアラム様の貴重な時間を私のワガママのためにこんなに使わせてしまって……」
「気にすることはない。それよりもリリが戻りしだい遠慮せずに食べてくれ。レイラ殿が遠慮して食べないのなら俺が食べるが」
「いえ、そんな頼んでおいて食べないなんてことは致しません! もういただきます!」
私の腕はもう動かせる状態だ。
自分でフォークとナイフを持って食べようとしたのだが……。
「待て、まだ無理して持つな。リリがもうすぐ戻ってくるから、少し待て」
「大丈夫ですよ。それに、早くガルアラム様の手料理食べてみたいですし」
「ぐ……」
ガルアラム様から普段聞き慣れないような声が聞こえてきた。
せっかくこれだけ大量に用意してくださったのだから、すぐに食べたいに決まっている。
私はただ、当然の気持ちをそのまま言っただけだ。
だが、一人で自立するにはまだ少し早かったようだ。
フォークを持とうとしてみたが、まだ物に触れるとジンとした痛みが襲ってくる。
「痛いのだろう……。無理をするな。それにしても、リリのやつ遅い……」
「やっぱり我慢できないので食べさせていただきます。いただきますね」
腕を動かせるようにするためのリハビリだと思えば良い。
私はなんとかフォークを持とうとしたのだが、その上から、ガルアラム様の手が乗っかった。
「すまないが、レイラ殿に無理させるわけにはいかない。リリを待てないのならば、我慢してくれ」
「ちょ……えぇええ!?」
ガルアラム様がフォークを奪い、私の口元にそれを寄せてきた。
いわゆる、『あーーーーん』という状況だった。
「あの……? このまま食べろと……?」
「他意もやましい気持ちもない。あくまでリリの代行だ……。すぐに食べたいのならこれしか方法がない」
「それは……そうですけど」
いくらお互いに恋愛としての行為がないと言っても、さすがにこれは恥ずかしい。
ましてやガルアラム様はただでさえ国宝級のお顔立ちなのだ。
恋愛感情にならずとも、多少なりともドキドキはしてしまう。
「冷めるぞ」
「うぅ……。今回だけは甘えさせていただきます」
数回だけ手を動かすだけなら我慢はできるとは思うが、これだけのたくさんの料理をフォークで口に運ぶのは痛みに耐えられなさそうだ。
しかも、ナイフで肉を切る必要もある。
これは今の私にはまだできない。
お互いに勘違いすることは決してないだろうという謎の信頼がある。
疾しかったり下心があったりでこのような行為をしてきているわけではないことくらいは理解できる。
あくまで私の怪我の痛みを心配して食事補助をしてくださっているだけだ。
覚悟を決めて、ガルアラム様の持っているフォークを口に入れてもらい、口の中では極上の料理を堪能する。
決して、『あーーーん』してもらったからよりおいしくなったというわけではないだろう。たぶん。
「おいひいぃぃ~!!」
「飲み込んでから感想を言ってくれ」
「おいしすぎです。こんなにおいしいごはん、初めてです!!」
「それは良かった。続き、食べるか?」
「はい!」
料理のおいしさに釘付けだった。
もはや、『あーーーーん』行為の羞恥心などどうでもよく、極上で国宝級のような料理を食べたい思考がなによりも先行した。
ガルアラム様からの『あーーーん』行為によって、次から次へと私の口のなかに絶品料理が入っていく。
遠慮なくどんどん食べていく。
とにかく食べる。
食べるったら食べる。
「さすがに食べ過ぎの域にきていないか?」
「そんなことありません! おいしすぎて食欲が倍増していますから!」
「そこまで喜んでもらえるのは嬉しい」
とは言ったものの、料理の八割ほどを食べたところで、さすがに私の胃も限界に近づいていた。
だが、出されたものを残すなど絶対にしたくない。
食事が与えられるだけ大変ありがたいことだ。
普段からろくに食事を摂ることが許されなかった日々が続いていたため、食べ物を残すなんて贅沢は絶対に避けたかった。
気合いと根性で食べた。
「ごちそうさまでした」
「完食……」
「こんなに満腹になったのなんて何年ぶりでしょうか。ありがとうございます」
「普段食べないのか?」
「あ、いえ……。そういうわけではないのですが。とにかく、おいしかったです」
「良かった。デザートはどうする? 無理はしなくて良いが」
「あ……」
もう本当に胃が限界である。
デザートが別腹などという言葉は、今の私にとっては論外だ。
これ以上お腹に入れたらさすがにやばい。
「申しわけありません、明日のおやつにしてもよろしいですか?」
「構わないが。やはり無理していたのか?」
「無理はしていません。本当においしかったので。ただ、せっかく用意していただいたごはんを残すなんて許せなかっただけです。絶対に……!!」
「そうか……。次作るときは今回よりは少なくするよう心がける」
「はい、助かります。……て、え? 次?」
「あぁ。毎日は難しいが、時間のある日は作ろうかと思う。こんなに喜んでくれたのは嬉しかったのでな……」
ガルアラム様は人差し指で頬を掻きながら照れているようだった。
こんなに極上の至福料理をまた食べることができる……。
そう思うだけで、私はさらに幸せ者だと思ってしまう。
「ありがとうございます!! 楽しみにしています」
「あぁ」
「失礼します。遅くなりました……ふふ」
「リリ! 遅すぎではないか」
食事が終わったタイミングで、なぜかニヤニヤと微笑みを隠しきれていないリリが入ってきた。
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