第6話 レイラ、ガルアラムが責任感が強すぎる人だと知った

「ガル……こほん、主人様はレイラ様に大変感謝しておりますよ」

「へ? どうしてです?」

「今回で四度目ですからね。こうして医務室で何日もお世話をするのは」

「そんなに事故を起こしてしまう方なのですか?」

「いえ、今回が一番重大事故です。一度目は縁談をお断りした際にお相手がショックで倒れてしまいました」

「はい……?」


 そんなことだけでガルアラム様はお世話をするのか。

 相当ひどい断り方をしてだとか、理不尽な縁談ならばわからなくもないが、ガルアラム様がそういう酷いことをするとは考えられない。


「二度目はお茶会にて告白を断った際に、これまたお相手がショックでテーブルに足をぶつけて怪我を」

「しょーもな!!」

「主人様は責任感の強いお方ですからね。自分から縁談や告白なども、毎回非常に申しわけない気持ちがいっぱいでお断りしているのですよ」

「でも、さすがに告白で振られてしまって不注意で怪我したことに対してガルアラム様が責任を感じることはないと思いますけど……」

「はい。私も同感ですが、人一倍責任を感じてしまう体質なのです」


 事故になったとはいえ、私のことを治るまで看病すると言ってくれるようなお方だ。

 しかも、ほとんど付きっきりだ。

 リリさんの言っている意味もなんとなくわかるような気がする。


「で、三度目はどんな感じで……?」

「雨の日でしたね。告白で振られてしまったお相手が帰り際に転けて頭を打ってしまわれました」

「それってもう、ガルアラム様は関係ないでしょう!?」

「それでも、『あのとき、もう少し話をしていればこんなことには……』などと仰っていましたね」

「はぁ……」

「ちなみに三度目のお相手は男性です」


 どこまでお人好しで責任感が強いのだろう……。

 男女関係なくモテるとは思っていたけれど、対応まで完全平等で接することなんて、今の貴族社会でなかなかできることではない。


 こんな男性もいるんだな……。


「どのお相手もここで看病する際はワガママ放題でした。食事はもちろんのこと、理由をつけて主人様とお近づきになろうと。身体を狙ったりするようなこともありましたね。さすがにそのときは私が止めに入りましたが」

「はぁ……。私は言える立場じゃないですけど、そんな相手ならフって正解だったと思いますけど」


「私もそう思います。ですが、レイラ様は違いました。あれだけの大怪我をさせてしまったにも関わらず、他の三人のような要求などを一切してこない。今回は大事故ゆえに、どんな要求であろうとも全て引き受ける覚悟でいたそうです」

「いや、そもそもが私の不注意で起こしてしまった事故だと思いますし。それなのにこんなに好待遇をしていただいてしまって、むしろ申しわけないというか……」


 これだけ早く怪我が治ったのは、確実に侯爵邸専用の医師による手当てと、普段食べることのできないような栄養満点そうな食事を与えられているからだろう。

 おまけに、このあとおやつが待っている。

 これほどまでの扱いを受けていて、本当に申しわけないと思ってしまう。

 それに、この生活に慣れてしまったら、伯爵邸に帰れなくなってしまうのではないだろうか。


「主人様はレイラ様になんとお詫びをすれば良いのか悩んでおります。レイラ様の謙虚なお気持ちは大変素晴らしいことだとは思いますが、ここは主人様のためにも、なにか要求をしていただきたいのです」

「要求、ですか……。でも、本当に私のせいでこのような状況にしてしまったのに、そんなことできませんよ」

「さようですか。まぁ、無理にとは言えませんね……」


 リリさんが非常に残念そうな表情を隠しているように見えた。

 最初にガルアラム様からも、『治療費や慰謝料も払う』と言っていたっけ。

 毎日一緒にいるから、ガルアラム様の性格もほんの少しだけだが理解してきている。


 ここでこのままなにも要求しないと、永久にガルアラム様は責任を感じてしまうのではないだろうか。

 とはいえ、本当になにを要求すれば良いのかがわからない。

 どうしようか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る