第5話 レイラ、少しだけ回復する
「信じられないようなペースで回復していきますね。全治三ヶ月と医師は仰っていましたが。まさか、もう腕を動かせるようになるとは……」
「毎日三食、栄養のあるものを戴いたおかげかと」
「ですが、レイラ様の腕も完治しているわけではありません。引き続き私リリが食事のお手伝いなどを担当させていただきます」
「ありがとうございます」
療養生活がはじまってから十日。
ようやく痛みが引いてくれて、ゆっくりだが腕も動かせるようになってきた。
今回のような大胆な怪我は初めてだが、私自身も怪我の回復が早いと感じている。
その理由としては、確実に食生活にあると思う。
栄養価の高そうなものを選んで用意してくださるし、今までの食生活と比べたら天と地の差である。
それに加えて、ガルアラムさまとリリさんの看病が丁寧で、私の生活リズムが完璧になっているのだ。
私も早く治したいと思っているため、腕が動く動くと、自分に言い聞かせていたが、これはまぁあまり意味はなかったかもしれない。
「ずっと寝たきりでなにかしたいこともあるでしょう。可能な限りは叶えられるよう努めますので、なにかご要望があればなんなりとお申し付けください」
「いえ、こうやってゆっくりできるだけでも私は満足ですよ」
「……怪我する前はどのようなことをされていたのでしょうか?」
「えぇ……」
これは正直に答えたら危険だ。
リリさんがどういうわけか心配そうな表情で聞いてくる。
もしかして、私の今までの生活がどのような毎日だったのか知っているのだろうか。
確信は持てないため、ここは黙秘を選択した。
「好奇心で聞いたまでです。申しわけありません」
「あ、いえ。私今までなにしていたかなって思ってしまって」
「まさか、記憶喪失ですか?」
「そんなことはないのですが、私、今までなにしてたんだろうなって。こんなに充実した生活をさせていただくと……あ。なんでもありません」
「よほど忙しい毎日を送っていたのですね。許可も得ているでしょうし、今はゆっくりお休みください」
「ありがとうございます」
危なかった。
ここでの待遇が良過ぎて、うっかり口を滑らせそうになってしまった。
リリさんも深くは聞いてこなかったため、おそらくは大丈夫だろう。
身体の傷も幸い事故の怪我によるものだろうと思われているようだ。
だが、このあとも家のことに関してはボロを出さないようにしたい。
「話題を変えましょうか。なにか食べたいものはございますか?」
「いえ、むしろ毎食おいしいものを用意していただき感謝です」
「ふふ……。気に入っていただけたようでなによりです」
実のところ、食べさせていただけるだけで大変ありがたかった。
これ以上なにか食べたいものを強請るのはさすがに気が引ける。
社交界に出ていたころに用意されていたようなクッキーが食べたいです、とはさすがに言えなかった。
「回復が早いですからね。今日からおやつも用意しようかと思っていますが」
「おやつっ!?」
「急に声量が上がりましたね。レイラ様はお菓子がお好きなのですか?」
「は……はい。とんでもなく……」
私は顔を落とし、恥ずかしながら伝える。
こればかりはチャンスを逃したくはない。
かなりのワガママになってしまうが、もう何年もお菓子など食べていないから、欲求が先行してしまい我慢ができないのだ。
「ご希望があれば用意できますよ」
「クッキー……ありますか?」
「もちろんです。むしろ、好みを教えていただきありがたいです」
「楽しみです!!」
「ふふ……。レイラ様は本当に謙虚ですよね」
「そんなことないと思いますよ。こうして食べたいものも……。あーーっでもお菓子の話になってしまうとどうしても我慢ができなくて。申しわけありません」
何度も頭を上げ下げして謝った。
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