すべての縁談を断り続けていた次期侯爵様ですが、なぜか私だけは溺愛されているようです
よどら文鳥
第1話 レイラ、事故に遭う
「きゃーーーーーーーーーーーっ!!」
私、レイラ=ミリシャスが伯爵家で生を授かり、今日が大人の仲間入りになる十六歳の誕生日当日のことである。
めでたい日なのかどうかは別として、せっかくの誕生日なのに大変なことが起きてしまった。
気分転換で散歩している最中、馬車に撥ねられてしまったのだ。
右腕あたりに馬が突っ込んできて、吹っ飛ばされてしまい、左腕がおもいっきり地面に激突。
かつてない痛みに苦しみながら、そのまま意識を失ってしまった。
♢
「うぅ……いたっ」
「目を覚ましてくれたか……」
「ん……んんっ!? あなたは、ガルアラム=ヴェーチェ様では!?」
身体の痛みはひどいものだが、今はそんなことなどどうでもいい状況だ。
ガルアラム次期侯爵様が、ホッとしたような顔を浮かべながら私の目の前で立っているのだ。
貴族界では彼の顔と名前を知らない者など、いないだろう……。
寝ている場合ではない。
私はすぐに頭を下げようとしたのだが、身体の痛みでろくに動くことすらできなかった。
「無理に動かないでくれ。挨拶など気にせずとも良い」
ふと自分の身体を確認してみたのだが、両腕には包帯などで完全に固定されている。
長い金髪と服で胸元を隠しているものの、隙間から見えるのは包帯で真っ白に変わった私の姿。
私は今、包帯人間になっている。
「あの……、ここは」
「ヴェーチェ侯爵邸にある専用医務室だ」
「私などを看病してくださったのですか?」
「本当にすまなかった。俺のせいでキミをこんな姿に……」
ガルアラム様が本当に申しわけないといった表情で、深々と私に頭を下げてきた。
状況を整理すると、どうやら私が事故になってしまった関係者のようだ。
「俺はキミに全治三ヶ月という重大事故を起こしてしまったのだ。責任を取りたい」
実のところ、身体中が痛いことと動きづらくなってしまったこと以外はあまり気にしていない。
むしろ、こうなったことをどこか嬉しく思ってしまった自分がいた。
「わざわざ侯爵邸に運んでくださり治してくださったのでしょう? あまり気にしなくても良いですよ。でも……、この包帯はもしかして……」
ジロりとガルアラム様を見て確認する。
「向こうにいる女性医師と侯爵邸に仕えているメイドにやってもらっているから安心してくれ。加害者とはいえ、さすがに男の俺が女性に触れるような真似はしない」
「あ、いえ。そういう意味で聞いたわけではありませんよ。手当てしてくれた方々にお礼が言いたいなと思っただけですから」
「キミは被害者なのだぞ……。もう少し、こう、責めて怒鳴るなりしても構わぬのだが。それとも侯爵家の人間相手だからと謙遜してしまっているのか?」
「怒鳴るつもりなんて、相手が誰であってもしませんよ。身体中痛いのは辛いとは思っていますが、こうやってしっかり手当てしてくださっていますし、ヴェーチェ様もわざと事故にしたわけではないでしょう?」
「それはそうだが……」
ガルアラム様はきょとんとしていた。
「起こってしまったことは文句を言っても仕方ありません。それに、私はあのときぼーっとして歩いていました。むしろ私がいけなかったのかもしれません」
どの位置で跳ねられたのかも覚えていない。
あのときはボーッとしながら、考え事をしていたのだ。
「キミがどうであっても、俺が跳ねてしまったことに変わりはない。責任はしっかりととらせてもらう。慰謝料も治療費も世話も!」
「は、はい。ありがとうございます」
このとき私は、ガルアラム様の押しに押されて、から返事でそう答えてしまった。
『世話』という単語に気がつかなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。