第8話 夏前の雪
わたしは東京とは反対方向の新幹線に乗っていた。携帯で仕事場に無理を言い有給を取り。そして、隣には水仙さんが乗っていた。
イヤ、正確には秋葉さんが憑依した水仙さんである。なんでも、秋葉さんは憑代がないと遠出ができないらしい。
さて、その後は電車にバスを乗り継いで。楓先生が住んでいた町に近づいていく。最終目的地は楓先生の眠るお墓である。昼過ぎには目的の墓地に着いた。わたしは携帯で宿の予約を入れて、楓先生の眠るお墓を探す。
「先生さん、これが本当の最後の決意になるよ。わたしは未練を抱えて生きて行くのも悪くないと思うけど」
秋葉さんの言葉にわたしは唾を呑むと楓先生のお墓の前にいた。
これから、あの楓先生に会えるのだ。緊張はマックスに達していた。
……―――。
何も起きない。
「秋葉さん、楓先生の霊体は?」
「おかしいわね、先生さんは嫌われたのでは?」
「そんなことない。あの日、浴衣姿の楓先生とは愛し合っていた」
「少し外に出て様子を見るね」
『コン』
秋葉さんは水仙さんから抜け出ると。水仙さんが目覚める。
「先生?わたしは?」
微睡の様子の水仙さんを抱きかかえる。
「これは夢?先生がわたしを抱きしめている」
ここまで来たのだ、わたしは楓先生への未練を断つ事にした。楓先生の前で水仙さんにキスをする。
その時である。風が吹き辺りの木々を揺らす。
『周平くん、もう、未練が消えたのね。わたしは嬉しいよ』
夏前だと言うのに雪が降り始めた。楓先生が泣いている。楓先生も未練が無くなったのだ。
「秋葉さん、水仙さんを頼む」
わたしはそう言うと降る雪を見つめる。再び風が吹くと雪は止んでいた。
そして……。
『さ、よ、う、な、ら』
わたしと楓先生の声が重なる。
「さぁ、帰ろう。楓先生は許してくれた」
わたしは一晩、この町に泊まり、水仙さんと憑依した秋葉さんを神社に送ると東京に向かった。
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