22 個体番号アルファ41
「さて、仕切り直しだ。ワシたちの目的はアルファ世界の召喚だからな」
ボーアたちは休憩を終え実験を再開する。今度は詠唱は未知の世界の召喚、アルファ世界の召喚だ。
《不完全な世界の顕現》では、今から分岐した並行世界だけでなく、過去から派生し、未知の文明に至った世界をも召喚することができる。
エスカリエでは《想いの力》の登場により、一部の科学技術の発達が遅れていたが、この召喚により、その遅れを補完していた。
「《
リンドが詠唱すると、マリーたちの上空に巨大な鉄の塊が現れ、マリーたちは影に覆われた。
「いかん! 逃げろぉぉぉぉ! 踏み潰されるぞ!」
ボーアと研究者たちは一目散に、カルネラはリンドを抱えて、マリーはミーヤを抱えて退散した。
ズウウウウウンン、と鈍く重みのある音で地面に落下した。マリーたちのいた所はクレーター状にへこんで鉄の塊がめりこんでいる。
ボーアたち研究者はおそるおそる、鉄の塊に近づいて遺物の調査を開始した。
「あれが、異世界の遺物ってこと?」
「そうだよ。まあ、異世界とは違うかもね。ファンタジー小説にでてくる魔法の武器は召喚できないからね。存在可能な世界、つまりは並行世界ってことさ」
「こっちの世界からは召喚できるのよね? じゃあ、向こうの世界からは無くなるってこと?」
「ああ、面白いことに気がつくね、姫様は。向こうも《想いの力》が使えたら再召喚は可能だろう。対等な関係だよ。まあ、こっちの世界のものが消えたなんて話はないから、向こうの世界は《想いの力》を使えないんだろうけど」
リンドは眠たそうに目をこすってカルネラにもたれかかる。ん? とリンドは驚いた様子でカルネラから距離をとった。
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない。たぶん、既視感というやつだ。カルネラにもたれかかったとき、何故か懐かしい気分になった。気の所為だろうけど」
「既視感は睡眠不足のときに起こりやすいですからね。《想いの力》の代償、抗えない睡魔でも既視感は起こるのでしょう」
「マリー様」
「おかえり、マーガレット」
マーガレットは鉄の塊が落ちるのをみてこっちに戻ってきた。マーガレットがやってきた方をみると、ローズを含めた五人がこてんぱんに叩きのめされて倒れていた。
しばらくして、ボーアが未知の物体の調査を終えて、マリーの元にやってきた。
「いやー、リンド・リムウェル卿、お手柄ですな。アレはエスカリエがもっとも欲しかったものでございます」
「ボーアのほしかったものが召喚できて、僕も嬉しいよ」
「アレはなんなの?」
ボーアはしばらく考える素振りをして、女王であるマリーなら言っても問題ないと判断した。
「ふむ。エスカリエでは大砲の実用化は成功しておりますが、銃の開発が追いついておりませんからな」
エスカリエに銃が伝来したのは《不完全な世界の顕現》で拳銃を召喚してからのことだった。
個体番号アルファ38は回転式の拳銃。より大型にした小銃が検討されていたが、砲身ごと爆発したり、大砲よりも精度が低いことで実用化にいたらなかった。
「たとえ、開発に追いついたとしても、その頃には戦争は終わっておりますでしょう。そこで個体番号アルファ1に白羽の矢がたったわけです」
「個体番号アルファ1ですか? たしか、3枚の書物。エネルギーと質量の等価性を示したものでしたね」
「流石はカルネラ、よく勉強しているよ。ワッハッハッハ! つまり、陛下、我々はたった1グラムの質量から莫大なエネルギーを得られるというわけです」
想力者が並行世界の遺物を召喚して得られた飛躍した科学技術。
その中には、ウラン原子に中性子を衝突させると質量が減少しウラン原子でない原子が生まれるという文献があった。
長らく未解明だった文献は個体番号アルファ1により解読され、核が分裂し質量の減少分がエネルギーとなって放射されたことが証明された。
つまりは、核分裂反応。
それは従来の研究者の目に止まり、エスカリエの研究者アルバート・マーゼンフリーによって、核分裂反応で放射される中性子をさらに未反応の核にぶつけることで連鎖的に核分裂反応が起こる――核分裂連鎖反応が発見された。
机上の核爆弾の提示だ。
エスカリエの科学技術では、開発に後三十年はかかるとされていた。
だが、エスカリエには《想いの力》があった。《想いの力》の性質、時間の圧縮はこの三十年の時間を圧縮し現在へと召喚できる。
「核ですよ。核! 陛下、エスカリエは核を手にいれましたぞ!」
その日、リンドが召喚したものは、個体番号アルファ41、ウラン235を用いた原子爆弾だった。
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