主従関係

アルフレッドは少年を宥めた。

泣き始めた少年は落ち着いたのか、頭巾を脱いで隠していた頭を露わにした。


亜人。その特徴を見てアルフレッドは何故そうも頭を隠していたのかを理解する。

しかしアルスバーンでなら兎も角、ここはゲームの中。


貴族でもなくなったアルフレッドが特別に嫌う理由はない。

特にスープを飲んでくれた顧客だ。

少年達が毎日無銭飲食してくれたお陰でアルフレッドは新しい野菜を買えたし、食事も豪華になっていった。


疎むどころか感謝しているのだ。

今更容姿を責める気などなくなっていた。



「事情は理解した。そして君たちの境遇もわからないでもない」


「その、僕達を捕まえたりは……」



なんて物騒な話をするんだ。

男の記憶にはこんなストーリーなかった気がするが?

それともアルフレッドが好き勝手ゲームを改竄したからだろうか?

それとも精神集中では見え方が変わるのか?

わからぬがアルフレッドはそうじゃないかと思い至る。



「なぜ? 僕としては唯一僕にGを落としてくれるフレンドだ。何故手放す様な真似を? 君が僕に感謝してくれる様に、僕も君たちがよく食べてくれるので感謝してるんだ。お陰でこの才能を広げることができた」


「才能……ではここは神様が作りたもうた世界なんですね?」


「あはは! そうとも言えるね。それで君の名前は? と、聞く前に名乗るのが礼儀か。僕はアル。ただのアルだよ」


「アル様ですね。僕はカイト、見ての通り狼の特色を持つ亜人です」


「カイトか、よろしく」



アルフレッドは手を差し伸べた。

カイトはその手を握り返すべきか逡巡したのち、力強く握り返した。アルフレッドはニコリと笑う。カイトもまた笑みを強めた。



「これで僕達は友達だ。お互いに名前で呼び合おう」


「そんな、恐れ多い!」



さっきまでは呼び合える雰囲気だったのに、カイトは直ぐに萎縮した。

今までの行いが神からの施しではなく、無銭飲食だと気がついたからだ。



「何だかなぁ、お互い食べ盛りということでいいじゃないか。とにかく今までの事は特に気にしてない。それでも申し訳ないと思うのなら少し手伝ってくれないか?」


「お手伝いですか? 僕でよければ」


「その前に説明をするよ。ここの街を見るのは初めてかい?」


「はい、こんな人気のない街……僕は始めてみます」



そりゃそうだろう。ゲームの中だし。

定員は10名までと少ない。

多くてもあと8人しか入れないのだ。

確かに定員10名の街にしては大きいなと思った。


そういうゲームだと思い込んでるアルフレッドは気にならない事だが、カイトはここが初めてだ。



「まずは武器だな」


「武器なんて、僕は獣に特色を持ちます。徒手空拳と爪、牙が武器になります」


「おお、SPDファイターかいいね。実はとあるメニューを大量生産するのにモンスターのドロップ品を集めていてね」


「ドロップ品というのは何ですか? モンスターは倒しても死体しか残しませんよね」



何だその現実チックな世界は。

もしかしてハッピーベジタブルの世界ってそんな残酷なの?

アルフレッドは恐怖する。

一見してとぼけた顔したようせいは歴戦の猛者だった?

そりゃ散歩に三時間も五時間もかけるわけである。



「まぁ見てて。この世界は僕の才能で生み出した世界。面白い生物と生態系をしてるから。こっちだよついてきて」


「はい、お供します」



カイトを連れてアルフレッドはオーダリムの草原へとやってくる。そこにいるビビリゼリーを剣でばっさり切ると、弾けてドロップ品を落としたのだ。



「こんな感じ。出来る?」



振り返るアルフレッドは、驚愕に目を見開くカイトに自分もこんな感じだったなと昨日のことを思い出す。

まだたった一日ですごい成長。

これが課金の力だ!



「やってみます」



カイトは普段通りに攻撃を仕掛けるが、思った通りに仕留められずに四苦八苦する。

実際のスライムはコアを消滅させればいいのだが、ここはゲーム。そんな裏技は存在せず、レベル1の状態でグーパンチで殴ってる状態だった。



「た、倒せた。ここのモンスターは手強いですね」


「すぐに慣れるよ。今の君はレベル1の状態だからね。割り振りステータスを振っていく事で君はどんな自分ににもなれるんだ。こんな風にね」



アルフレッドは剣を鞘に納め、右腰に手を置いて杖を構えた。

詠唱後、スライムを中心に爆発が起きる。

周囲を熱気が焦がす! ビビリゼリーはその場にドロップ品を落としていた。



「魔法! アル様は貴族の生まれなのですか?」


「違うんだカイト。ここは生まれも育ちも関係ない空間。僕は生まれながらに魔法適正など持たなかった。けど、この世界ならこんな風に!」



意気揚々と、カイトに見せつけるように魔法を行使する。

カイトの両目は子供のように爛々と輝いていた。

いや、アルフレッドもカイトも10歳。十分に子供の年齢だ。


しかしアルスバーンでは貴族では社交界に顔を見せ、捨て子は大人に混ざって仕事をする年齢だ。子供らしさなんてとっくに捨てているのである。



「ワクワクするだろう? 僕は魔法を取った。君は何を取る?」


「僕も魔法を使えるんですか?」


「魔法二人パーティか……僕は君に詠唱中の盾役をお願いしたかったが、君がその道を望むなら引き止めないよ? どのように成長するかは君の自由だ」


「アル様が求めるのなら僕はスピードを極めます!」


「なんか悪いね、僕のために。それじゃあ今日はこの素材を集めてね」



アルフレッドはブルーコアとレッドコアを重点的に集めるように言った。


そして集めた報酬の品をカイトに土産に持たせる。

スープバーを通せばアルフレッドにがっぽりGが流れる仕組みである。


アルフレッドは新しいフレンドとの出会いに今日はよく眠れそうだとログアウトした。

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