井苦銀一に人権はない

@junk1900

第1話 井苦 銀一

 人権を売った。

借金がかさんだもので、藁にもすがる思いで出品したらなんとなんと10億円。

一生遊んで暮らせる。

どうしてだろうな。


 *


 俺は井苦いぐるし銀一ぎんいちというものだ。年齢不詳。


 人権がないが、真っ当に生きているので問題はない。今週も、車に撥ねられて慰謝料0円だったことと、クレジットカードが作り直せなくて財布が空になったこと以外は絶好調である。あぁ、あと変な宗教団体から人体実験されそうにもなったか。


 そんな俺にも妻は何も言わずついてきてくれる…といいのだが、そう上手くはいかないらしいね。俺が10億円を手にしたと伝えるなり、彼女は中指を立てながら鬼電して会社を辞めた。早計だとかそういう類の言葉が頭の辞書にないのだろう。


 俺たち2人は大して愛し合っているわけではない。いうなれば友達夫婦ってやつ。彼女は俺の事を親友だと思っているようだが、俺は彼女がハンドルを握った時の「あの顔」が大好きだ。そう伝えた日には晩飯を抜かれる。



 そして今日も、俺の皿は空っぽだ。やべえだろ。


「やべえんじゃねえわよ!今日の晩飯は俺が作ると息巻いてた野郎はどこだ!」


「ここでーす」


 すかさず飛んで来るトゥキック。いいキレだ。だが俺には当たらない。


「だが俺には当たらない、じゃねえのよ!はーひどい。外食行くから金ちょうだい」


「それで手打ちな。どこ行く?」


「寿司。回らないやつ」


「おっけー。あと999968512円残ってらあ、奮発してやるよ」


「宝くじ当たって5秒で破産するやつじゃん、おもろ」


「じゃあ立ち食い蕎麦でいいか」


「やるじゃん。自分が忘れといて立ち食い蕎麦とか。良い度胸してると思う」


「お陰様でな。良い店教えてやるから我慢してくれ」


「マズかったら?」


「わたくしめは人権がありませぬ故、煮るなり焼くなり。なんなりと」



【速報!我々が蕎麦をがっついている隙に空き巣が入りました!しね!】

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