第二話 ストレスを人に向けたらダメ


 初めは確か十年前、きっかけは城を訪れたある魔法使いから転移魔法が込められた魔札を受け取ったことだった。




 転移魔法は地点と地点を魔札で繋ぐことで、瞬時に互いの場所へ瞬間移動が出来る、という星の数ほどある魔法の中でも屈指の利便性を誇る魔法である。


 魔王軍の参謀である俺は当然、この魔法をどう組織の為に利用するかを考える―――べきだったが、その当時の俺は、それはもうたくさんストレスを溜め込んでいた。




 魔国領統一という偉業を果たした代償として、長きに渡る戦争により土地は荒れ果て、民は疲弊。


 見た目も思想も違う種族達によって構成されたこの魔国領は、各地に反乱の火種が燻る不安定な状態が続く。


 終戦からしばらく経つというのに次々と舞い込む問題に追われ、美酒に酔いしれる暇も無かった。




 一方、初の統一王となった魔王は毎日のように酒池肉林の大騒ぎで、問題を報告しても「不満がある奴はいつでもかかってこい」と笑い飛ばすのみ。




 なんで俺ばっかりこんな苦労しなくちゃならないんだ。


 なんであいつばかり良い思いをしてるんだ。




 やってられるか、と投げ出してしまいたくなる大量の業務と、話の通じないアホの世話に向き合う俺には、その捌け口がどうしても必要だったのだ。




 俺は転移魔法を使い、魔王の寝室と自分の執務室を繋いだ。




 効果距離が長くないのがこの魔法の欠点だったが、執務室のすぐ上に魔王の寝室があったのが幸いし、問題なく作動した。


 ようやく仕事を終えた深夜、俺は魔札に触れ、寝室に忍び込む。




 ケツに唐辛子をぶっ刺してやろうか。




 催尿魔法でおねしょさせてやろうか。




 いっそ顔にクソしてやろうか。




 日頃の鬱憤はイタズラを考える燃料になり、俺は毎晩寝室に足を運び、思いつくイタズラをした。




 顔面にクソをした翌日はさすがに騒ぎになって肝を冷やしたが、寝つきが良く、頑丈すぎるゆえに鈍感な魔王はほとんどのイタズラを意に介さなかった。


 しかし、偉そうにふんぞり返る魔王を好き放題しているという事実に、胸がスッとした。




 イタズラは日に日にエスカレートし、遂にはキン〇マを棒でシバキあげるようになり、それにも飽きてしまった頃。


 魔が差した俺はチ〇ポに爆裂魔法を放ち、少し火傷を負わせてしまったのだ。


 魔王の目が覚めることはなかったものの、俺は王にケガを負わせてしまったことを悔いた。




 そして思った。




―――チ〇ポに強化魔法をかければいいじゃない。




 それからの俺は、毎日魔王のチ〇ポに強化魔法をかけては、それを攻撃した。




 ある日は鋼鉄の如き頑丈さを与える魔法をかけ、牛魔人タウロスの魔斧でブっ叩き、またある日は龍の如き鱗鎧を授ける魔法をかけ、絶対零度の氷結魔法を叩き込む。




 手を替え品を替え、時には思い悩みながら、最もスッキリする組み合わせを模索し続けた。


 俺は魔王軍の参謀であると同時に、チ〇ポ叩きの求道者となったわけだ。






 俺は今夜も、魔王のチ〇ポにストレスをぶつける為、魔王の寝室へ足を運ぶ。




 魔王の寝室―――図体の大きな魔王の為に作られた、あらゆる物が大きな空間。


 魔王が興味を示さない為に華美な装飾品の類はなく、部屋の中心に大きなベッドが置かれ、壁面には戦で勝ち取った武具が並べられている。


 東側の大きな窓から入る月明かりは、活動に支障がない視界をもたらしてくれていた。




 ベッドの裏に貼り付けた魔札付近に転移した俺は、早速準備に取り掛かる。




「遮音魔法―――『キコエヘン・フィールド』」




 まずは、外部に音が漏れないよう、寝室全体を覆うように遮音結界を張る。


 これをしておかないと派手なことが出来ない。


 この為だけに覚えた魔法だ。




 次に、魔王の額に手を当て、




「上級快眠魔法―――『メチャネタ・ヨーネタ』」




 鈍感な魔王が目を覚ますことは滅多にないが、用心を欠かさない。


 これでたとえ尿意がこようが、俺が騒ごうが魔法を放とうが起きることはないだろう。


 これは仕事に疲れすぎて逆に眠れないことが多かった為に覚えた魔法だが、使い道が増えて魔法も喜んでいるに違いない。




 これで魔法の準備は終了。次は魔王の状態の確認。




 まず顔色の確認。体調の良し悪しがなんらかの影響を及ぼす可能性がある為だ。


 しかし鬼魔人の赤い肌をみたところで体調なんぞ分からん。


 これは正直しなくてもいい。




 とりあえずビンタをして次に進む。




 布団を乱暴に引っぺがし、体勢、服装を確認する。


 魔王は寝相が悪い為、場合によっては念動魔法「フレテヘンノニ」を使って体勢を整える必要があるが、今回は仰向けで両手を広げた体勢。


 服装は下着のみ。




 ベストだ。




 とりあえず両乳首に花を咲かせ、次に進む。




 最後に、下着の除去。


 最初の頃は脱がしていたが、ここ数年は思い切って引き裂いている。


 毎晩下着が裂けていることを気にしていた時期があったが、「きっと魔王様が最強だからです」と言ったら得意気にしていた。アホで助かります魔王様。


 虎柄なのは種族でそう決まっているらしいが、趣味が悪いとずっと思ってる。もちろん本人には言えない。




 以上、準備万端。これよりチ〇ポに強化魔法をかける。




 まず、物理的な攻撃に対する耐久力を上げる鋼鎧魔法「カチカチヤン」、魔法攻撃に効果がある鱗鎧魔法「ウロコヤン」をかける。




 更に、精神力を高める魔法「ナカヘン」を使う。


 チ〇ポに精神力なんて無いだろ、と思う者がいるかもしれないが、素人に何が分かる。


 この道を極めんとする俺には分かるのだ。これを使うとぶつけた時の反発が違う。そんな気がする。




 この三つが、五年前に辿り着いたチ〇ポ叩き道の答えだ。




 これで終了、と言いたいところだが、最近ただブっ叩くだけではつまらなくなってきた。


 憂さ晴らしだけでなく、もっと遊戯性というか、楽しさが欲しいところ。




 そんなわけで、踊りたくなる魔法「オドッテマウ」を使ってみよう。


 人だろうが物だろうが、この魔法を使われると、満足するまで踊り続けるのだ。




 これをチ〇ポに使うことで、しばらくの間不規則な動きを取り続ける―――つまり、動くチ〇ポに攻撃を当てる、という遊戯性を付与出来る………はず。




 よーし!じゃあ早速いってみよう!




「―――『オドッテマウ』!」




 すると、チ〇ポはリズムに乗るように身体を揺らし始める。


 上下左右、それなりに不規則な動き。




 正に想定通り。今回も楽しくなりそうだ。


 そう満足感を得ていたところ、その動きは次第に激しさを増し、遂にはブンブンと回り出す。




 ちょっと、速くないか?大丈夫か?




 少し心配になりはじめた俺を他所に、チンポはぐんぐんと加速し続け、生み出す風が部屋内に吹き荒れる。


 風は布団やカーテンを捲りあげ、壁中の武具を揺らし、窓がガタガタと音を立てはじめる。




「ぐっ!」




 俺は側に立っていられなくなり、ついには暴風によって西の内壁に打ちつけられてしまう。


 異常な運動量を見せるチ〇ポは、とうとう揚力を生み出し、魔王の巨躯を浮かせる。




 マズイ。これは本格的にマズイぞ!止めなくては!何としても止めなくては!




 俺は懸命に身体を起こそうとするが、風の壁の圧力に妨げられてしまう。




 動け。動けよ俺の身体! 何とかしろ!何とかして止めないと―――






 ―――魔王のチ〇ポが取れちゃう!




 刹那、チ〇ポが放つ轟音はその他一切の音をかき消し、部屋が偽りの静寂に包まれる。


 すると、チ〇ポは魔王の身体を引き連れて部屋の中心まで飛び中空に留まったかと思えば、キン〇マと共に魔王の身体からゆっくりと分離する。




突如チ〇ポ、肉体のそれぞれが大きな光を放ち、俺の視界を真っ白に塗りつぶしていく。




「―――!」




魔王様!魔王様!




 聴覚、視覚を奪われ、身動き一つとれない俺は懸命に主を呼ぶが、それは自分にすら聞こえない。


 声は出ているのか、声の出し方はこれで合っているのか。


 無音の世界で声を奪われたような感覚を覚えながら、しかし声を出す、出そうとすることしか出来ない自分に不甲斐なさを感じながら、叫び続けた。




 魔王様ァ!!!




「魔王様ァァ!!!―――!?」




 かき消されるはずの音が、部屋にこだまする。


 それが自分の声であることに気付き、ゆっくりと目を開ける。




 魔王は無事か? 何があったのか?




 考えなければいけないことがたくさんあるはずなのに、俺は目の前の光景に思考能力を失った。




「我が名はチ〇ポ。武を極めんとする者なり」








「………あ、はじめまして」




 眼前に勃つ見知らぬ高齢男性の自己紹介に、俺は簡単な挨拶を返した。




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