最初の聖女

「あなたも、白属性とはねぇ……ところであなた、どこの家かしら?」

「えっと……」


 なんだろ、すっごく高圧的というか……マウント取ろうとしてるのかな。

 メイリアスだっけ。この、悪役令嬢っぽい感じ……「ざまぁ」されてヨヨヨと泣き崩れそうな感じ、正直なところ嫌いじゃない。

 

「どこの家、と聞いているんですけど」

「あ、メイヤード子爵家です」

「メイヤード子爵家……聞いたことないわねぇ」

「はあ」

「あなた、名前は?」

「アリアです。あのー……後ろ、いいですか?」


 メイリアスの後ろには、料理を運んできた給仕がいた。

 ちょっと困ってるみたいなので声を掛けたんだけど、なんかメイリアスの眉がピクッとした。

 どくつもりがないようだ……うーん、めんどくさい。

 すると、ユリア姉様が言う。


「申し訳ございません。ユグノー公爵令嬢……ここは食事の場ですので、また後日、きちんと挨拶をさせますので」

「……まぁ、いいでしょう。私と同じ『白』属性というから、どんな子かと思えば……イモ臭い田舎者だったわ。ああ、挨拶は結構。私、殿下の婚約者として忙しいので……せいぜい、私の二番煎じとして魔法を覚えることね」

「はあ」


 二番煎じ。この世界でもそういう意味の単語あるのかぁ……なんて思ってしまった。

 メイリアスは手下を引き連れ去って行く……何しに来たんだろ?

 すると、黙っていたケイムス、ロクサスが「ぶはっ」と呼吸を再開した。


「お、おま……ゆ、ユグノー公爵家の令嬢に何喧嘩売ってんだよ!?」

「え、喧嘩?」

「い、生きた心地しなかったぜ……」

「ロクサス、大げさよ」

「……アリア」

「はい? 何ですかユリア姉様」


 ユリア姉様も真っ蒼だった。

 そして、私をじろっと見る。


「ユグノー公爵家は『聖女』の家系よ。うちみたいな弱小子爵家なんて、令嬢の一言であっという間に取り潰されちゃうんだからね……いい? 爵位が格上の家には逆らわないこと。というか、発言に気を付けなさい!!」

「は、はい!!」

「ああもう……声出すの、怖かったわ」


 ユリア姉様ですらこんな恐れるなんて……ユグノー公爵家、どんだけヤバいのよ。

 あれ? というか……メイリアス、婚約者とか言ってなかったっけ。


 ◇◇◇◇◇


 食事が終わり、寮に戻ることになった。

 ケイムス、ロクサスは当然男子寮。ユリア姉様は用事があるそうでレストランで別れ、自然と一人に……うう、いきなり一人。

 男子寮、女子寮は、本校舎を真ん中に、挟むように建っているらしい。

 女子寮は五階建て。身分が高くなるほど、上の階に住めるそうだ。子爵家の私は当然一階。

 寮の受付で自分の部屋番号を聞き鍵をもらう。荷物などはすでに運ばれているそうだ。

 鍵をもらい、自分の部屋へ。


「おおー……」


 六畳一間だ。ベッド、クローゼット、窓が一つ、机と椅子、スカスカの小さな本棚、小さなソファだけ。いや十分だけど。

 部屋の隅にベッドがあった。

 私は制服のリボンを外し、ワイシャツのボタンを緩めてベッドへ飛び込む。


「あー……学園、かぁ」


 ぶっちゃけ。超ぶっちゃける……勉強なんてしたくない。

 転生者の私にとっては嫌。だって私は元日本人のアラサーよ? 義務教育終えて、高校大学と勉強して、ようやく就職して仕事漬け……で、転生してまた勉強とかどんなバツゲームよ。

 正直、靴磨きしてる方がよかった。おじいさんには感謝してるけど……魔法学園とか、人間関係とかクソめんどくさい。

 

「でも、やらないとねぇ」


 この『白』属性で何かしたいとかはない。

 あ、でも……クロードに、挨拶くらいはしたいかな。

 メイリアスって婚約者がいるみたいだし、顔色もよかったし……毎日が充実してるっぽい。

 それだけで十分。


「うん、私は無難にやろう。無難に勉強して、卒業して……おじいさんの元に帰る。で、結婚して、平凡に暮らそう」


 転生者だけど、その知識を活かして領地改革!! ……なーんて、やるわけない。

 というか、異世界転生者の知識って都合良すぎるのよ。マヨネーズとか原材料がタマゴってことくらいしか知らないし。そんな都合よくできてたまるかっての。

 私、前世ではコンビニとか外食メインだったから、料理とかやらないし。あと趣味はソシャゲ……こんなところでソシャゲの知識あっても意味ないし。


「……なんか愚痴っぽい。いいや、ちょっとだけお散歩行こっかな」


 私は立ち上がり、部屋を出た。


 ◇◇◇◇◇


 寮内は、いろんな女子がいた。

 立ち話してたり、部屋から声が聞こえたり、寮の談話室でお話してたり……話してばかり。

 入学初日だし、話相手なんていない。というか、聖女だの言われて、女子が近づいてこない。

 ま、いいや。とりあえず外に行こ。


「ん~~~……っ」


 寮を出て、校舎周りを散歩する。

 なんというか、大きいな。

 お城みたいな校舎を見上げて歩いていると。


「うわっ!?」

「きゃっ!?」


 ぶつかった。

 相手は男子で、私は尻餅をついてしまった。


「あいたたた……」

「す、すまない。怪我はないか?」

「え、ええ。すみません、前方不注い───……」


 差し出された手。

 顔を上げると、逆光でキラキラ光ってるのは……金色の髪。

 伸ばした手は大きい。

 そして、その顔。


「…………クロード」

「え?」


 クロードだった。

 大きくなったクロードが、私に手を差し出して……。


「すまない、どこかで会ったか?」


 そう、言った。

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