頼れるケイムス
私は、一年間のきびし~いお勉強を終えて、ようやく『セイファート魔法学園』に入学することができた。
今日は入学式。子爵家の馬車に乗って、ケイムスと一緒に学園へ向かっています。
いやー……緊張してきたかも!!
「アリア、何度も言うけどよ」
「はいはい。変な人に付いて行かない、危ない物食べない、男には気を付けろ、嫌味な女にも気を付けろ、何かあったら俺を呼べ、でしょ? ってか危ない物食べないとか、馬鹿にしないでよね」
「わかってんならいいけどよ。いいか、お前はすっげー可愛いんだから、妙な男がわんさと寄って来る……マジで気を付けろよ」
「…………」
「ん、なんだよ」
む、無自覚……ケイムス、ふつーに私のこと『可愛い』とか言うし。
いやまあ、たしかに可愛くなったと思う。十五歳に成長して、銀色のロングストレートヘアはサラサラだし、華奢だけどスタイルはいいし、小顔、くりっとしたエメラルドグリーンの瞳はマジで可愛い。
ケイムスは私のこと『妹』って見てる。恋愛には発展しなさそう……まぁ私も、この一年でだいぶ距離近づいたけど、ケイムスは『お兄ちゃん』や『兄貴』より『カッコいい幼馴染』って感じだし。
「はは」
「……なんだ、その乾いた笑い」
「ケイムス。あんた、人のこと心配するのもいいけど、自分のことも考えたら?」
「は?」
いやだって……ケイムス、かなりカッコいいし。
さらっとしてるけどどこかクセのあるブラウンヘア、シミのない肌、切れ長の眼はどこか色っぽいし、この一年で魔法だけじゃなくて剣術の腕前も相当上がってるし、体格もガッチリしてる。
マジで乙女ゲームの主人公みたいな感じ…異世界の男ってすごいわ。
「あんた、絶対モテるよ? ふふん、婚約者とか探すのもいいんじゃない?」
「アホ。そういうのは親が決めるモンだろ」
「え、そうなの?」
「ああ。ま、政略結婚ってやつだ……お前はたぶん違うけど」
「私、元庶民だしね……」
「そういうんじゃない。オレや姉ちゃん……姉上は、政略結婚だけど、お前は名目上はじいちゃ……お爺様の娘ってなってる。メイヤード子爵家としてじゃなく、お爺様が考えることだ」
「そっかー……」
「ま!! そんじょそこらの男にお前はやらんけどな!!」
「ぷ、なにそれ。じゃあ、私とケイムスが結婚する?」
「ぷははははっ!! いやいや、無理。オレ、もっとおしとやかな子がいいし」
「なによそれ!!」
……やっぱこいつ無理!!
頼りにはなるけど、異性としては見れないし!!
◇◇◇◇◇
学園前で馬車を降りると、すでに新入生が門を超えては中へ。
「入学式は講堂で開かれるみたいだな」
「うん、行こ」
一人で行く子もいれば、すでにグループになってる子たちもいる。
すっごく嫌な予感。こういうグループって、漫画ではよく『派閥』とか、リーダーシップ取りたがるお調子者ポジションだよね。
「アリア、お前目立つから変な動きするなよ」
「へ、変な動きって何よ」
「例えば「そこのあなた」……え、オレ?」
と───私とケイムスの前に……すっご、縦ロール。金髪縦ロール女子だ……が、現れた。
お供の女子生徒もすでに二人いる。しかも扇子まで持ってるし。
縦ロール女子はケイムスをビシッと扇子で差した。
「あなた、私の騎士にしてあげる。さ、私をエスコートなさい」
「「…………はい?」」
いきなりすぎてケイムスも茫然とした。
なにこの子。いきなりケイムスを騎士とか。
ケイムスはすぐにキリッとした顔になる。
「申し訳ございません。どこのどなたかご存じありませんが、すでに先約が」
と、私を軽く肘で小突く……ああ、そういうこと。
私はケイムスの腕を取る。
縦ロールは、私をジロッと睨んだ。
「あなた……この私、ロザンドリオ公爵のレイラを知らないと? そして私の誘いを断ると?」
「……申し訳ございません。すでに約束した令嬢の案内を反故にし、あなた様の案内をするというのは、騎士にあるまじき行為」
「む……」
「ロザンドリオ公爵令嬢。このお詫びは必ずしますので……」
「……まぁいいわ。じゃ、次に行くわよ」
「「はい、お嬢様」」
あらら、思ったよりあっさり行っちゃった……って、あの子また別の男子に声かけてるし。
ケイムスは「ぷはっ」と息を吐いた。
「なんなんだ、あれ」
「アレとか言わない方がいいよ。公爵令嬢とか言ってたし……」
「……あれは、自分の派閥作りの一環だな。新入生のグループで権威を保つために、今のうちに仲間作りしておこうってハラだ。おい、さっさと行こうぜ」
「う、うん……でも、大丈夫なの?」
「こっちは名乗ってないし、向こうから絡んでこない限りいいだろ」
私とケイムスは、そそくさと講堂へ。
「それにしてもケイムス、あんな言葉遣いできたんだね」
「そりゃそうだろ。高位貴族の相手とかする時もあるし……お前も習っただろ?」
「まぁね……はぁ、堅苦しいのヤダなあ」
「オレも……」
入学前から、早くもゲンナリする私とケイムスだった……。
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