ZomBie×ZomBieXZomBie 知ってるゾンビ世界に転生した俺(27・魔法使い)が隠棲するために頑張る話
七取高台
オープニング
第1話
時は2020年。世界はゾンビで溢れかえった。
これは当時世界各地で人気となったゲーム、『ZOMBIE×ZOMBIE』が発表された際に盛名を馳せるきっかけとなったキャッチコピーだ。ありきたりで使い古された感はあるが、ゾンビものでは定番であり近未来における災禍の訪れを一言で知らしめる文字通りのパワーワードでもある。
『ZOMBIE×ZOMBIE』という作品はゾンビという敵をばったばったと薙ぎ倒してゆくアクションゲームだ。発売当初は話題にもならなかった。似たようなゲームはいくらでも存在していたからだ。この作品が評価され始めたのはクリア者の評価が軒並み高かったからだ。
他と似たようなゲームシステムは初心者の間口と経験者へ開かれる門戸の拡大となっており、特に不都合なくプレイできる。難易度調整機能も完備しており、初心者向けの簡単なものから周回プレイヤーが縛りプレイをすることも予想してのかなり厳しいものまでしっかりと取り揃えており、ゲームとしてちゃんと面白さが担保できていた。そして何よりストーリーが評価されていた。
アメリカで発生したゾンビの発生からアウトブレイクにまで発展した騒ぎの中、妻子を失った男が町から町へ移り住んでゆく最中に出会う、一人の少女との出会い。アウトブレイクの謎。周囲との結束と軋轢。少女の過去。そして男と少女の最後。王道的なストーリーであり、また引っ掛かるところが何もないと評価される話の展開がクリア後の達成感や爽快感を、ゲーム性も相まって高いレベルで一つにまとめられている。
人が面白いと言っているものについて、大抵の人は抵抗感が多少薄まる。それじゃあやってみようかと思った人たちを取り込むための策が対応プラットフォームの拡大と、MOD機能の導入だった。
特にPC版発売後は『ZOMBIE×ZOMBIE』が一気に流行った。PCゲーム好きにもコンシューマ版でも広がりを見せていたこの作品がテレビCMを打ち出した際に、例の文言が人々の脳裏に刻み込まれたのであった。
その後『ZOMBIE×ZOMBIE』は更なる広がりを見せ、続編が発表され、DLCが発表され、他社の有名作品とのコラボレーションが発表され。ついに発表されたナンバリングシリーズの3作目、作品全体では7作目となる『ZOMBIE×ZOMBIE×ZOMBIE』に、極東の作品ファンたちが歓喜と憂戚の乱高下に振り回されることとなった。
あくまで銃社会のアメリカでバンバンショットガンをぶっ放す。エンジンの鼓動に任せて唸りを上げるチェーンソーを振り回す。改造車に乗り込んでゾンビで出来たピンを薙ぎ倒す。それが法規制の厳しい日本で出来るのかと喜ぶ人と、日本でそんなことできるわけないだろと悲しむ人の両極端で戦争状態。従来の爽快感が無きゃ『ZOMBIE×ZOMBIE』じゃねえ。いや日本で『ZOMBIE×ZOMBIE』したら発禁になるだろうが。ゾンビを殺させろ。いやレーティング通してくれ。喧々諤々の両者に冷や水を打ったのが、続報と共に届いたPVの映像だった。
プロモーション映像とプレイ動画の合わせ技には日本の作品ファンも閉口せざるを得なかった。
これまでの銃やチェーンソーとは違い、日本人と思しき主人公は刀一本でゾンビを撫で切りにし、ロープアクションで高低差のあるマップを軽々と跳躍する。なによりこれまでにはなかった3次元的な動きに、刀を振るモーションがとにかくカッコいい。
海外の人が思う現代版忍者、いやいっそNINJAと言ってもいいキャラクターが主人公となり『ZOMBIE×ZOMBIE』の世界を立ち回るのか。日本の作品ファンはここに両者手を取り合うことにした。それはそれでいいよね、と。
『ZOMBIE×ZOMBIE×ZOMBIE』では、初代と言われる『ZOMBIE×ZOMBIE』から15年後、
主人公は大学生風の青年、風間。分かる人間にはこの時点でピンとくる。そして日本人離れした容姿の幼馴染の笹美というヒロイン。因みに苗字だ。この二人を軸に日本に蔓延るゾンビを討伐してゆくという流れだ。
この話をしたのには理由がある。
何を隠そうこの
気づいたのはアメリカでアウトブレイクが起こった事が切っ掛けだ。まさか日本の地方紙の一面にゾンビに襲われている写真が出てくるなんて思わなかった。どうやらあるジャーナリストの撮影した写真のようで、それまでゾンビの発生源や近隣の町でのロックダウンに加えアメリカ軍の検問という防衛線のせいか報道規制を受けていたようで世界中に公にされたのは発生から随分後になってからだった。
当時中学生だった俺はそのときから徐々に備えを始めた。方針は基本的に放置。主人公にも出来るだけ関わらない。ただし何も知らないのではきっと不慮の事故や何かで簡単に命を落とすだろう。何をするか。それは魔法だ。
魔法とは、文字通りの、イメージ通りの魔法だ。断わっておくが『ZOMBIE×ZOMBIE 』の世界に魔法は存在しない。今のところは、だが。
俺が魔法を持っている理由は正直覚えていない。この世界について気付いたとき、頭の片隅にそんな感覚と、根拠のない確信があった。最初はそれこそ指先に火を灯す程度の魔法にも一喜一憂していたが、マッチやライターがあればゾンビはびこる世界で生き抜ける、ということはない。生き抜くことはできるかもしれないが、今の俺には不可能だ。何の知識もなく、何の技術もなく、財産や信頼できる友がいるわけでもない。今は魔法という才能、これから何が起こるのかという事前知識くらいしかない。今の俺が持っていても腐ってしまうような宝を前に、俺は自分自身という存在の価値を、強さを求めるようになるのは自然のことだった。
格闘技を嗜むものはそのほぼすべての人間が体を鍛えるという事をする。研究職に就く人間は学生時代に前提となる知識を学び記憶している。では俺がすべきことは何か。
『ZOMBIE×ZOMBIE 』の世界において、ゾンビ化という現象は一つの感染症であり、しかしオカルト要素も併せ持ったものだ。キーとなるのはゾンビ化した生物、哺乳類や鳥類などの脳内に生成される変異結晶だろう。この変異結晶がどんな役割を持っているかを国内でのパンデミック後、詳しく調べる必要がある。原作知識においてどんな役割だったか。うんうん言いながら頭を悩ませていた時に、ふと気づいた。
魔法で自分という人間を一つの装置とするのはどうだろうか、特に原作知識においては思い出そうとして思い出せなくても、言われたり見たりすれば思い出すこともあるかもしれない。そうして僕は自分の記憶を整理する魔法をつくった。
ああ、そうか。僕が生き抜くために必要なのはこういう事なのだ。ゾンビに対する知識。自分もよく分かっていない魔法の性質。中学生の持てる資産はあまりあてにならない。どちらかと言えば地理的なものの方を優先させるべきか。もちろん体を鍛えるのも必要なことだろう。基本的なサバイバル知識も用意しておきたい。挙げればきりがないこれらの判断を適切に処理すること。処理できるように備えること。あまり時間がない。逆算すれば高校生活の途中で国内でのパンデミックが発生する恐れがある。この時から俺一人のための生存戦略が動き始めた。
中学卒業までにある程度成績を上げ工業系の高校に進学した。一先ず人口密集地帯から離れるという意味もあり都外へ脱出し寮生活をしていた俺は国内外の情勢を逐一確認しつつ必要な知識を詰め込んでいった。両親からの仕送りやお年玉を貯めておいたものからサバイバル道具、もといキャンプ道具の購入資金にあてたり。既にあった登山部やキャンプ同好会などと伝手を得ながらパンデミック後に戦力になりそうな人員に目星をつけたり。
結局同窓で付き合いが続いたのは一人だけだが、もう過去の面影を感じない程度には変質している。そうしなければならなかったとはいえ、破滅的な状況というのは思っていた以上に全てを変えるのだと思い知った。
パンデミック後は学校でしばらく地獄絵図を眺めながら偵察、隠形の魔法を鍛えつつトラップの実験。結果的に事故死する人間もいたが今となっては良い経験だったと断言できる。その後は学校を中心に周囲の町や駅近くで物資や資材の調達。無駄になったモノも多かったがそこで市街地の歩き方を学んだ。特に都市機能が麻痺した状態になってからは人の見分け方や行動パターンを観察したりして、都市外への脱出経路を策定することまでできた。
ちなみに学校周辺での感染爆発は駅を中心に起こった。学校にある程度まとまったゾンビが来てそれを止めようとした教師の数名が感染し、外にいた生徒たちが感染し学校内はパニックに。避難先として学校が指定されている理由は講堂や体育館があるからなのだが、まあその誘導も別々になって校内の複数個所にある程度の数の立てこもりが発生することになっていた。俺はと言えば最初は他の生徒に紛れていたものの、一部の生徒が帰宅しようと教師陣に抗議していた際に抜けだして以降は匿名の連絡係兼配給係をしていたが、怪しまれてしまいそこからはチキンレースをしていた。魔法の練習と隠密行動の練習にちょうどいいと言うのもある。因みにバリケードはバレないようにつくった。いっそ一人では作れないような派手なバリケードを用意しておいた。これで別の集団に注目を向けてくれるとやった甲斐がある。
当時の活動拠点は生徒会だ。俺を含めて5人しかいなかったがそのほとんどが県外組だと言うのが理由だ。学校で籠城していたからと言って安全である保障はあるのかという疑問にいち早く気付いた人間がほとんどだったというのもある。最終的には学校からの脱出という目標のもと、学外活動を一手に引き受けていたがまあそう上手くいくわけもなく。情報が洩れて生徒会室に人が集まりすぎた。学内で形成された派閥争いが始まり、結局会長がその始末をつけると言って学内に残り、トウキョウへの脱出作戦が行われることになる。
紆余曲折を経てトウキョウへたどり着き、当時最終防衛線内に身内がいたものは親元へ戻れたがそうではない者たち、最終的に俺を含めた4人がトウキョウのゾンビタウンでスカベンジャーとして生きることになった。
トウキョウで活動し続けてゆく間にゾンビ研究のために新たに作られた組織への伝手を得て、トウキョウを中心に活動している軍に伝手を得て、俺の活動は拡大してゆく。ゾンビ研究所の警備部へ正式に所属したころには成人を迎えていた。
これまでに殺した数は数えきれない。おかげでナイフ捌きにもある程度自信が付いた。何かを殺すという事に対して、自身が生き残るためという建前で蓋をして自らの行いに答えのない疑問を投げかけ続ける、なんてこともなく。俺は徹頭徹尾自分のことしか考えていなかった。
自分のもとに集った集団も後々解体するものだからどうなってもいいと考えてはいたが、立場を利用しないわけにはいかなかった。組織を統率するという事、集団の和を取り持つという事、そしてそれを維持するという事。
人の輪というものは面白い。一見何の関係もないものでも、まわりまわって、巡り巡って自分の元に帰ってくる。情けは人の為ならずという諺は核心をついているのだなと思うことも多かった。拾った
パンデミック後の日本でトウキョウを中心にして厳しく殺伐とした生活を送る中で、徐々にその足音が聞こえてきた。
聞き覚えのあるゾンビの個体名。原作内で崩壊していた都市の壊滅。都市内の権力闘争にも聞いた名前や役職が並び始めた。それに伴い俺も自分の勢力ともいえる少数の仲間と共に、物語から離れるように移動を考えた。最悪事故や出奔も考えていたが、上手く相手を転がすことが出来た。
トウホクはセンダイへの異動を押し付けられたが、展開としては最善と言えるもの。物語の序盤から中盤となる地で安穏とした日々を迎えるまであとわずかだ。これまでに出来る範囲で準備は整えた。怠惰を求めて勤勉に行きついたが、それだけの価値はあった。
年齢は30に近いほどだが筋力体力自体は問題なし、魔法もある程度は検証を終えている。学生の頃から片手間に勉強していたナノマシン技術も予想外の傑作の誕生に再び頭を悩ませることになったが、これに関してはうれしい悩みだ。
仲間は既に現地に前のりしている。今こうして軍の高機動車に揺られているのは長らく俺の下で活動している
とはいえやることは変わらない。むしろ人づてに俺の存在を聞いて興味を持たれるくらいなら、ここで俺という存在をきっちりと終わったものとして認識してくれた方が面倒がないだろう。これについては後で考えることにする。何よりまず俺と千聖はここで終わらなければならないのだから。
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