第10話 ヒューイの帰還
それから一週間。
僕は王子教育を終えると、部屋でメアリーとキャッチお手玉をして遊ぶことが、日課となっていた。
もちろん、他の使用人たちには内緒である。
うっかりメイド長なんかに見られたら大事だ。落ち着きがないだの、はしたないだの、何を言われるか分かったもんじゃない。
でも、そろそろもっと遠くまで投げてみたいんだよね。
たとえお手玉であっても、それなりに距離は出るだろうし、スムーズに腕を振れるようにもなってきた。
このお子ちゃまボディでどれだけできるかわからないけど、試してみたい。
そんなことを考えていると、ドアをコンコンとノックする音が聞こえてきた。
僕の部屋はドアの前に近衛騎士が二人控えているのだけど、そのどちらかだと思われる。
僕はキャッチお手玉をやめて椅子に座り、そのタイミングでメアリーが「どうぞ、お入りください」と、許可を出す。
近衛騎士が自ら用があるとは考えにくいため、誰か来客があったのだろう。
少し緊張した気持ちで僕が待っていると、部屋へ入ってきたのはヒューイだった。
「お久しぶりです、殿下」
「あっ、ヒューイ。帰って来たんだね」
「はい、ご依頼のゴムの木とアロン樹の討伐が済みましたので、ご報告を兼ねて参上致しました。殿下が心配なされていた部下たちも、全員無事に戻って参りましたよ」
「ほんと、よかった~」
僕はそう素直な気持ちを口にする。いくら神様からの依頼だからといって、騎士の誰かが犠牲になるなんて嫌だ。その人にだって家族はいるだろうし、結婚目前の彼女がいるかもしれない。それを僕のせいで悲しませるなんて、耐えられるはずがないよ。
けど……。今後、素材の定期的な納品となれば、たぶん犠牲者は出るだろう。
野球を広めるためには数多くのボールが必要だし、まだ調べていないバットやグローブ、ベースなんかの素材も魔物であるかもしれない。
たとえどれだけ危険な魔物を狩ることになっても、騎士団のみんなは叶えてくれる。
それがわかるから、僕は辛くなるんだ。
でも、今はこの一歩を素直に喜ぼう。
魔法無しでどうやって魔物を倒したかは気になるけど、ヒューイが素材を入手してきたことに違いはない。
「殿下? いかがなさいました」
「あ、うん。どうやって魔物を倒したのかなって思って」
僕の知識では魔法が前提。流石に正面からやり合ったとは思えないし、遠距離攻撃は基本だよね。
そう思っていたのだけれど……。
「ああ、戦い方ですか、そうですね……。もしよろしければ、訓練場を視察なされませんか? 殿下がお見えになれば兵たちも喜びますし、面白いものが見れるかもしれませんよ」
ヒューイから訓練場へのお誘いを受けてしまった。
でも、彼のいう面白いものって何だろう。遠距離攻撃できる武器かな?
もしそうなら、野球の練習になるかもしれないし、興味あるよね。
「うん、見たい!」
僕はその申し出に飛びつくのだった。
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