元高校球児の僕だけど、異世界転生したら称号が球界のプリンスだった

かわなお

プロローグ

 ある日、僕は夢を見た。


 それは遠い遠い昔の記憶。

 まだ幼稚園児だった頃の話だ。


 野球好きの父に連れられて見に行った、プロ野球の試合でのこと。

 相手チームは覚えていないが、応援していたのは読得よみえるジェイツ。

 この試合で僕は、運命の出会いを果たすことになる。


 九回同点で迎えた後攻二死、ランナー二塁での四番ゴ〇ラ丸井。

 一発が出ればサヨナラという場面。

 期待を胸にそこで見た光景を、僕は一生忘れることはないだろう。

 それほど印象的だった。


『カキーン』


 僕の耳に届くのは、あまり強烈ではない打球音。

 けれど、高く上がった球はぐんぐんと伸び、スコアーボードへと一直線に。

 その直後、響き渡る『ドゴッ』という鈍い音。


 まだ五歳であった僕の涙は止まらなかった。


 そう、これは夢だ。幾分脚色もされているが、あの当時はただ大騒ぎしていただけだったと思う。


 けど、この試合を切っ掛けに、僕の野球人生は始まった。


 小、中、高と、ひたすら白球に青春を捧げた僕は、甲子園に出場。公式戦での総本塁打数三十二本と、一流には及ばないものの、十分な活躍をした。


 それもこれも全てはプロに入り、丸井選手と一緒に戦うことを夢見てのことだ。


 けれど、運命は残酷である。

 待ちに待ったドラフト会議。

 僕の名前は呼ばれなかった。


 理由は単純。

 僕の背は低かったのだ。

 身長165センチではプロで通用しないし、万年育成がいいところだろう。

 ましてや、僕が望むのは丸井選手のような四番打者である。

 高校まではどうにかなっても、大型化が進むプロ野球界では無理があるのだ。


 僕は自分に失望した。

 努力は誰にも負けないつもりだった。

 けれど、それが身長を止めてしまった可能性も否定できない。

 科学的な根拠はないが、父も母もそれなりだ。僕だけが何故か小さいのだから、ある意味それが正しいのだろう。


 だから、これは僕の不注意だったのだ。


 指名されなかったショックを抱えたまま教室を出た僕は、階段でうっかり足を踏み外し、転げ落ちて死んだのだった。

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