第48話 あの光をまた見られたら

 地上には、俺達を含めた四つの光が灯されていた。


 ローズにプルシャ先輩、そしてメルシー先輩。それぞれの光の中には複数の生徒の姿も見える。


「俺、気を失ってたのか……」

「おいネク! さっさと起きてくれ! 今のお前だけだったら死ぬところだったぞ! 感謝しろ!」

「……先輩。助かりました……」

「……僕もいたのでそうなるとは思いませんけどね」



 上級生達は揃いも揃って汗まみれになった様子でうつ伏せになっている俺を見下ろしている。


 そんな彼らの周りには校舎の瓦礫の山が大量に積もっていた。


 そして、俺に話しかけてくれた先輩だが、一度も相談に乗った覚えはない。



 それでもみんなは俺を覚えていてくれた。


「見て、ネク君。全員無事だったみたいだよ。真ん中にいるあの二人も」

「ハイノは……予想通り戦えてる」


 彼女達は周囲の視線を気にせず、ひたすらに魔法をぶつけ合っている。


 純粋な火力勝負ならハイノが劣っているようにも見えるが、遠目に見えたオリアスの顔にも焦燥感がかすかに浮かび上がっていた。


「どうして……私の魔法が貫通しない……? まさか、魔力が増しているのか……? 貴様、何をした」



 結界内に響き渡る声量でオリアスは叫ぶ。

 これはきっと俺に聞いているのだろう。


 俺はオリアスの目をじっと見つめながら答える。


「二つ。それが俺達が試したことだ。一つは、俺の魔力を全てハイノに託したこと。元々ハイノの方が魔力量は多かったのもあるが、そこに俺の魔力が足されたことでより強力な魔力に変わったんだ」

「……いや、おかしい。少なくとも当時の私よりも遥かに劣る魔力で、どうしてここまで抗えるのだ……ッ!」


「単純だよ。お前の魔力が、お前自身を否定しているからだ」

「否定……どういう意味だ」


 口論の間もハイノの攻撃は止まらない。しかし、空中で魔法が相殺しあっているためオリアスにダメージは入っていない様子だ。


「最初に戦ったときは俺達側の魔力が少なすぎたが……今回は違うぞ。お前の体内にある〈天属性〉の意思が、ハイノの〈魔属性〉の存在に気が付いたんだよ」

「……なるほど。ネク君のもう一つの仮説も当たったんだね」


 正直、一か八かの賭けだったけど……オリアスの焦り方的に概ね当たっているように見える。



 問題はここからだ。俺達の目的はオリアスの無力化、つまり相殺し続けても意味がない。


 ほんの一瞬でもいい、ハイノがオリアスを超えることができれば勝機は生まれる。



「ふっ、私の攻撃を凌いだからといって貴様は浮かれているのだな……? 禁断魔術を使えた程度でよくもまあその態度とは……可愛らしい」

「──オリアス。何故君はそうなってしまったのじゃ……」

「おや……封印からは逃れたのね、バラン理事長。それと、貴方の質問は愚問ですね。私は元よりこの思想です。ただ、誰もそれを認めようとはしなかったじゃないですか」


 今度は俺との口論に割って入ったバラン理事長とオリアスがお互いを睨み合い口論を交わし始める。


 彼女の当時の学生時代を知る者はこの場に二人だけ。

 片方はマゼル先生だが……彼女はじっと睨みつけるだけでまるで相手にされていないようだ。


「だけど、貴方のくだらない思想はここで終わりを迎えるわ。この結界ごと全てを破壊して、私は外にいる仲間と合流する。今度は【聖域】程度の魔法じゃ防げないでしょうね」

「【将炎】……ッ!」


 その場にいた全員がその詠唱に反応できないまま、唐突にオリアスの全身は火炎に包まれる。


 声の主はマゼル先生、鬼のような形相で手のひらを向けていた。


「これ以上……生徒に犠牲は出さないわ……!」

「こんな魔法が私に効くわけないのに……あら、誰かと思えばマゼルじゃないの。本当に教師になったのね」

「……白々しいわね。勧めたのは……貴方だったというのに。オリアス……もう暴れるのは辞めて。私のちっぽけな想いだとしても……貴方を倒すためには私全力を尽くすのよ……!」

「…………」



 ──一つ、また一つと彼女を包む魔力が増していく。

 その一部には理事長の魔力も含まれている。


 マゼル先生の言葉に心を動かされたみんなが己の使える魔法を使って、彼女へと魔力をぶつけ始めたのだ。



 その勢いはとどまることを知らず、やがて結界の天井に迫る勢いで魔法の塊となり燃え上がった。


 だけども、炎の中心にいた女は不敵な笑みを浮かべながら、ハイノの方を再度見つめ口を開く。


「君達の刃は私には届かないと……言ったじゃないか。所詮私と貴様らのような勝手に与えられた位でここにいる雑魚では勝負にもならない」

「ハイノ、決めろ!」

「…………!」


 俺のかけ声に合わせて、ハイノが手のひらに魔力を集め誰にも聞き取れない声量で詠唱を唱え出す。


 だが、それと同時にオリアスは口元を一瞬緩めると人差し指を彼女に向けて言った。


「さようなら、旧制度の寵児達。【星陰ステルス】」



】、その魔法に聞き覚えはない。恐らくは禁断魔法の一種だろう。


 あとはオリアスの攻撃を視認さえすれば……あ?

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