第43話 手紙
この手紙は、【催眠】【奪回】の二つを使って思い出したわたしとお兄ちゃんの記憶を頼りに書いたものです。
だからこの手紙の内容に嘘偽りもありません。
あのときのわたしたちはいつも一緒でした。
外で遊ぶときも雨が降っているときも、お互いが風邪を引いてしまったときもです。
おじいさんたちがわたしを見て、「汚れた孤児のお前がどうしてこの村に残る」と言ってきたときも、お兄ちゃんは必ずわたしを守ってくれました。
だけどある日、いきなりわたしに病魔が襲い掛かってきたのです。決して魔物ではありません。
それはおじいさんたちのような人でもない、まさに病魔としか言えないものが襲ってきたのです。
身体を蝕まれ、身動きが取れなくなり寝たきりになったわたしはただただ苦しみ続けるようになりました。
あの日は朝から天候も良く外で二人で遊ぶには最適な日でした。
お兄ちゃんと人が立ち入らない林の中を駆け回り、木漏れ日から感じた日差しを今でも鮮明に思い出せます。
そしてここからが本題になります。わたしたちが忘れていた記憶の部分についてです。
まず、わたしがその病魔に襲われたのはちょうどお兄ちゃんとはぐれてしまったときでした。
わたしはてっきり生き物に襲われたんだと勘違いしていましたが、今蘇った記憶を頼りに思い出すと全く違うことに気が付きました。
わたしを襲ったのは魔力そのものでした。
色は影のように暗く、何もかもを通さない気体がわたしに飛びかかりました。
意識も朦朧となって気を失いかける直前に、わたしはお兄ちゃん以外の人影を見ています。
この話はお兄ちゃんが病に倒れたわたしの口から直接聞いていたそうで、オリアスの支配から逃れたことからこうして手紙に記すことが出来ました。
この記憶を取り戻したことで、わたしたちを襲った犯人もオリアス・ワールドイーターである可能性がかなり高いです。
そして、そのあとのわたしは、小さな小屋に隔離される生活を送りました。
朝日に無理やり起こされ、淀んだ空気に蒸し暑いお昼、何もない孤独な夜を何日も繰り返したある日のことでした。
お兄ちゃんがわたしのところで一緒に生活するようになったんです。
これは、お兄ちゃんも同じように感染していたわけではなく、お兄ちゃんの意思でわたしと暮らすことを決めたようでした。
おかあさんとおとうさんは周りの目があるので、お兄ちゃんが二人の代わりに来てくれたようです。
最初のうちは幸せでした。どれだけ息が苦しかろうと隣にお兄ちゃんがいるだけでどうにかなりそうな気がしていました。
けれど、症状は時間が経つごとにひどくなり、一週間も過ぎないうちにわたしは何も感じなくなりました。
ただ、記憶を失う前から唯一覚えていたのは、隣にいたお兄ちゃんが常に何かを口から吐き出すうめき声だけです。
わたしの看病をしているうちに、お兄ちゃんも同じ病になってしまったようです。
最期の日、お兄ちゃんは全て覚えていました。
ほとんど体温の残らない腐りかけた体に白くなる髪の毛、他にも色々な変化が起きていたそうです。
息が止まる直前まで、お兄ちゃんはわたしの手を握って奇跡を願っていたようですが、悲しいことにわたしはそのまま死んでしまいました。
軽くなったわたしを土に還してくれたのもお兄ちゃんです。
だけど、お兄ちゃんの身体に死体を埋める体力が戻ったのはわたしの死後から二週間後でした。
「自分には魔法の才能が無かった。だから身体が魔力を拒み、ハイノよりも長く苦しんだ。しかも、よりにもよって奇跡は俺に起こってしまった」
と、お兄ちゃんは思っているようです。
お兄ちゃんの身に起きた奇跡とは単純でした。それは〈魔属性〉の魔力を手に入れたことです。
それと同様に蘇ったわたしも同じ体質になっていました。
身体に斑点が現れ、呼吸も乱れていく一方のお兄ちゃん。
ですが、お兄ちゃんは生き抜きました。ある日朝日を上げた途端、全身に力がみなぎりまるで生き返ったように感じたそうです。
わたしは死んでから埋められたあとの記憶は何一つありません。
死んでから約三年後、わたしはようやく意識を取り戻していました。
無意識で遠い地のはてを彷徨っていたわたしは、かすかに感じる何かを頼りにこの学園までやってきたのです。
実は、学園の敷地で一度わたしは力尽きましたが、助けてくれた人がいます。
それはマゼル先生とバラン理事長とお二方です。
二人はわたしの体内に強力な魔力があることに気付いて、一時的に匿う目的で一組に転入生として入れてくれました。
この学園に悪い人はいません。
悪いのは全部オリアスで、あの人はわたしたち兄妹に捨てた魔力を目的に近づいてきています。
だから、わたしたちはいがみ合うんじゃなくて、協力し合うべきなんです。
────ハイノ・ネアリンガー
────代筆、ネク・コネクター
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