のっぴきならない恋愛成就請負人〜魔法学園の特待生の俺が除籍危機でも同級生の恋を叶えてコネ作りに努めていたら名家の清楚美少女に好かれましたが、ハニートラップ警戒だけは怠らない〜

伽藍

愉快な生徒編

第1話 のっぴきならない事情があって

「本日をもって恋愛相談部の廃部に伴い、ネク・コネクター。君を退学処分とする」


 時刻十五時、ヴェルヴェーヌ魔法学園一階にある理事長室にて。


 俺は学園の理事長であるバランによって、無慈悲な宣告を受けていた。

 バラン理事長は退学通知を机に叩きつけ、俺にそれを寄せつける。


「どうして恋愛相談部が廃部にならなければいけないのですか」

「何度も言っとるじゃろうが……前提として部員不足! 部員が一人しかいない部活があると乱立して我々教師が困るのだ。何よりも恋愛相談部は実績を出せていないだろう!」


 バラン理事長は何とも言えない表情で俺を詰めてくる。

 そんな何一つ嘘も混じっていない彼の正論に俺はたじろいだが、ここで引いてしまったら俺の将来は無くなってしまう。

 ……俺にだってのっぴきならない理由もあるんだからな!


「じ、実績はあります! こないだだって二年の先輩から一件相談に乗りましたよ!」

「で、結果はどうなったか? その恋の行方は?」

「……手は尽くしましたが、振られました」


 ……これは俺の負けなのか? 俺が悪かった訳じゃないと思うが! 相談にはしっかり乗っていたんだがな。


 理事長は立派に蓄えた白髭を指先で触りながら呆れたように肩をストンと落とし、絞り出すようにため息をついた。


「本当は退学させたくないのじゃが……」

「そりゃそうですよ、だって俺は特待生ですよ!?」


 そう、田舎生まれ農家育ちの一般人にも関わらず、俺は特待生の枠をもぎ取った天才だ。

 電気も無ければ魔法にも頼らない小さな村では、俺の天から与えられた才能を見抜けた老人は誰もいなかったけど。


 そんな暮らしが嫌で必死に今の生活から抜け出す方法を調べていたある日、偶然知ったのがこのヴェルヴェーヌ魔法学園だった。


 とある王族の時期当主候補や伝説の魔女の末裔だったりと、とにかく優れた才覚を持つ者しか通えないとされる三大名門校の一つである。


 本来ならただの小市民が通える訳がない……ただ一つ、この三校の中で唯一存在している特待生制度を除いて。


「せめて……せめてッ退学だけはやめてください! 俺にはここで成さなければならないことがあるんです……!」

「……ならば、ネクよ。まずは住処を見つけたらどうじゃ」

「……え」

「『……え』も何も、君は聞いたところによると学園内を勝手に住処にしていると噂を聞いたのだが」


 俺が学園に住み着いているなんて……誰が報告したんだ。


 それに、俺は故郷の村を三日分の私服と支給された制服二着だけ持って飛び出してしまったから、当然大都会を生きられる現金を持ち合わせていない。


 一応、顧問の先生からは部室を寝床として使用して良いと許可は降りてるはずなんだけど。


「それに……君はこの一ヶ月どうやって生活してきた?」

「普通に水道水とクラスメイトからご厚意で頂いた食べ物ですが……」

「はぁ……」


 理事長は二度目のため息をつき、頭を抱えて悩み始める。しかも今回はやたらと沈黙が長い。


 何か俺はまずいことを言ったのだろうか。

 このままだと俺は退学になってあのクソ田舎に帰ることになってしまう……それだけは避けねば。


「マジで何でもします。俺を……ここにいさせてください……!」


 俺にプライドなんてない。むしろ、今チャチなプライドを捨てられないなら意味が無いのだ。


 俺ことネク・コネクターは生涯で初めての平伏を理事長に捧げた。


 顔は上げずに理事長の反応だけを待つ時間が体感1分は続いたその瞬間、彼女が声を上げる。


「ネク。みっともないからそろそろお辞めなさい。それでも貴方はこの学園の特待生なのよ? まあ……それも今日までかもしれないけど」

「マゼル先生は余計な事言わんでください。ネク君がどんな思いで私に土下座してると思ってるんですか」


 俺は顔を上げてじっと彼女の目を子犬のように見つめる。


 黒のスーツに包まれた格好で胸を支えるように腕を組んで見つめ返してくる女性。これが俺のクラスの担任の先生であり、ついさっきまで設立されていた恋愛相談部の顧問でもあるマゼル先生だ。


 ロングの黒髪で鋭い目つきが特徴的なマゼル先生は男子生徒からの評判がかなり高く、魔法を扱う者として実力も校内外問わず有名な人物である。


「マ、マゼル先生……助けてくださいお願いです」

「何を手伝うの? 部室の管理をしていたのは私だし魔法の研究で案外忙しいのよ、先生は」


 マゼル先生は学園で唯一協力的な人ではあるのだが、こういった面倒事には一切関わろうとはしてくれない。


 くっ……俺はどうすればいいんだ。得意分野以外の成績は正直ギリギリだし、校外に出て金を稼ごうとしたら普通に落第してしまう。

 親からの仕送りは無いし、このまま学校に通うのは不可能に近い。


 あれやこれやと脳内会議中、ずっと黙って考えているとそっとマゼル先生に手を耳に当てられ、小声であることを伝えられた。


「……この学園、金持ちならいっぱいいるわよ」


 それは言ってしまえば悪魔の囁きだった。が、俺に道は残されていない。

 要するにマゼル先生が言いたいのは、金持ちを媚びろと言うことなんだろう。


 だが、残念なことに田舎者かつ貧乏人の俺と本心から仲良くしてくれる人なんて中々おらず、クラスでは相変わらず変人として浮いているのが現状だ。


「……そうだ」


 俺は閃いてしまった。天才にしか辿り着けない世界が見える。


 稼げれば、方法は何だっていいのだ。それがたとえ下衆な方法だとしても。


「……理事長。俺、やってみせますよ。俺はこの学園で生活します」

「いやだから、校内に住み着くのを辞めてほしいのじゃが……しかし何か良い解決策でも思いついたのか?」


 ……恋愛相談部は大した実績も無く、学生の教育面でも不必要だと判断され廃部になった。

 それなら青春の一ページは諦めて仕事にしてしまえばいい。


「――俺は恋愛相談部部長改め、【恋愛成就請負人】として活動します!」

「「恋愛成就請負人……?」」


 教師二人の声が綺麗に重なった。いきなり何を言い出したんだこの子――の表情。


 その顔から俺は読み取ったぞ。完全に俺の言葉を期待している、押せば落とせるッ!


「……愛という人類の三大欲求のうち一つでも俺が叶えられたら、思春期の少年少女は確実に頼りますよね?」

「だ、だが……失礼かもしれぬが、ネク君に頼る人間はおるのか?」

「います……むしろ俺の存在は希少ですよ。この学園において! 相談したい相手が仲の悪い家同士だとしても、田舎育ちの俺なら家柄関係無く相談に乗れます!」

「おおー……お?」


 俺の言葉に一理あると納得したのか、マゼル先生はその手があったかと言わんばかりに手をポンと叩いて大きく笑った。

 一方でバラン理事長も少しは納得してもらえた様子だったが、それでもまだ何か引っかかるようだ。


 しかし、あと一押しと言ったところか。


「バラン理事長。俺は特待生なんです……それを認めたのは貴方自身なんです……!」

「ふむ……ならば分かった。期限は一週間、それまでに自分自身の存在価値を証明できなければ今度こそ退学じゃ」


 よしっ……! これで何とかなったか。


「任せてください。俺がヴェルヴェーヌのキューピッドになります」


 理事長との期限付きの約束を誓った俺はマゼル先生と共に理事長室を後にした。

 緊張していたのは俺だけではなかったようで、マゼル先生も扉を閉めるとすぐに胸を撫で下ろした。


「ふぅ、もう少しで私に責任くるところだったぁ〜」

「先生……まだまだこれからっすよ。まずは依頼人を探さないとなんで」

「え? それは面倒だから一人でお願いね」

「え」


 仕事仕事――と、呟きながらマゼル先生は俺に背を向けて何処かに消えていった。

 ……行っちゃった。しょうがない、一人で悩んでそうな人を探すか。


 学園に住み着いてはや一ヶ月、多少見慣れてきた校舎を一人で俺は歩き始めた。


「──でさー、フランがさー」

「──はぁ、明日の授業だりーな」


 全授業が終わり今はもう放課後だ。課外活動で忙しい生徒なんかはいる訳無いし、デートする相手すらいない人ばかりだと踏んで歩き回ってみたものの、案外悩んでいそうな奴がそもそもいない。


 ああ、そういえば貴族や名家だと既に許婚が決まっていたりするのだろうか。


 ……あれ、もしかしてとんでもない俺難しい事しようとしてる?

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