高精度

 使い始めた匿名のチャットアプリ。

 相性のいい人とマッチングするらしい。


『会社にムカつく奴が居るんです』


 マッチングした相手にメッセを送る。


 ――すぐに返信がきた。


『いますよね、そういう人』


 私への同意。

 彼にもそういう人がいるのだろうか?


 更に返信をするべく、

 テキストを打ち込んで送信すると。


『でも、憎めない人なんです!笑』

『だけど、憎めないんですよね~』


 と、ほぼ同じタイミングで、同じ内容のメッセが相手から届いた。


 それからもいくらかやり取りを交わした。


 その人のちょっとした仕草が気になるとか。

 いつもツンとしてるのに、なぜか困ったときは助けてくれるとか。

 さりげなく気をつかってくれるとこが好きだとか。


『なんだか気が合いますね』


『もし良ければお会いしません?』


 完全に意気投合した私たちは、リアルで会うことに。



 待ち合わせ場所の喫茶店前で相手を待つこと数分。


 ぴこん、とスマホの通知が鳴った。


『ごめんなさい、少し遅れます。先に入って涼んでいてください』


『お気遣いありがとうございます。奥の席で待っています』


 返信し、しばし店内で一人の時間を過ごす。


 どんな人だろう?


 きっと良い相談相手になってくれるだろう。

 同じような人が気になっているのだから。


 それからすぐ、カラン、と玄関のベルが鳴る。

 ベージュの帽子を被っていると事前に聞いていたので、相手だと一目で分かった。


 彼はスマホを見ており、ここからはその顔が良く見えない。


 こつこつと、ゆったりとした歩幅で歩いてくる。


 なんだか似たような歩き方の人を、いつも目で追っているような……?


「お待たせしました」


 彼が帽子を取ると、見慣れた顔がそこにあった。


「「えっ……」」


 そして今、私とマッチング相手は、お互いの憎めない相手と対面している。

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