第65話 目覚め
「ん……ん」
「お目覚めですか?」
意識を取り戻したチェリシアの耳に、不意に声が聞こえてきた。ロゼリアでもペシエラでもない声に、目覚めたてながらもチェリシアは驚いている。
「だ、誰ですか?!」
驚きすぎて勢いよく体を起こしては、すぐさま貧血を起こして倒れそうになるチェリシア。目の前に居た女性は、それを優しく受け止めた。
「二日近くも寝ていたのです。もうしばらくは安静にしていて下さい」
諭されるように言われると、チェリシアは頷いて再び体を横にする。
(無事に目覚めたみたい。どうやら成功したようね)
どうやら彼女が放った魔法は、チェリシアを目覚めさせるものだったようだ。
そして、チェリシアがあまりに目の前の人物に視線を送ってくるので、女性はチェリシアに微笑みかけた。
「申し遅れました。私、領主プラウス様よりあなた方のお世話を申し付けられました、スミレと申します。必要な事がございましたら、何なりとお申し付け下さい」
「お父様が……。分かりました」
チェリシアは、二日眠っていたと聞いて、まずは顔を洗おうとして水魔法を使おうとする。しかし、魔法がうまく発動せず、床を水で濡らしてしまった。
「あ、あれ?」
「ペシエラ様とロゼリア様のお話では、チェリシア様は魔力切れを起こしていたようですので、もうしばらくは思うように魔法が使えないかと思われます。ですので、水は私がご用意致しましょう。その後、食事もお持ちします」
魔法が使えないと聞いて、チェリシアは残念そうな顔をする。それでも気を取り直して、今は休むべきと考えたチェリシアは、スミレの申し出を受け入れた。
桶に張られた水で顔を洗い、手拭き布でささっと拭き取ると、スミレが食事を持ってやって来た。
カイスの村はそれほど裕福ではないのに、わざわざ出向いた領主たちにいい食事を用意してくれている。チェリシアはどこか申し訳なく思ってしまう。
顔をしょげかえらせているチェリシアを見て、スミレは「気にしなくてもいい」と声を掛けてきた。でも、やっぱりどこか後ろめたかった。
食事を用意してもらったところで、チェリシアはスミレに尋ねる。
「魔力切れって、私はまた魔法がきちんと使えるようになりますか?」
「先程の水魔法は、魔力の不安定さから失敗していましたが、あの状態ならもうしばらく休んでいれば元通りになると思われます。大事なのは焦らない事だと思います」
スミレは丁寧に淡々と答える。その様子は、一介の村人にしては、妙に落ち着いている。
しかし、チェリシアは気持ちがそれどころではなかったので、その違和感には気付いていないようだ。
「ペシエラ様とロゼリア様は、お昼を食べられたらこちらに来られると思います。ゆっくりお休み下さい」
「そうね。無茶をしたんだもの、ゆっくり休ませてもらうわ」
チェリシアは仕方なく、スミレに言われるがまま、おとなしく寝ている事にした。
しばらくすると、チェリシアは再び寝息を立てて眠りについた。その様子を見届けたスミレは、一旦部屋を出ていく。
「ふう、使用人の真似事のような、慣れない事はするものじゃないわね」
スミレは人目につきにくい場所まで移動すると、深呼吸をした。
「意識に干渉してみたけれど、魔力の質は感じた限りあの方とよく似ていらっしゃる」
チェリシアが目覚める前に使った魔法の事だろうか。スミレはチェリシアにかざした右手を見て、何やら呟いているようだ。
「ペシエラには会っていないけど、あのロゼリアという娘もなかなかな素質の持ち主ね。チェリシアの使っていたエアリアルボードを再現していたし……」
朝に会ったロゼリアの事も振り返っている。ちなみにスミレは逆行の事は知らない。だが、その魔法の才能が並のものではないと、その身で感じ取っていた。
「これは、今後も付き合う事になりそうね。あの方と相談してみる必要がありそうだわ」
スミレは、興味深い子どもたちに出会って、淡々と任務をこなすだけでは満足できなくなっているようだ。そして、これからの楽しみを感じて笑みを浮かべると、ロゼリアたちの居る村長の家へと足を運ぶのだった。
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