第63話 謎の女

「はっ!!」

 ロゼリアは勢いよく体を起こす。

 窓を見れば、眩しいばかりの光が差し込んできている。

「……朝?」

 急に立ち上がって立ちくらみを起こしつつ、ロゼリアは窓から外を見る。どうやら本当に朝のようだ。夕方から半日ほど寝ていたらしい。

 目を下に向ければ、チェリシアはまだぐっすりと眠っている。寝息は立てているし、手首に指を当てれば脈が確認できる。

 チェリシアの顔色は、昨日よりは良くなっている。少しずつではあるものの、魔力が戻ってきているようだ。

 突然、部屋の戸が叩かれる。

「はい、どちら様で?」

「失礼致します。プラウス様よりお手伝いを言い渡されましたスミレと申します」

 自己紹介を受けて、ロゼリアは部屋の中に招き入れる。警戒はすべきだろうが、寝ぼけていたのですっかり忘れていた。

 しかし、中に入ってきたのは十五くらいの若い女性。どうやらカイスの村の住民のようである。

「本当は昨晩挨拶をしたかったのですが、よく眠っておられましたので、チェリシア様とご一緒にお世話させて頂きました」

 言われてロゼリアはハッとした。

 そう、確か椅子に座ったまま、意識を失っていたはずだ。しかし、起きたのはベッドの上。部屋のベッドは、チェリシアの眠る物一つだったはずなのに、それとは別のベッドで眠っていたのだから、驚くのも仕方はなかった。

「えっと、それはあなた一人で?」

 ロゼリアが尋ねると、

「はい」

 スミレは肯定した。

 十歳の子どもを一人で運ぶ。十五歳の少女に果たしてできる事だろうか。ロゼリアは疑念を持った。

「さすがにベッドは手伝ってもらいました」

 スミレはしれっとした笑顔でそう付け加えた。

「ペシエラはどうしていますか?」

 疑問はあるが、ロゼリアは話題を変える。隣の部屋へ行ったペシエラの事が心配だったからだ。

 これにもスミレは戸惑う事なく答える。

「領主様とご一緒されて、現在は村長の家におります。ロゼリア様はよく眠っておられましたので、そのまま寝かせておくように申し付けられております」

 スミレは表情の変化が乏しいが、質問には滞りなく答えている。

「ですが、起きられたのでしたら、身支度をされて領主様にご挨拶に伺われてはいかがでしょうか。ロゼリア様は侯爵家令嬢と伺っておりますが、まだ子どもでございますので」

「そうですわね。それでは、チェリシア様の事をお願い致します」

「はい、畏まりました」

 スミレに促されて、ロゼリアはペシエラの部屋とは逆隣の自分の部屋へと向かう。

 ロゼリアは侯爵令嬢ではあるが、ひと通り自分の事ができるようになっている。逆行してからの訓練の賜物である。

 ロゼリアは持ってきているドレスの中から、子爵に会うために一番いい服を選ぶ。脱いだドレスは水魔法と風魔法を使って、ちゃっちゃと洗濯してしまい込んだ。この洗濯魔法もチェリシアの使っているものを真似たものだ。再現できてしまうあたり、ロゼリアの魔法センスは高い。

 水魔法で顔を洗うと、ロゼリアは村長の家へと向かった、

(ペシエラの魔力を追えば、聞かなくても辿り着けるのよね)

 魔力感知という魔法を、ロゼリアは使っている。属性と量を感じ取る魔法であるが、ロゼリアは方向と範囲を任意に設定して使う事ができる。これも逆行してから身に付けた技術だ。

 しかし、いくら強くてニューゲームとはいっても、努力だけでは限界がある。チェリシアという存在が居たからこそ、発想を得て身に付けられたのだ。

(家の中のチェリシアの魔力が普段より弱まってる。それにしても隣の魔力も大概な強さね……。スミレさんって何者なのよ)

 自分の魔力にも匹敵するスミレの魔力にびっくりしながらも、ペシエラの魔力を少し遠めに発見する。……それほど遠くでもないか。

「それでは向かいますか」

 ロゼリアは一つ気合を入れると、村長の家へと向かう。歩いてもいいが、十歳の少女の足では時間がかかりすぎる。なので、身に付けたばかりのエアリアルボードを展開して移動する。

 こうして、チェリシアの休む家屋には、チェリシアとスミレの二人だけとなった。

 スミレはチェリシアの隣に移動して、椅子に座る。そして、覗き込むようにチェリシアを見ている。

「見れば見るほど、ただの少女なのに不思議なものね。わけだけど、この子たちが厄災の暗龍を本当に倒してしまうとは……」

 スミレが、よく分からない事を呟きながら、チェリシアに手をかざす。

「さて、あなたが本物かどうか。試させてもらうわ」

 スミレはチェリシアに向けて、魔法を放つのだった。

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