第10話 会談

 コーラル子爵を交えて行う会談の日がやって来た。場所はなんと王宮。昼食を兼ねてまずは打ち合わせの場が設けられたのだ。

(まさかこの段階で王宮を訪れるなんて、思ってもみなかったわ)

 マゼンダ侯爵の後ろをついていく様に歩くロゼリア。少し後ろには、ほぼ時を同じくして王宮に着いたコーラル子爵とチェリシアがついてきている。チェリシアの動きはぎこちなく、転生前のチェリシアがこういう場に不慣れなのが見てとれる。

 逆行前にロゼリアが王宮を初めて訪れたのは、魔法が使え始めた十一歳の時。シルヴァノ王子の誕生会だった。

 この世界では十歳から十三歳の間に、大なり小なり魔法の才能が開く。そして、その魔法の才能の開花を以て、社交界にデビューするのだ。

 稀に一桁のうちに開花する者も居るが、本当にごく稀。そういう背景もあり、共に八歳であるロゼリアとチェリシアの訪宮というのは異例すぎるのだ。

 さて、王宮の食堂に通されたロゼリアたち。通されたテーブルは、ロゼリアの記憶に無い十人ほど座れる比較的小さめのオーバル型のテーブルだった。

 座席位置はロゼリアとチェリシアが隣り合い、二人を挟み込む様にマゼンダ侯爵とコーラル子爵が座る。

 チェリシアは緊張で固まっていて、よく見れば震えている。ロゼリアは微笑みかけながら、チェリシアの手を握る。すると、チェリシアは驚いてロゼリアを見る。ロゼリアの笑顔を見て安心したのか、チェリシアの震えは止まった。

 娘たちの仲睦まじい様子を見て、二人の父親は破顔しそうになる気持ちを必死に堪えていた。なにせ場所は王宮の食堂。こんな所でやらかしてしまえば、どんな罰が待っているか分からないのだから仕方ない。

 その時、食堂の入口に居た衛兵から、信じられない言葉が聞こえてくる。

「国王陛下ならびに王太子殿下、宰相閣下のご入場である」

 この時、ロゼリアもチェリシアも信じられないという気持ちだった。まさか国王陛下までお見えになるとは思っていなかったからだ。

 いや、この気持ちは甘過ぎたのだ。あの話をする場に時点で可能性を考えるべきだったのだ。

(浮かれ過ぎて見落としていたわ)

 ロゼリアは心の中でため息をつく。そして、チェリシアの方を見ると、それはもう、魂が抜けたような情けない顔になっていた。

(王太子に会うってだけで固まってましたものね。これは仕方ないわ)

 ロゼリアは、周りに気付かれないように、チェリシアに声を掛ける。

「放心するのは終わってからにしなさい。ここで失敗するわけにはいかないのよ?」

「はっ、そうでした。申し訳ございません、ロゼリア様」

 チェリシアが頭を下げそうになるが、場面が場面なので、ロゼリアは手を出して言葉だけに留めさせる。

 しばらくして、食堂の入口から立派で豪奢な衣装を纏った三人が入ってくる。先頭で入って来たのは、この国の国王であるクリアテス・アイヴォリー。その次は王太子シルヴァノ・アイヴォリー。最後は宰相を務めるブラウニル・マルーン公爵だ。

 席に着く四人は一斉に立ち上がり、それぞれ国王陛下たちに挨拶をする。

(それにしても、八歳であられるシルヴァノ殿下まで同席とは……。これも私たちに関係がありそうね)

 今の時点でも、前回の人生とはだいぶ異なっている。だが、ここで判断を間違えば、前回よりも悲惨な末路を辿る可能性はあり得る。

 ロゼリアは精一杯頭を使って考える。考えながら国王陛下たちの動向を見守る。……だが、見てみたところで、シルヴァノ殿下がにこにこしているだけで、国王陛下も宰相も固い無表情で、その腹の中を探る事は叶わなかった。

 そして、国王陛下たちが席に着く。

「皆のもの、よく来てくれた。座ってよいぞ」

 クリアテス陛下が発言すれば、マゼンダ侯爵たちは一礼をしてから椅子に座る。

「料理は今運ばせておる。揃うまでに此度の招集の理由を話そう」

 ロゼリアはぐっと体を縮こめる。

「マゼンダ侯爵とコーラル子爵から申し入れのあった、塩の精製の試みについてだ」

 メイン議題は、やはりそれだった。

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