猛毒
八月三日仕事終わり。
二日前に鈴木との再会を果たした俺は昨日、早速千佳さんと高橋にそのことを告げた。
『何その再会ラッシュ……あ、よく考えたら私もか』
とは千佳さんの言である。
一応、聞いてみたがやっぱりまだ二人と会う踏ん切りがつかないとのこと。
だが高橋の方は違った。
『明日あたり、会えねえかな?』
とのことで今宵、飲むことになったわけだ。
ただ俺は今夜、以前会長に頼まれた教師をやる予定が入ってる。
一時間二時間ぐらい遅れて行くと言ったのだが興味があるので同伴したいとのことで仕事終わりに合流することになった。
うちの会社の近くで待ち合わせすることになったので待っていると、最初に来たのはやはりと言うべきか鈴木だった。
「や、やあ」
まだラブホ引き摺ってんのかコイツは……生娘じゃあるめえし……いや生娘なのか。
別にエレクトリカルな合体かましたわけじゃねえんだから堂々としてろっての。
「おう。仕事終わりか?」
「う、うん。今日はちょっと出張お料理教室的なのやって来たところだよ」
「何作ったん?」
「親子丼だね」
親子丼! 今の今まで頭の中にはなかったが聞いた瞬間に凄まじく食欲をそそられた。
キラキラの黄金みてえなフワッフワの親子丼。
まずは卵とご飯だけで食べるの。あまーい卵と熱々の白飯があわさったのをはふはふ言いながら食す。
次は鶏肉を加えて更に贅沢に。噛んだ瞬間にほろろっと崩れる鶏肉が崩れてさぁ。
ああでも、フワッフワのも良いけど逆に煮込み過ぎてしっかり卵が固まっちゃったやつも好きなのよね。
あのほら、給食で出る親子丼ってそんなだったじゃん? あれもあれで美味いんだこれが。
「食欲に取り憑かれた目をしてる……」
「会って早々、飯テロかますとは流石はお料理教室の先生ってか?」
「君の自爆テロだろ。お料理教室の先生を何だと思ってるんだ」
そんな風に駄弁っていると、
「おーい佐藤!!」
高橋がやって来た。高橋は俺の隣に居る鈴木を見て軽く目を見開く。
だがそれは鈴木も同じで振り返った鈴木も目をぱちくりさせている。
「君、高橋くん?」
「鈴木、か?」
「……何というか、変わったねえ」
「そりゃお前もだろ」
「ふふ、そうだね。何せ性別からして別ものなんだから」
「だな!!」
高橋に対して含むところはない。
鈴木の言に嘘はなかったようでそれは高橋も同じようだ。
二人は早速、再会を喜び語らい始めた。
「あたしは今、高橋アリスって名前で保育士やってる。そっちは?」
「私かい? お料理教室の先生さ。名前は鈴木みおだ」
あ、そういや鈴木の名前聞いてなかったわ。
MIO先生のMIOって今の本名から取ってたのね。
「ってかさ鈴木。お前、何でアルファベットでMIOとか芸名みたいなの使ってんの?」
「いやその方がキャッチ―かなって。正直、良い方にも悪い方にも影響なくて滑ってる感ある」
「アルファベットよかミオミオとか繰り返す系のが良かったんじゃねえの~?」
「いやでも高橋くんさぁ。私たちもう三十半ばだよ? それでミオミオはちょっと痛くない?」
俺はありだと思うがね。ってか実年齢の話するならさぁ。
千佳さんも高橋も鈴木も二十代半ばから後半ぐらいじゃん見た目。全然加齢を感じねえよ。
一人だけ素直にオッサンロードを爆走してる俺が馬鹿みたいじゃん。
「逆にお前は何で順調に老けてんだよ」
「そうだよ。裏の人間なんて大概、実年齢より若く見えるじゃん」
「俺が聞きてえわ」
強大な力を得る代わりに短命になったとかなら分かるけど、そういうんでもないしな。
そういう代償払ってのことならババアも踏み倒しなんて言わんだろうし。
マジで何なんだろな。見た目は老けてても体力が劣ってるとかもねえし……何なら逆にスタミナ増えてるし。
一回本腰入れて調べ……るまでもねえか。別に何か問題あるわけでもねえし。
「ところで佐藤くん。時間は良いのかい?」
「おん? おぉ、そろそろ行かんとマズイな」
二人を連れて互助会の施設へ飛ぶ。
まずは会長に一言、挨拶しとかんとな。
「っかし……裏の学校ねえ。あたしらん時と比べて随分、優しくなってるじゃねえか」
「互助会が正常化してるってのもあるんだろうね。私たちの時は上の人間が結構な割合で腐ってたし」
「良くなり始めた頃にゃお前らもう出てった後だもんな」
会長室の前で止まりノック。返事がかえってきたので入室。
昔の俺らならこんなことせず扉蹴破ってたよな……成長したなぁ。
「ああ、佐藤さ……ん? そちらは……高橋さんと鈴木さん、ですよね?」
「おう」
既に柳と鬼咲が互助会入りしてんだ。
敵対してたつってもボスではなかったし元互助会の高橋と鈴木なら別に問題なかろう。
ってかこの反応。二人のことは把握してたけど継続的に監視をしてたってわけじゃなさそうだな。
行政の書類を閲覧して所在は把握してたが直接の監視は結構、早期に外したってとこか?
そうじゃなきゃ俺とコイツらが再会したことも把握してて驚かんだろうし。
「興味あるってんで見学だよ。別に良いだろ?」
「ふむ……まあ、そうですね。こうして一緒に居られるということはそういうことなんでしょうし」
「ありがとうございます。ほら、高橋くんも」
「はいはい。サンキュな、会長さん」
許可が下りたぜ。やったね!
「しかし会長さんよ~あんた正気か? 佐藤の奴に教師をやらせるとかさ~」
「それは私も思った。会長さんはお歳を召されているようだし、ちょっとボケが入ってるのかなって」
ナチュラルに失礼ね君たち。俺と会長両方ディスるんじゃないよ。
「思いあがった若人の鼻を折る。これ以上の人材はおりますまい。
お二人は存じ上げないでしょうが佐藤さんは一切の誇張なく“最強”ですからね」
会長のフォローが光るね。
「いやまあ、イカレタレベルの強さだってのは分かるよ」
「それを踏まえた上で正気を疑ってるんですよこっちは」
「躾けは大事。これでも保育士だからな。そこはよ~く分かるよ。ガキの驕りってのもな」
「私たちもそういう時期はあったからね」
「躾けに鞭を使うのは良いけどよ」
「佐藤くんは鞭なんて可愛いもんじゃないよね。躾けに核を使うようなものだよ」
「焦土になるわ」
コイツら……!
「あんまり舐めんじゃねえぞカスどもが。俺だってなぁ、ちゃ~んと考えてんだよ」
「「ほら、悪い顔してる。こういう顔してる時のこの男がいっちゃんやばいんだよ」」
「うるせえァ! へへへ、会長。まあ見てなよ。ビシっ! とキメてやっからよぅ」
「……何だか不安になってきましたね」
ひひひ、佐藤先生のキュートでポップなハチミツ授業の始まりだぜ!!
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