第1話 わたちてっぺんとる!

 一歳五ヶ月


 一冊の絵本を立て、その上に立とうとする。




 ――お分かりいただけるだろうか。


 まず何でもいい、本を立ててみて欲しい。

 大凡半分ずつのページくらいで開いて、立てて内側の角度を九十度かちょっと少ないくらいにしたら、本は立つと思う。

 もちろん、本の高さや細長さによってその難易度は変わるだろう。


 今はそのことではなくて。

 とにかく立ててみる。


 どうだろうか、よっぽど分厚くない限り、本の半分ほどの分厚さでは人の体重を支えうる雰囲気には到底ならないと思う。

 何よりその当時目の前にあったのは、絵本である。

 絵本はページ数が少ない、当然半分にしたら薄い、とても薄い。

 足に食い込み分断せんとするといっても過言ではないくらい薄い。

 そこに立とうとする一歳。


 なかなか豪胆ごうたんである。


 もちろん怪我になるから全力で止めた。

 やる気だけ誉めてクレーンのアームのごとく、本から引き離したが、それを三セットくらいは繰り返した。

 やる気に満ち満ちていた。




 ※ ※ ※




 「とーたん」という発音がだいぶ綺麗になってきた。

 ちなみに、一番最初に発声したのは、「やだ」であった。

 そして二語目は、両手を目一杯上にあげる動作付きの「やったぁ」ときた。


 喜びも悲しみも全力である。


 良き。

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