喚叫
「急にどうした」
「手紙」
その言葉を聞いて、前に寮の扉の下から入れられていた手紙の内容を思い出す。
だが今こうして戦えていた訳だが、あぁそうか、なるほど。だからか。
出た答えに、思わず顔が歪むのを自覚する。
確かにラズマリアは引っ込んだ。だがまだクソ野郎の体の中にはラズマリアが居て、次またいつ体を乗っ取られるかもわからないから今の内に処理しろってことなんだろう。
だがなぁ、
「俺が素直にテメーの願いを聞くと思ってんのか?」
「──ッ?!サース!自分が何を言ってるかわかってるの!!?君もわかるでしょ!彼女は危険なんだよ!!僕が僕である内に処理しないと」
「確かにテメーを殺すのは俺にとってとても清々しいものだ。だがそれは俺の意思で俺がそうするからこそ意味が有る。誰かに言われて、しかもお前に言われてやるのなんざ絶対にゴメンだな」
「そんな悠長なことを言ってる場合じゃッ、なんの為に僕が肉体の制御権を取り戻したとッ」
言葉を切って、クソ野郎が頭を抱えて苦しみ始める。
貫かれた肉体が痛む訳ではないだろう。止血事態はトラトトの権能でやっておいた。だからすぐに死ぬようなことは無い筈だ。
にも関わらず苦しみ始めたということは、さっき引っ込んだラズマリアがまたクソ野郎を乗っ取ろうと足掻き始めたということなんだろう。
額に大量の汗と血管を浮かび上げさせながら、茶髪に茶眼を白髪金眼に変えながら、悶え苦しみながらクソ野郎は俺に向け吼えるように静かに言葉を吐く。
「最期、だ、サース。君にしか、頼めない」
『サース、聴こえるかい?彼の献身のおかげで愚妹のことが片付きそうだ。言葉に甘えて彼を処理してくれないかな。そうすれば今回の件はこれで解決だ。サースがやらないというのなら、俺がやろう』
魔王から、いつかの魔道具による通信を魔術化したもので話し掛けられた。
念話と名付けたこれで届けられた魔王の声は、何処か安堵したようなもので、しかし同時に焦っているようにも聴こえた。
言葉通りなら、俺が殺らなきゃ本当に魔王がこの場に現れてクソ野郎を処理するつもりなんだろう。
俺がここでコイツを処理することが、少なくともこの場に居る奴等にとっての最良の結果なんだろう。
そう理解した上で、俺は2人へこう言う。
「俺の性格をわかってるなら、答えもわかってるだろ?
おいクソザコ、自己犠牲の献身に酔ってんじゃねぇよ。今回こうして取り戻したんだ、永久的に制御権取り戻すために足掻きやがれ。
足掻きに足掻いて、どうしてもダメだったと判断した時、テメーが完全に敗けたと判断した時、その時に初めて殺してやるよ」
「このっ、石頭のわからず屋がァァ!!」
それを最後にクソ野郎は倒れた。
しかしすぐあとには完全に脱力したままの状態で宙へと浮かび上がり、戦い始める前までに感じていたクソ野郎ではない空気を感じた。
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