おばけかあさん

ジョセフ武園

おばけかあさん

 おばけ。ときくとまわりのみんなは「こわい」といいます。



 でも、ぼくはそうおもいません。



 だって、ぼくのうちにいるおばけはぼくのおかあさんだからです。



 その人がいることにきづいたのはもっともっとぼくが小さいときです。



 なにをはなしても、きいても、その女の人はひょうじょうをかえずにこちらをみているだけでした。



 その人がおかあさんだとしったのは、ある日おとうさんがしゃしんをみせてくれたからです。



「おとうさん、この人おうちにいるよ」


 と、ぼくはおどろいていいました。


 すると、おとうさんもおどろきそしてぼくのあたまを撫でて、そのあととてもかなしいかおをしていました。



 だから、それいこうおとうさんにはそのはなしをしません。おとうさんがかなしむとぼくもとてもかなしいからです。



「ねぇねぇ、あなたはぼくのおかあさんなの? 」


 その女の人はなにもいいません。うなずきもしません。


「おばけなの? 」


 やっぱり、なにもいいません。


「つまんない」


 ぼくは、その女の人をきにしないことにしました。



 おかあさんは、ぼくがうまれてすこししてしんだそうです。


 だから、ぼくにはおかあさんといっしょにいたおもいではありません。



 おじいちゃんやおばあちゃんは「さみしくない? 」とききますが


 おとうさんがいるので、とくにそうかんじません。



 でも、ともだちがおかあさんといっしょにいるのをみると


 ちょっとだけおはなしをしてみたいなぁとおもいます。



「ねぇねぇ、おかあさん。ぼくをうんだときってしんどかった?


 それとさ……うれしかった? 」


 でも、おばけはなにもはんのうしてくれません



「ちぇ、もういいや」



 そして、テレビをみていると


「ただいま~」


 おとうさんがかえってきたのでむかえにげんかんまででると



「こんにちは……あ、もうこんばんわか……


 はじめまして」


 おとうさんが、しらない女の人といっしょにいました。




「お父さん、この人と結婚するんだ


 この人が、お前のお母さんになるんだよ」



 いっしょにごはんをたべたあと、おとうさんはそういいました。



「でも、じゃあおうちにいる……」


 ぼくは、あわてて口をふさぎました。もう、このことはおとうさんにいわないときめていたからです。



 そして、ぼくはむこうのおへやにいるおばけかあさんをみました。



 いつもどおり、わらってもおこってもいません。


 でも、そのめからなみだがあふれていました。



 それをみたしゅんかん。とても。とってもぼくのむねがいたみました。



 ぼくは、どうしたらいいかわからなくなっておうちをとびだしました。



 そこにいるのがこわかったのです。


 あたらしいおかあさんがきたら、おばけかあさんがいなくなってしまう気がして


 それが、とてもこわかったのです。



 おうちからすこしはなれたところで、ぼくはいきをととのえながらかんがえていました。



 これからどうすればいいのでしょう? わかりません。ぼくはこの今までのじかんがこれからもずっとおなじようにずっとあるんだと、ずっとしんじていたからです。



 そう、かんがえていたらとつぜんめのまえがまっくらになって、からだが今までかんじたことのないくらい。ちゅうしゃよりも、強く痛みました。



「いたいいたいたい……」


 みちのどぶのふたがはずれていたようです。ぼくはそこにおっこちてしまったようです。


 からだはくさい水でぬれてるし、つめたいし、まっくらでとってもこわいです。


 おまけにひざこぞうをすりむいて、いっぱいちがでています。しぬかもしれません。



「だれかーーーおとーーさーーーん‼ たすけてーーーー」


 ひっしでおっきなこえでおとうさんをよびましたが、へんじはかえってきません。



 しばらく、そうしていましたが、ぼくはつかれてしまって、さけぶのをやめました。


「しんじゃったら、おかあさんといっしょにおばけになるのかなぁ? 」


 いっしゅん、おうちのおばけかあさんのかおがうかびました。


 でも。



「いやだよぉ……しにたくないよぉ……おかあさ~ん……たすけてぇ」


 ぼくは、もうなきながらそういうしかありませんでした。くさくてつめたいみずでからだもカチカチです。



 そのときでした。



「しょうくん‼ そこに居るの⁉ 」


勝亮しょうすけ‼ 」


 まぶしいひかりがかおに当たりました。そして、おとうさんと女の人のこえがきこえました。



「こっちです! いました‼ 道具を持って来て下さい‼


 早く‼ 」



 おとうさんにだっこされてどぶから上がると、そこにはたくさんの人がいました。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 ぼくは、ずっとあやまっていました。たいへんなめいわくをかけてしまったんだと思いました。



「だから、ここ前から危ないって言ってたのよ」


「ほんとね。しっかり市役所に言っておかなくちゃ」




「大丈夫? しょうくん‼ 」


 おとうさんがつれてきたあたらしいおかあさんがそうしんぱいそうにしてくれます。


「どうして、ぼくがここにいるとわかったの? 」



 おとうさんとあたらしいおかあさんはめをあわせました。そしてぼくにいってくれたのです。


「聴こえたの。しょうくんのお母さんが、しょうくんがここにいるから、助けてあげてって。あたしたちを呼んだのよ」


 そのことばで、ぼくはわかったのです。




 それから、5年が過ぎました。


 オレも来年から中学生で、家族皆でここよりも広い家に引っ越すことが決まりました。


 あの日からかあさんおばけは見えません。


 でも、オレは知っています。



「でか兄ちゃん‼ まだ準備できてないの? 」


「おーい、兄ちゃん。父ちゃんらが呼んでるよー」



「ああ、今行くよ」



 オレには二人の母親がいます。



 生きている母さんと、おばけのかあさん。


 どちらも、オレの大切な、大切な母さんです。

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