たくあん
とし
たくあん
「君は、目の前にあるモノには目もくれず、いったい何を食べるって言うんだい?」「はい、僕は沢庵を食べたいと思っています」
「たくあん?」というと、主人は首をかしげ、そうして、そのまま暗闇の中へと消えていきました。
それから、二十分ほど経ったのでしょうか。
ひたひたと、床を歩く足音が聞こえてきます。
「あった、あった。ちょうどいいのがあった」と言いながら、主人が帰って来たのです。
そうして、取ってきたばかりの沢庵を、三切れお皿にのせ、僕のお膳に置きました。
「さ、お食べなせい」
それは雪のように真っ白なのですが、確かに上質な沢庵だと分かる代物です。
だからなのか分かりませんが、僕は何も言わず、小一時間ほどジーッとその沢庵を見つめる事にしました。
そうしていると、なんだか、僕の番がやって来たのが分かりました。
だから僕は、その沢庵を「コリッ」と食べたのです。
その瞬間、実際には音は聞こえないのですが、パチっと音が鳴り、暗闇の中に無数の目がギョッと見開いたのが分かりました。
そうして、ロウソクの火がスゥーっと消えたのです。
真っ暗が来ました。
真っ暗にいると、目を開けているのか、閉じているのか、さっぱり分からなくなります。
起きているのか、寝ているのかも分かりません。
なん時間か経ったのかも分かりません。
ただ、僕の口の中には、先ほど食べた上質な沢庵の味が、奥深く、永遠に広がっているのです。
そうして、もうすでに、なんの気配も感じなくなりました。
それから、なん日も経ったのでしょうか。
それとも、なん日も経っていないのでしょうか。
それもどうでもよく思えた時、なんの前ぶれもなく、四方の木の
音もなく光の筋が僕に向かって伸びてきます。
そして、すぐに辺り一面が光で包まれました。
それからというもの、雪がとけ、花がさき、蝶々が飛んでいるのです。
おしまい
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あとがき
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最後まで読んで頂きありがとうございます。
普段あまり漬物を食べないのですが、偶然手に取った「さつましぼり」という漬物を食べた時にその味に本当に驚かされました。
なんとも奥ゆかしい味、なかなか言葉にすることができません。
きっと、それほど豊富に食べるモノがなかったその昔、限られた材料のなかで、大根の味をこんなに豊かに引き出す先人のこだわりに感服しました。
ぜひ一度機会があれば食べてみてください。
感想など叱咤激励いただけると嬉しいです。
これからも、日常を物語にしていきたいとおもいます。
よろしければ、応援よろしくおねがいします。
たくあん とし @xxxToshixxx
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