4-4 果たし状を引寄せてしまった

♢♦♢


~王都・エスぺランズ商会~


「そういう事だったか。まさかゲノムがそんな前から水面下で動いていとはね」


 シュケナージ商会の件を終えて再びエスぺランズ商会に来た僕達は、エミリさんの仲間のスキルでクラフト村にいるイェルメスさんと連絡を取っていた。赤い結晶についての新たな情報をイェルメスさんにも伝える為だ。


「そのゲノムって言うのはこの前レベッカを人質に取った男よね? あの時ジークが倒したんじゃなかったかしら」

「ああ、確かにあの時ジーク君がゲノムを倒したが、そもそもアレは奴の本体ではないだろう。それにもっと言えば、ゲノムは私が何十年も前に勇者と共に1度倒している筈」


 そう。

 ゲノムは本当に実態が掴めない男。イェルメスさんの見解ではきっと奴の黒魔術が関係していると。


「まぁ奴の黒魔術は当時から大分手を焼いたからね。奴は何かしらの方法で生き延びた、あるいは生き返ったとでも考えるのが妥当だろう。通常なら有り得ないが奴はまた特殊だからね。十分に可能性はあるだろう」

「やっぱ昔の魔王軍団はおっかない連中ばかりだったんだな。それで? ゲノムは今何処にいるんよ」

「さぁな。そこまでは私も分からん。寧ろ分かっていれば直ぐにでも奴を止めに行くさ」


 イェルメスさんでさえも居場所が分からないとなると僕達にもお手上げだ。まぁそもそもそんな簡単に見つかるならここまで苦労していないんだよな。


 手掛かりだったグリムリーパーやシュケナージ商会の件でもこれ以上の情報は得られなかった。ゲノムが絡んでいる事は明らかになったけど、結局今僕達はここから動きようがない。


 最後の手段としては僕が『感知』スキルを使って国中探し回るぐらいしかないだろうか。


 どうしようも出来ない状況に僕達が頭を悩ませていると、徐にエミリさんが口を開いた。


「初めまして、大賢者イェルメスさん。伝説の勇者パーティの方とこうしてお話し出来るなんてとても光栄です」

「私はそんな大層な人間ではない。君がエスぺランズ商会のエミリ君か。その若さで王都一の商会を築くとは大したものだ。私より君の方が素晴らしい功績を残しているね」

「とんでもありません。今回の一件は我々エスぺランズ商会にとっても無視出来ないものとなりました。イェルメスさん、魔王復活など本当に有り得る事なのですか?」

「そうだね。私もとても信じ難いが、相手があのゲノムとなれば話は別だよ。何が何でもそんな事は阻止せねばいかん」


 魔王や魔王軍団はかつて世界を脅かした悪の根源。誰もがあんな悪夢を2度と経験したくないだろう。それに当時最前線で戦っていたイェルメスさんの話じゃ、魔王達とイェルメスさん達の勝負は紙一重と言っても過言では無い程厳しい戦いだったと言う。


 普段優しく穏やかなイェルメスさんが「もう2度と経験したくない」と珍しく強い感情を込めて言っていたのが印象的だ。


「そうですか。我々エスぺランズ商会は貴方達に全面協力するつもりです。出来る事があれば何でも言って下さい。こちらで何か情報を得たら直ぐに知らせます」

「ありがとうエミリ君」

「一先ず僕達もクラフト村に戻ろうか。そこでこれからの事を考えよう」


 こうして一旦話し合いは終わり、翌日エミリさん達に別れを告げた僕達はクラフト村に帰った。


♢♦♢


~クラフト村・冒険者ギルド~


 クラフト村に帰って早くも数日が経過した頃、特に大きな変化もない日々を過ごしていた僕達に突如“それ”はやって来た――。


「ジークさん、何か見覚えのある手紙がまた届いてましたよ」

「ありがとうございます。なんだろう?」


 徐にサラさんから渡された手紙。

 僕はそれを手に取った瞬間思わず「げッ!」と声を出してしまった。


「それ、もしかしてまたグレイ様からですか?」

「うん。今度は何だよ一体」


 手紙の差出人が直ぐに分かった僕は、また面倒事にならない様にと祈りながら手紙を開いた。


 すると、やはり見覚えのあるグレイの筆跡。

 しかも彼は言葉で綴れる最上限の挑発と怒りと憎しみを込めた文面を紙ギッシリに綴っていた。内容の殆どが僕に対する恨みつらみ。


 結局重要な内容は“お前と決闘を行うから王都に来い”という一文だけだった。


「ジーク様の実の弟ですが、本当にあの方は救いようがありませんね。いつまでも小さいプライドに囚われています」


 レベッカにしては珍しく棘のある言い方だけど、これは誰もが思う正論だ。


「とんでもない馬鹿なんよ。この間のモンスター討伐会で十分自分とジークの実力が分かった筈だろ」

「本当に血の繋がった兄弟かしら。相手にするつもりじゃないわよね? ジーク」

「う~ん……そもそも何でグレイはこんなに僕の事を毛嫌いしているんだろうか。まさか本当に腹違いの兄弟とかで、僕だけがその事実を知らされていなかったとか……?」


 思い当たる節がなさ過ぎてそんな馬鹿な事が一瞬頭を過った。


「きっとグレイ様はジーク様より劣っているという事が認められないのです。実力も名声も人柄も性格も全てにおいてジーク様が勝っていますから」

「いや、そう言ってもらえるのは嬉しいけど、僕もそこまでの人間ではないから……」


 やはりグレイに対するレベッカの対応が冷たい。

 まぁ当然と言えば当然だけどね。僕も別にグレイの味方をするつもりはさらさらない。


「どうするんですかジーク様。この話をお受けに?」

「そうだね。一応受けようかなとは思っているよ」


 何気なくそう言うと、横にいたルルカとミラーナが驚いた表情で僕を見てきた。


「マジかよ。こんなのわざわざ受けるのか? 明らかに時間の無駄なんよ」

「全くだわ。こんな馬鹿放っておきなさいよ。それより私達はゲノムを探す方が先じゃない」


 2人の意見もごもっとも。何だか僕の家の事で迷惑を掛けて申し訳ないよ本当に。


「ルルカとミラーナの言いたい事もよく分かる。だから僕はこの決闘を受けて、もし僕が勝ったらゲノムを探す手伝いをしてもらおうかと思っているんだ。

勿論グレイが素直に応じるとも思えないけど、レオハルト家は少なからず他の貴族や王族とも繋がりがあるから、独自の情報網でなにかゲノムの事が分かるかもしれない」

「確かに……。レオハルト家なら試してみる価値はありますね。どの道あれから手掛かりが見つかりませんし」

「うん。今は少しでも手掛かりが欲しいからね」


 ゲノムは確実に魔王復活への計画を進めている。

 それに、僕はなんだかその日がもう遠くない様な気がするんだ――。

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