2-6 Aランクと不穏な影を引寄せ
♢♦♢
~クラフト村~
「あ、お帰りなさい皆! その様子だと無事に問題解決出来たみたいね」
クラフト村の冒険者ギルドに戻ると、サラさんや町長さんが僕達の帰りを待ってくれていた。労いの言葉もかけてもらい、まるで家に帰って来たかの様な安心感を感じる。
「お疲れさん。サラマンダーも倒せたかな?」
聞かずとも既に分かっていると言わんばかりに、イェルメスさんは僕に尋ねてきた。
「色々大変でしたけど何とか。でもジャック君や獣人国の皆さんの力にもなれましたし、スキルの使い方も新たな方法を発見出来たので良かったです」
イェルメスさんは僕の話を聞いて「そうかそうか」と頷いた直後、急に目を見開いてこっちに指を差してきた。
「ジーク君、また“新しいスキル”も手に入れた様だね」
イェルメスさんの突拍子もない発言に、僕は咄嗟に自分のブロンズの腕輪に視線を落とした。
すると腕輪には新たに『神速』というスキルが追加されていた――。
「わ、本当だ。気が付かなかった」
「ハハハハ、こりゃまた面白いスキルを手に入れたね。君が新たに勇者と呼ばれる日も近いだろうな」
「いやいや、僕が勇者なんておこがましいにも程がありますよ」
イェルメスさんに認めてもらえる事は何よりも自信になりますけど、流石に僕が勇者は言い過ぎだよなぁ。
そんな事を思っていると、またイェルメスさんが思い出したかの様に口を開く。
「あ。そういえば君が獣人国に行っている間に推薦状出しておいたからね」
推薦状?
僕がピンときていない様子を見て、イェルメスさんは話を続ける。
「まぁまた詳しい説明は受付の彼女から聞けば良いが、兎も角ジーク君のこれまでの実績を踏まえて、私が君の冒険者ランクをAまで上げる様に伝えておいた」
「えッ、イェルメスさんが僕を推薦ですか⁉ しかもAランクって……!」
「ほら、これが証拠だ」
イェルメスさんはそう言いながら冒険者の情報が書かれた紙を渡してきた。これは王国に住む者達全員に配られるニュースみたいなもの。
そして何故か確かに僕の名前が書かれている。
しかも次のページにはちゃんとイェルメスさんの名前も。
……え? ちょ、ちょっと待ってくれ。
僕なんかが本当にいきなりAランク冒険者になるのかコレ。そんな馬鹿な!
って、待て待て待て。これって確か王国中に配られてるやつだよね……。って事は当然レオハルト家にも――。
僕が戸惑っているのを他所に、イェルメスさんは悪戯に笑いながら口を開く。
「ハッハッハッ。なにを固まっているのかね。これは贔屓でも何でもない、ジーク君の確かな実力を証明したまでさ。寧ろ君はもうSランクでも何ら可笑しくないんだよ。
本当はSランクに推薦しても良かったんだがね、最後くらいは自分でランクアップしたいかなと思ってな」
イェルメスさんは優しく全てを語ってくれた。
いや、確かに嬉しいわは嬉しいんですよイェルメスさん。でもそこではないんですよ。欲しい優しさは。僕はそもそも目立ちたくないんですって。
僕は戸惑いながらも、イェルメスさんからのサプライズを有り難く受け取り「ありがとうございます」とお礼を言った。
まぁこれはこれで素直に嬉しいし、もう配られちゃっているなら仕方ない。
「そういえばイェルメスさん、赤い結晶の事は何か分かりました?」
話が一段落した僕は気になっていた事をイェルメスさんに尋ねる。
「そうだった。その事だがね――!」
「……!」
イェルメスさんがそこまで言いかけた瞬間、突如ギルドの外から得体の知れない気配を感じた。
なんだこれは……。
その気配を感じ取ったのは僕とイェルメスさんだけ。咄嗟に目を合わせた僕達は直ぐにギルドを出て気配の感じる方向へ走った。クラフト村の直ぐ横に森が広がっている。気配はそっちの方向からだ。
僕とイェルメスさんが少し森を進んだ次の瞬間、僕達の視界に生い茂る木々の色から浮く、真っ黒なローブを身に纏う人影が映り込んだ。
「あれ、可笑しいですね。もう全員死んでいる頃だと思ったのですが――」
「お前は……!」
突然目の前に姿を現した黒いローブの男が口を開いたかと思いきや、今度はそのローブの男を見たイェルメスさんが驚きの声色でそう呟いた。
誰だ、コイツは――。
僕の頭に過った疑問は瞬く間に氷塊される。
ローブの男は不敵に笑みを浮かべると、再び僕達に向かって話し掛けてきたのだ。
「いやはや驚きましたよ。まさか貴方とこんな所でお会いするとはねぇ、大賢者イェルメス」
「ちっ。嫌な予感ばかり当たってしまうものだな。やはり全て貴様の原因であったか……“ゲノム”よ――」
どうやらゲノムと呼ばれたローブの男とイェルメスさんは互いを知っている様子。不気味な模様を顔に施したゲノムという男は、不敵な笑みを浮かべたままゆっくりと1歩前に出てきた。
「イェルメスさん! あの人知り合いなんですか?」
当たり前に気になる事を聞いただけ。でもその答えは僕の想定を遥かに上回るものだった。
「ああ。知り合いなんて穏やかな表現ではないが……奴はかつて私達が倒した魔王軍団幹部の1人、“ゲノム・サー・エリデル”という男だ――」
魔王軍団の……幹部……。
「ヒッヒッヒッヒッ。以後、お見知りおきを」
ゲノムは冗談っぽく言いながら僕を見てきた。
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