第18話 奇跡の出会い
こうなったのもイライザのせいだ。のこのこ出て行ったミーヤたちにも責任はあるかもしれないが、それでも大声を出さなければばれなかったはず。
「もうそんなに怒るなよ。
アタシだって予定が狂って参ってるんだし、おあいこってことで、な?」
「なんでおあいこなのよ!
イライザがあんな大声出さなければすんなり帰れたでしょ?
私に悪いところなんてこれっぽっちもないんだからね」
「ボクはお城行けてうれしい。
ごちそう出るかなあ」
イライザと口げんかして騒いでいたら、案内してくれている広報官から城内なので騒がないようにと怒られてしまった。そんなあれこれ注文付けるなら帰ってもいいんだけど? 大体呼びつけてるのはそっちなんだからうるさく言わないでよ! とはとても言えず口を塞いでついていく。
お城の中と言っても意外に質素で、ローメンデル卿の屋敷とそう変わらない。今の王様は三代目らしいが、駄目な子孫が散在すると言うありがちなイメージはなく、受け継いだものや規律を大切にしているのかもしれない。
ボーっと考え事をしているうちに大広間へと案内された。玉座の魔で謁見、みたいな感じではなく、結婚披露宴の立食パーティーでもやりそうな雰囲気の場所である。廊下と違って質素と言うほどではないが決して豪華ではなく、客が来る場所だから最低限は装飾を施していると言ったところか。
壁沿いに並べられた椅子で待っていると、どうやら王様のお出ましらしい。先ほどの広報官が慌ただしく部屋を出入りしている。他の配下の人たちにも動きが有り、今更テーブルが運ばれてきた。
ミーヤたちはテーブルへと誘導されたが椅子がない。仕方ないので自分たちで持って移動して座ると言う、常識では考えられない体験をしつつ王様を待っていた。
「やあやあ、よくいらしてくれました神人様ご一行殿。
盗賊退治では随分活躍されたと聞いておりますぞ。
おっとこれは失礼した、吾輩はリスタル・ミラ・トコストと申す。
気楽にリスタルとでも呼んでくれたまえ」
なんと、現れたのは確かに王様だが、その格好は農作業から戻ってきたばかりと言った風で、村で着ていたような作業着でところどころに泥がついたままだった。配下の人が慌てて着替えを持って来たが、まさかこの場で着替えるわけにもいかないだろう。
「お初にお目にかかります。私はミーヤ・ハーベスと申します。
本日はお招きいただきありがとうございます。
お会いできて光栄です、リスタル陛下」
「こちらこそ突然呼び立ててしまってすまなかった。
そう畏まらないでくれたまえ。
神人様がそんなでは、ご友人たちまで緊張してしまわれるぞ?」
そう言われても普通に話せるわけはないと思うのだが…… ローメンデル卿もそうだったが、どうもこの世界の人たちは自分の立場を気にしなさすぎだと感じる。上下を区別しすぎないのはいいことかもしれないが、それなら初めから王政を敷かなければいい話だ。
「そう言われましても、国王陛下の御前ですから。
冒険者をやっていてもそのくらいはわきまえております」
思わずそう言ってしまったが、ミーヤはいつから冒険者になったのだろう。まあ立場の説明がうまくできるわけでも無いし、王様だって元冒険者だからそう言っておいた方が都合がいいかもしれない。
「まあそうかもしれんがなあ、この国の始祖も冒険者だったのは知っているかな?
吾輩もどこかへ出かけてみたいのだが、なかなかそうもいかん。
だからこそ現役の冒険者と気兼ねなく話したいのだよ」
「そう言われても、私は経験も浅いですし、国王陛下が喜ぶようなお話はできません。
バタバ村でも王国軍が押していたのを手助けした程度です」
「だがそなたの仲間があの霊術使いを打ち取ったと聞いておる。
あやつには手を焼いていたので助かったぞ?
どなたが剣術使い殿かな?」
「はーい、ボク!
スパッとこうやって真っ二つにしたの」
チカマったら! 王様に無礼な態度をして怒られちゃたら困ってしまう。本当に気楽に話していいかどうかなんてわからないのに。昔、就職活動しているときに、カジュアルな普段着指定のアパレル商社へ行ったら、面接待ちの人にジーンズとTシャツの人がいてひっくり返ったことを思い出した。
「国王陛下、連れがご無礼を、申し訳ございません。
あとで言い聞かせておきますのでお許しください」
「神人様、そのようなことは気にしないで下され。
吾輩はもっと気さくに語り合いたいのだよ。
なんと言っても、ええっと、魔人殿は英雄ですからな」
「ボク? 英雄なの?
ミーヤさま、すごい? 褒めてー」
ミーヤは頭を抱えながらチカマの頭を撫でた。それを見ていたイライザはのんきに笑っているが、もとはと言えば、ここに来る羽目になったのはイライザのせいなのに!
まあ、ただ圧迫面接のような空気は無く和やかなムードであることは確かで、本当に気を使う必要はないのかもしれない。そう思っていると、広報官が声をかけてきた。
「神人様、王は本当に気さくな方ですからご配慮無用でございます。
今もあのような格好ですが、先ほどまで農作業へ出ておりましてね。
お呼び立てしておいて着替えずに来てしまい、こちらこそご無礼致しました」
「まあ良いではないか。
いくら急いでいても自分の担当分はしっかり働かないと示しがつかん。
神より賜ったこの力、使わずになんの意味があろうか」
どうやら王様は農耕治水スキル持ちらしい。だからといって王と言う立場からすれば、農作業はやらないで済む仕事のはず。それを自ら土にまみれて働くと言うのは好感が持てた。
「陛下は何を栽培されているのですか?
私は産まれた村で麦以外のなにかを作れないか考えているところなのです。
もしなにか参考になればと思いますので、お聞かせいただけますか?」
「うむ、吾輩が今育てているのは新種でな? 稲と言う植物だ。
これがなかなか育たんですぐ枯れてしまう。
正直難儀しておるのだよ」
稲!? お米!? 食べたい! すぐ枯れてしまうと言うが、麦と同じように土に蒔いているのだろうか。それならアドバイスで恩を売れるかもしれない。もしかしたら小学生の頃に学校で稲を育てたことがある経験が生きるはず!
「その稲は収穫できていないのですか?」
「食べるほどの量は、な。
前回は百株ほど植えて皿にひと盛り程度でのう。
麦と違って種を蒔いて生やすだけでも一苦労だ」
「麦と同じように育てているということは種もみを蒔いているのですよね?
陛下? もし良かったら種もみを少し分けていただけませんか?
そうしたら栽培のコツをお教えしますよ」
「なんと!? 神人様は稲をご存知か!
コツとやらを教示いただけるのだら種もみくらいいくらでも。
と言いたいが、収穫もままならぬのでそれほどは差し上げられんのだ。
まずは小袋ひとつでいかがかな?」
「はい、十分な量です。
それではコツをご案内いたしますね。
まずは――」
こうしてミーヤは発芽と水田について王へ説明し、代わりに種もみを貰い受けることに成功した。これをカナイ村で大量に作れたら基幹産業にできるかもしれない。そんな希望がミーヤの心に暖かな火を灯したのだった。
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