第17話 騒ぎの前触れ

 昨日はナウィンの境遇に同情してしまったせいか、冷静な判断が出来なくてノミーへ感情的なメッセージを送ってしまった。しかし未だ返信はなく、ホッとしているがドキドキが続いているような、そんな気分で朝を迎えた。


 金のためならということなのか、しっかりと朝起きたイライザが英雄の広場へ向うと言うので、ミーヤたちもついていった。相変わらず人通りの少ない朝の王都だが、広場が近づくと冒険者風の人たちが増えてきた。


「こんなに大勢参加してたのね。

 報酬が後日なのは予想外だけど、こんなに大勢の人をどうやって判別しているのかしら。

 中には、参加してないのに受け取りに来る、ちゃっかり者がいるかもしれないわよ?」


「あはは、そりゃそうだよな。

 だから引換券があってさ、街の出入りと毎日の野営時に確認してたんだよ。

 最後にその木札と報酬を交換するってわけさ」


「なんだか面倒な事するのねえ。

 でもそれくらいしかできないだろうし、仕方ないんだろうね。

 あ、ということは私とチカマはタダ働きにしかならないのか、残念」


「まあそう言うことになるな。

 正式に参加していたら、チカマには特別報奨出たかもしれないのになあ」


「盗賊の首領を倒したから?

 あの人強かったもんねえ」


 そう言ってからはっとしてチマかを見るが、当人は何とも思っていないようだ。あの時、親であった盗賊のボスがこの世からいなくなったことで憑き物が落ちた様な顔をしていたし、本当に何とも思っていないのだろう。いや、そうであって欲しかった。


 うつむいて考え事をしながら歩いていたミーヤは、急に足を止めたイライザの背中へぶつかった。その勢いで後ろへのけ反りながら見上げると、周囲にはかなりの人数が列をなしていた。


「こりゃ時間がかかりそうだなあ。

 報酬を受け取ったら連絡するよ。

 街を出る前にもう一度会おうな、ミーヤ」


「わかったわ、イライザ、またあとでね。

 私たちはマーケットでも覗いてくるー」


 イライザとレナージュは報酬受け取りの列へ並び、ミーヤとチカマ、それにナウィンの三人はマーケットへ向かった。


「ねえナウィン、養子の件だけどさ、私にはなにもできないと思うの。

 でもその日が来るまでは、一緒に旅でもしながら過ごすってのはどう?」


「はい、えっと、あの……

 お役に立てませんがよろしくお願いします。

 えっと神人様、チカマさま」


「もうそう言うのはいいよ。

 ミーヤとチカマでいいからね。

 さ、何か物色しに行きましょ」


 ミーヤはそう言って二人の手を取って歩き出した。だがナウィンは小さすぎて手を繋ぎながら歩くのが難しい。でも離れたら迷子になってしまうかもしれない。ということで連絡先登録を忘れていたのでしておくことにした。


「これではぐれても安心っと、これからもよろしくね。

 チカマもナウィンもお互い仲良くするのよ?」


「はーい、ミーヤさま」


「あ、えっと、あの……

 はーい、ミーヤさま」


 慣れるまでは仕方ない。呼び方はもう任せることにしてマーケットをぶらつくことにした。昨晩は鳥のクリームシチューにしたから麦の粉が大分少なくなった、ここで買い足しておこう。


 こうやって献立を考えながら二人を連れて買い物をしていると、なんだか母親にでもなった気分になる。実際にはもうなることはないけど、こうやって雰囲気だけでも味わえるなんて思ってもいなかったので少しうれしい。


 そんな気分をかき消すようなメッセージが飛んできた。それはノミーからのメッセージである。昨日はつい感情的になって、人身売買をしているのか! なんて送ってしまったのだが、そのことについてはもちろん否定した内容である。


 ただ、ナウィンの話とは食い違うのできちんと聞いておきたいところではある。さっそく先のメッセージについてのお詫びと共に、本当のところを聞いてみることにした。のだが、またまた返事が返ってこない。よほど忙しい人なのだろうと諦め顔でいると、今度はレナージュからメッセージだ。


 誰かとやり取りを始めると、途端に他からも送られてくるような気がするが気のせいだろうか。どうやら報酬の受け取りは終わったらしいが、ひと騒動起きているらしい。とにかく広場へ来いとのことなので急いで向かった。


「だからアンタさ! 適当なこと言わないでよ!

 その腕で一体どうやって倒したって言うのよ!

 あれは私の仲間が倒したんだから嘘ついて報酬貰おうなんて都合が良過ぎるのよ!!」


 少し離れたところからでも普通に聞こえるくらい、レナージュが怒鳴っているのがわかった。ほんの少し聞いただけで内容がわかるくらい単純な話のようだ。


「おめえこそ何言ってんだあ?

 お前こそ何を証拠にケチつけてんだよ。

 俺の剣術でスパッとぶった切ったに決まってんだろうが!」


「じゃあアンタの仲間が足止めしたって言うのかい?

 そのもう一人の貧弱な男がどうやってあの攻撃をかわしてたのさ!

 私のピンタすら避けられなかったじゃないの!」


「あ、あれは急に手を出して来たからだ!

 この卑怯者がよ!」


「盗賊は攻撃前にちゃんと教えてくれるんだ?

 へえええ、そりゃ知らなかったわ。

 じゃあ随分戦果をあげたんでしょうね、その割にきれいな鎧着ているみたいだけど」


 口げんかではレナージュが優勢に見える。さてここからどうすればいいのだろう。するとイライザがミーヤたちに気が付いた。


「おおい、ミーヤとチカマ、こっち来いよ。

 王国戦士団の団長たちに聞かせてやってくれ」


 あの時どういうことがあったのか、見ていた者もいたし攻撃を受けて倒れていたが意識のあったものもいたらしい。しかしはっきりと覚えているわけでも無いので、いまいち決め手に欠けるとのことだ。


「だれ? ボクの話すればいいの?

 こうやってスパーってやったこと?

 ミーヤさまが針の雨降らせたり、ガブってやってたね」


「そうね…… あんなのに噛みついたなんてちょっと恥ずかしいわ。

 魔法と弓が飛び交ってて大変だったわよ。

 ねえ、あなたもそう思うでしょ?」


 ミーヤは手柄を横取りしようとしている騙り者へ話しかけた。すると男たちはドギマギしながらたどたどしく言い訳をはじめ、あっという間に走り去っていってしまった。


「ほおうらあ!!

 だから言ったでしょ!

 うちのチカマが倒したんだって!

 その直前まで攻撃を防いで犠牲を減らしたのだってミーヤなんだからね!」


「そうだよ、こう見えてもこいつらはすげえんだからな。

 なんてったって、ミーヤなんて神人なんだからさ!」


「ああ、イライザ……」


 この一言で王国戦士団団長は目を丸くして隣の広報官のような事務方へ何か伝えているし、周囲の戦士団員や冒険者たちも騒ぎ始めてしまった。


 せっかくオカーデン支部長やラディ組合長が気を使ってくれていたというのに…… ミーヤはイライザの脇腹を肘で突っつきながら、おしゃべりねと言って舌を出した。

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