第12話 四重奏(カルテット)解散!?

 数日かけて王都へ戻ると、何となく出発前とは雰囲気が違って見えた。心なしか活気があると言えばいいのだろうか。そう感じているミーヤがキョロキョロと周囲を見回しているとイライザが声をかけてきた。


「これが王都の本来の姿さ。

 ここ数年はビス湖方面やジョイポンへの直通便がしょっちゅう襲われていたらしいよ。

 それでいい加減放っておけなくて討伐することになったんだとさ」


「そう言うことだったのね。

 だからって近隣都市にまで加勢を頼むなんて随分大規模よねえ」


「あれは冒険者組合主導ってことらしいけどな。

 トコストでは冒険者の地位が低いって知ってるか?

 自分のためだけに力を振るうやつらだって思われてるから仕方ないんだけどさ。

 一部の店や宿屋では立ち入りも許されなかったり、高値吹っかけられたりしてたのさ」


 そのことは多少聞いていたし、なんとなく肌で感じるところもあった。つまり冒険者の地位向上のために人を集めたと? だからレナージュやイライザ、マルバスにまで要請が来たと言うことか。


 でもミーヤには声がかからなかった。それはつまり未熟者は不要だと言われたに等しい。最近はそこそこ強くなってきたし、チカマと共に、盗賊討伐でもいい働きをしたと言うのにこの扱いは不満だ。


「なんだか不満そうだな。

 でも王都で実績のある冒険者にしか声はかかってないからさ。

 ミーヤがダメってわけじゃないさ。

 でもレナージュは、ミーヤとチカマは心配だから置いて行こうって言ったけどな」


「もう、レナージュったらホント酷いんだから。

 私たちだってそこそこいけるでしょ?」


 とは言ってみたものの、本当は二人の心遣いはありがたかった。あんな大規模な戦闘は見たことがなかったし、乱戦の中でうまく立ち回れたかはわからない。何よりもしもチカマの身に何かあったらと思うと背筋が寒くなる思いだ。


 結果的にはチカマに助けてもらったけど、あのときだって運が悪かったら全員死んでいた可能性もあるのだ。ローメンデル山でチカマが死にかけた出来事が目に焼き付いていて、決して忘れることができない。


 それでも無事に帰ってこられたことは嬉しいことだし、レナージュやイライザともまた一緒に過ごせるのは最高の気分だ。ミーヤはチカマとレナージュの腕を取って自分へ引き寄せながら街中を進んだ。


「ちょっとどうしたのミーヤ?

 歩きにくいわよ、それに頬の毛がくすぐったいわ」


「ミーヤさまあまえんぼう。

 もうボクにあまえんぼうって言えない」


「ふふふ、今日はいいのー。

 だってすごく気分が良いんだもの」


 さて、無事に戻ってくることが出来たからには、本来すべきだったことをしなければならない。その前に宿へ戻って旅の垢を落とすとしよう。


「レナージュ達はどこかに泊まっているの?

 私たちは誠実地区の宿屋なんだけど」


「アタシらは宿を取ってないよ。

 城の東に野営場が設けられてたからそこにいたんだ」


「城の東にいたのね。

 私たちは西の大池までは行ったから、運が良ければ出発前に会えたのに残念」


「なんだ、パンでも貰いに行ったのか?

 そんな慎ましい旅をするほど貧しくはないだろうに」


 その話を始めてようやく忘れていたことを思い出した。


「あ! すっかり忘れてた!

 あのね、一緒に冒険へ出たいって子と知り合いになってしまったのよねえ。

 今は宿屋で待たせたままなんだけど、もう二週間くらい? 連絡してなかった……」


「また変なの拾ってたのか?

 ミーヤも好きものだなあ」


 イライザに冷やかされたが、別に変なのを拾っているつもりはない。それにチカマは変なのでもない。ただ、ナウィンはちょっと変かもしれないが……


「良かったら会ってくれないかしら?

 魔封結晶を作ってもらった恩もあるから無碍にはできないのよ」


「まあチカマみたいないい子なら私は歓迎するわよ。

 イライザも構わないわよね?」


「まあリーダーのミーヤが良いならそれでいいさ。

 それでそいつは細工以外に何ができるんだ?」


「えっと…… 魔術と召喚術がほんの少しかな……

 あとは錬金術も少しできるって言ってた」


「おいおい、冒険者になるってのはちょっと無理があるんじゃないか?

 魔術を伸ばしていけば可能性がないわけじゃないがなあ。

 あとはやる気次第ってとこか」


 ナウィンのやる気は認める。でも即戦力ではないし、伸びしろも不明だ。果たして旅へ出てからやっていかれるのだろうか。ミーヤもチカマもレベル1からのスタートではあったが、今やその時の無力感は忘れてしまっていた。


 判断に迷い考え事をしているミーヤへ助言をするつもりなのか、イライザが続けて話し出す。


「せめて神術だけだって言うなら、回復役に徹底すればいいけどな。

 魔術だと攻撃をするために誰かがカバーしないといけない。

 それはあの戦いで見て理解できてるだろ?」


「そうね、盗賊たちは術師を守るような陣形を組んでいたものね。

 それなら私とチカマが前、イライザが守り、最後方からレナージュが弓を撃てばいいんじゃない?」


「ああ、それは無理だな。

 アタシがその術師を守る以外を考えないとダメさ」


「なんで? 守っているだけじゃつまらないから?

 それとも何か理由でもあるの?」


「いやいや簡単なことさ。

 アタシは今回で冒険者を辞める事にしてるんだよ」


 イライザがパーティーを抜ける!? まさかそんな……


 ミーヤは、頭を棍棒か何かで強く殴られたような感覚に襲われた。イライザは突然何を言っているのだろう。ついこの間結成したばかりのパーティーなのに? いつも頼りになって的確に指示をくれていたイライザがいなくなるなんて信じられない。


 宿屋へ向かう足を止め立ち尽くしたまま、ミーヤは頭の中が真っ白になっていった。

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