第4話 冒険者組合本部

 冒険者組合と言ってもジスコと違いこちらは本部だ。それはそれは立派な建物だろうと想像していたのだが……


「これが本当に組合本部なの?

 随分ボロ、いや古い建物ねえ。

 それに手入れされていなくて薄汚れているし……」


「最近、魔鉱が値上がりしているから組合の買取も上がって大変なんだってさ。

 だからうちも今は夜の照明なしなのさ」


 それは違うような気もするが、まあ今はどうでもいい。なんで魔鉱が値上がりしているのか、それの無いが悪いのかが分からない。組合で魔鉱を買い取ったら錬金術師へ売ると聞いている。つまりそこに損失が出る要素はなさそうだ。


 その辺りについてレブンは何も知らないらしい。冒険者でもなんでもないのでそれはそうだろう。なんといっても、少しかじっているミーヤだって何もわからないのだから。


 とりあえず紹介状をちゃんと持っていることを確認し、意を決して扉を開けた。作りはジスコの組合とそう変わりはない。掲示板の周囲には人が多く活気はあるようだ。


「いらっしゃい、見ない顔ね。

 かわいらしい格好しているけど冒険者なのかしら?」


 初めて見る鳥人の女性が迎えてくれた。ちょっと性格に難がありそうに感じ、すでにモーチアを懐かしく思ってしまった。出鼻をくじかれた気もしたが、ミーヤはめげずに招待状を出した。


「組合長はいらっしゃるかしら?

 これジスコのオカーデン支部長からの紹介状よ」


「あら珍しい、オカさんお元気かしら?

 私はシンキュウ、ここの事務員よ

 夜は破滅の酒場で歌ってるから良かったら聞きに来てね」


「破滅の酒場とは? 

 王都には今日着いたばかりでわからないことだらけなのよ」


「あらそうなの?

 地図は持ってるかしら?

 なければ一枚100ゴードルで販売もしてるけど」


 ミーヤはレブンを睨みつけながら地図を取り出した。


「その街の地図を見るとわかると思うけど、トコストは神殿を中心とした三つの地区があるのよ。

 それぞれの神殿がある地区を破滅の~とか武勇の~って呼ぶわけ。

 三つの地区には主要な店があるけど、破滅には酒場が一軒しかないから破滅の酒場で通じるのよ。

 あとは中心に英雄の広場があって、街の外の北側に城があるって造りね」


「なるほどね、よくわかったわ。

 でも私はお酒弱いのよねえ。

 おいしいものがあれば行くんだけど、どうかしら?」


「それなりに繁盛しているし、まあ悪くはないと思うわよ。

 でも私は菜食主義だから肉類のことはわからないわ」


 なんだかあまり期待できそうにない返答だ。まあ無駄遣いしないで済むならそれに越したことはない。それよりも魔封結晶のことも聞かなければいけなかった。その前にさっさと組合長を呼んで紹介状を渡してほしいところだ。


「ええっとなんだっけ?

 ああ、オカさんの紹介で組合長呼ぶんだったわね」


 シンキュウは組合長へ連絡してくれているようだ。それにしても紹介状の中身が気になるところ。いったい何が書いてあるのだろう。街へはすんなり入れてトラブルもなかったので、とくに紹介状が必要な気はしていないが、わざわざ持たせてくれたのだから意味があるのだろう。


「やあお待たせしました。

 組合長のラディと申します。

 どうぞこちらの部屋までお越しください」


 ラディという有鱗人に別室へ来るように案内され、ミーヤとチカマは奥の部屋へ入っていった。


「改めまして、神人様、ようこそトコストへ。

 紹介状も確認しましたが、その前に一目でわかりました。

 実はトソタニという男から神人様のことは聞いておりました」


「まあ、ローメンデル卿の晩餐会でお会いした戦士団の方だったかしら。

 そう言えばあの方も有鱗人でしたわね」


「はい、やつは私の弟弟子にあたります。

 私は冒険者組合長になる前、戦士団にいたのです。

 ああ見えてあいつはおしゃべりなやつでしてね、神人様のことを色々と教えてくれていました。

 いやあ、その話の通りお美しいですな」


「そんな、お世辞は結構ですよ?

 トソタニ様がなんと噂していたのか気になってしまいますね」


「いやいや、本当に美しいと申しておりました。

 リザードマンにとって、白い毛並みは特別なものなのです。我々の場合は白い鱗ですが。

 実は大昔にリザードマンの危機を救った白い魔術師という話がありましてね。

 その神話からリザードマンの間では白い鱗、白い毛皮は特別なのです」


「そんな素敵なお話があるのですね。

 晩餐会の時にも大変お褒め頂いて嬉しく思いました。

 だからリザードマンの方々は口がお上手なのかなと」


「わははは、これは参りました。

 でもお世辞ではありません、これは本当にホントです。

 ああ、ところで本題です。」


「そうでした、オカーデン支部長はなにかおっしゃっていたのですか?

 私はなにも聞いておらず、街へ入るのが大変な時にお願いしようかと思っていた程度です」


「彼からの伝言は大した内容ではありません。

 神人様であることが出来るだけ公にならないようにとのことでした。

 なにやらジスコではひと騒動あったようですね」


 いや、別になかったが? それとも行列が出来ていて冒険者組合の前の道が混雑していることを言っているのだろうか。それともただ気を使ってくれただけ?


「それともう一つ、トコスト所属の冒険者救出をしてくださったのが神人様たちだったと。

 その節はお世話になりました。救出感謝いたします」


「あれもたまたま通りすがりのようなものですから気にしないでください。

 仲間がやったことで、私が何かしたわけでもありませんしね」


「そんな、ご謙遜を。

 それよりもなにかお困りのことはございませんか?

 私にできることなら何なりとお申し付けください」


「これはご親切にありがとうござます。

 でもまだついたばかりなので特別なことは何も……

 そういえば魔封結晶はどこかに売っていますか?

 実は、塀の外にナイトメアを置き去りにしてるのです」


 向こうから切り出してくれて助かった。何なりとと言われたなら要望を言えるが、なにもないのに切り出すのはあさましいし恥ずかしい。


「それはお困りでしょうね。

 あれはジョイポンで作っているものが殆どなので、王都でもあまり流通していないのです。

 しかも使い捨てですからねえ」


「使い捨てなんですか!?

 ちなみにおいくらくらいするものなのでしょうか……」


「確か一つ数万だったかと思います。

 わたしは専門外なので詳細はわかりかねますが。

 ちょっと知り合いの調教師に聞いてみますのでお待ちください」


 そういってラディは誰かにメッセージを送ってくれた。ジョイポンならノミーへお願いしたらよかったのかもしれない。彼ほどの力を持っていれば、アイテムくらいいくらでも手に入れられそうだ。


 でも今は放置しているナイトメアが気になるので、一つでもいいから手に入れておきたい。それにチカマの武器も買わないといけない。ジスコの細工屋で砥石を入手できた時は歓喜したのだが、結局は上手く砥げずに刃こぼれが残ったままなのである。


「神人様、一つでよければ譲ってくれると言っています。

 後ほど持ってくるとのことですが、いつになるかわかりませんので宿屋へお持ちいたします。

 どちらにお泊りですか?」


「それはそれは、お手数おかけします。

 泊まっているのは誠実にある宿屋ですね」


「誠実…… ですか?

 あそこには超高級旅館ともう一つは……」


「ああ…… その潰れそうなとこるに泊まっています。

 広場で声をかけられてついて行ったらすごいところで……

 まあでも泊まるだけなら問題なさそうですしね」


「あそこは不運にも空からワイバーンが落ちて来て潰されたんですよ。

 飼い主のテイマーはそのまま逃げてしまいましてね。

 そのまま廃業するかと思っていたのですが、まだ営業していましたか」


「そんな災難があったのですね。

 事故とはいえひどい話です」


「そういったこともあるので、王都への魔獣連れ込みは完全に禁止となりました。

 少し前までは小型は許可されていたのですけどね」


 とんだとばっちりだが仕方がない。でも魔封結晶入手の目途が立ってよかった。ラディとオカーデンに感謝である。


「それでは私はそろそろお暇しますね。

 街を見て回りたいとも思いますので、宿屋へいないかもしれません。

 その時はメッセージで呼んでください」


 ミーヤはそう言ってスマメを取り出す。ラディも快く承諾し、連絡先を交換したのだった。

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